更新日:2010年5月14日

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シンポジウム開催報告

OECD国際共同プログラム後援・生物多様性条約COP10記念シンポジウム
農林水産業に寄与する生態系サービスの持続的利用に果たす森林の生物多様性の役割
 

2010年4月26日~28日早稲田大学小野記念講堂において、本シンポジウムを開催しました。その報告やメッセージを掲載します。

シンポジウム報告

OECD国際共同プログラム後援・生物多様性条約COP10記念シンポジウム
―農林水産業に寄与する生態系サービスの持続的利用に果たす森林の生物多様性の役割―

オーガナイザー:岡部貴美子(森林総研)、イアン・トンプソン(カナダ森林局)

はじめに

2010年4月、OECDとゴルファーの緑化促進協力会の支援により、森林総合研究所と早稲田大学環境総合研究センターとの共催によって森林、アグロフォレスト、漁業の持続可能な管理に及ぼす生物多様性の影響を検討するためのシンポジウムを早稲田大学において開催した。本会の目的は、10月に開催される第10回生物多様性条約締約国会議および第16回気候変動枠組み条約締約国会議等の関連会議へ重要な情報を提供することであった。生物多様性の保全は持続可能な農林水産業にとって不可欠なものであると認識されてはいるが、その重要性を国内外の施策に反映させることは困難であった。これは多くの重要な研究成果発表が、学術目的に限定され専門分野に偏った会議でのみ行われてきたために、生物多様性のモニタリングや評価、利用促進のための手法を十分に展開させることができなかったことも一因である。

本シンポジウムではこのことに鑑み、理論や仮説検証に重きを置くのではなくむしろ、1)森林は、農林水産業にとって有用な生態系サービスにどう影響を与えるか、2)生態学、社会学、経済学的視点から、何が森林の生物多様性の減少を引き起こすといえるか、3)生物多様性条約ポスト2010年目標への貢献を目的として、政策立案者を含む科学者以外の人々と情報を共有するために、生態学、社会科学、経済学など様々な分野の科学者は協力し合いながらどのように森林のモニタリングを行うべきか、を示すことを試みた。本報告ではシンポジウム講演の概略について報告する。

シンポジウム参加者は、研究者、政策担当者、企業関係者、NPO/NGO等を含む170名に上った。シンポジウムでは当初の予定通り15名の講演者が講演を行った。これらの講演を元に、10月の締約国会議までに講演集の出版を行う予定である。

科学と施策のインターフェースに関する議論の概略

生物多様性研究が政策にどのような正の影響を与えるかについて例示

ほとんどの事例は人の消費や利用に直接結びつくものであった:

  • 森林―農地景観において残存しているあるいは近接している林分が、花粉媒介にとって正の影響を示すことは、里山における天然林の維持政策の必要性を示した。
  • 花粉媒介がうまくいかないと作物生産は著しく減少する―このことはコーヒー栽培などが例示するように、森林―農地景観や林分構造の重要性を示すものである。
  • 日本では侵入生物の研究を元に、外来生物法が作られた。
  • 生態系の全生物種を考慮しなかったために管理手法を変更せざるをえなかった実例を元に、食物網を考慮する重要性が示された。
  • FSCの認証は森林管理の実施において、政府の施策よりも強い影響を持つことがある。

科学が持続可能な森林管理の運営に果たす役割

  • 森林の生態系サービスの生産を支える生物多様性の理解の促進。
  • 熱帯林の管理と劣化した熱帯林生態系の回復のためのガイドラインの開発。
  • 林分単位のみならず大スケールの管理の重要性の提示。
  • 主要な基準と指標の開発(またこれに対する国際的合意)。
  • 森林生態系における機能的多様性維持が重要であるという理解―機能群の役割の理解―の普及。
  • ブラジルの採掘地、ブラジル大西洋岸林、サンジュアンの森林など森林回復の成功例を示す多くのケーススタディの報告。

政策形成における生物多様性への配慮の重要性を更に促進させる必要がある

  • 生物多様性が生態系サービスの基盤となり、また維持しいているというメカニズムの理解の促進。
  • これらのサービスの価値の解明と増大化。
  • 常に誤りを犯しては修正するというやり方をやめ、持続可能な管理をするという立場に立たなくてはならない。
  • 指標は重要だが個々の指標が示せることには限界がある。

シンポジウムからのメッセージと結論

重要な科学的メッセージ

  • 生物多様性は生態系機能を支え、回復力を増進させる。
  • 生物多様性は、人工林<二次林<天然林の順に増してゆく。
  • 人工林の生物多様性の増加によってサービスは増加する。
  • 多様な送粉者群は作物生産量を増加させる。
  • 作物生産現場に近接する天然林を含むランドスケープの多様性(不均一性)は送粉者を増加させ、生物防除(天敵)を通して害虫を減少させる。
  • 過度の土地利用は絶滅を招き、生態系サービスを減少させる。
  • 淡水および沿岸海洋生態系は土地利用の影響を受けることから、森林、あるいは水系というような個別のものではなく、総合的に順応的管理を行う必要がある。
  • 熱帯では老齢林の蓄積量はその他の森林タイプよりも大きく、気候変動やREDDプラスに対して明確に影響する。
  • 個々の資源ごとではなく生態系としての管理を考える必要がある。

SFMと森林の再生に関する科学的メッセージ

  • 人工林は人工林内の生物多様性の価値を高め、生態系サービス量を増加させるよう管理することが可能だろう。
  • 熱帯林は再生可能または再生を補助することが可能だが、ランドスケープの歴史的経緯が相当重要である。
  • 持続可能な森林管理のための8つの原則:複雑性、信憑性、連続性、不均一性、近接性、冗長性、復元力、独自性
  • 保護区、人工林、高度に管理された土地、水系などのすべての区域が相互のつながりを生かして適切に管理されるよう、森林ランドスケープの総合的管理をすべきである。
  • 生物多様性の管理と研究においては、複合的アプローチが不可欠である。
  • 生物多様性条約のエコシステムアプローチはSFMの促進のために利用できるかもしれないが、運営上の概念としてではない。

結論

  • 生物多様性は生態系サービスを支えている―生態系の劣化は農食料生産そしておそらくは漁業にも大きく影響するサービスの劣化を招く。
  • 生物多様性のメカニズムをより理解することで、より順応的な管理が可能になる。
  • 科学者による成果は、一般の人々、地域のコミュニティー、政策担当者へより効果的に普及されなければならない。
  • 科学者は生物多様性が緊急の課題であることを強調し続けなければならない。
  • 生態系サービスの価値付けは、政策担当者にとっては非常に重要なものである。
  • 管理目的は社会の要請と生態学的知見によって決定されるべきである。
  • 保護区域を土地面積の15%とする生物多様性条約のSBSTTA 14における戦略目標は、再検討が必要である。

 

 講演ファイル

第1日目:4月26日(月曜日)

基調講演

セッション1 生態系サービスからみた森林の生物多様性の価値

セッション2 森林がもたらす生態系サービスのゆくえ

第2日目:4月27日(火曜日)

招待講演

セッション3 森林生態系サービスを維持・利用するための戦略

セッション4 生態学からみた持続可能な森林経営

第3日目:4月28日(水曜日)

セッション5 国家的、国際的な戦略

コメント

とりまとめ

シンポジウムのアウトプット

 

 

 

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