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関西支場では新しい研究推進目標にそって、4つの経常研究(大課題7 中課題17 小課題32)のほかに7つの特別研究がすすめられている。これらの研究の内容と成果をわかりやすく紹介するため標本展示室の整備が行われ、このたび一応の完成をみたのでご利用願いたい。
展示コーナーは〈特設コーナー〉松くい虫の被害と防除〈常設コーナー〉関西地域の自然環境・森林など6箇所に分かれている。特設コーナーは特別研究などの成果がまとまるたびにテーマを変えること、また常設コーナーは研究の進展に応じて図表・標本をとりかえることになっている。
(前田)
阿部敏夫
森林が生産力を保つには、地力を維持する必要がある。そのためには、林地からの土壌や養分の流亡を抑えなければならない。森林が土壌流亡を防ぐという点で優れていることは、表-1の既往の成果からもよくわかる。
地被別 | 荒廃地 | 裸地 | 農耕地 | 草地・林地 |
年侵食土量 (mm) | 102~101 | 101~100 | 100~10-1 | 10-1~10-2 |
林地の年間侵食土砂量は、裸地や農耕地より1~2桁ほど小さい。それでは、林地では侵食が問題にならないかというと、決してそうではない。閉鎖したヒノキ純林では林床の植生が衰退し、土壌の流亡が発生することが知られている。とくに関西地域ではヒノキの造林面積が拡大していることから、ヒノキ林の侵食防止は重要な研究課題になっている。
昭和60年から始まった特別研究「低位生産地帯のマツ枯損跡地におけるヒノキ人工林育成技術の確立」では、ヒノキ林におけるアカマツの混交と林床ササの生育が土壌流亡防止に及ぼす影響を検討している。ここでは、その結果の一部を紹介する。
調査地は滋賀県栗東町にある26年生のヒノキ人工林である。この林分の中に、ヒノキ純林(純林区)、ヒノキ・アカマツ混交林(混交林区)、林床にササの生えたヒノキ林(ササ区)を設け、図-1のような装置で侵食土砂と流亡リター(落枝葉)量を測定している。なお、地質は花崗岩である。
図-1. 測定装置
各区の侵食土砂量を比較すると図-2のとおりで、ヒノキ・アカマツ混交林区はヒノキ純林区の5%、ササ区は10%に、また、流亡リター量は図-3のように侵食土砂量ほどの開きはないが、ヒノキ・アカマツ混交林区はヒノキ純林区の38%、ササ区は59%にそれぞれ減少している。
これらの結果は、ヒノキ純林へのアカマツ混交や林床植生の生育が、土壌やリターの流亡防止に効果があることを示している。とくに、アカマツとの混交は効果の大きいことが認められる。他方、当支場造林研究室の研究によるとヒノキとアカマツとの混交林は、ヒノキやアカマツの純林に比べて材積生長量の大きいことが知られているので、ヒノキ・アカマツ混交林は多くの利点があると考えられる。
吉岡二郎
山地に降った雨は、地表を流れ去る水を除いて、他は地中に入る。この水は土壌粒子の表面に吸着したり、粒子が集まって作られた大小さまざまな土壌孔隙中に入る。この場合粗い孔隙に入った水は下方への移動が早く、また細かな孔隙になるほど水は動きにくく、極めて微細な孔隙の水は、植物も吸収が難かしい。したがって、土壌水分が多いからといって植物に利用できる水分が多いとは一概にいえない。
このような土壌水分の状態は、降水や温度、土壌孔隙の粗さ、土層の厚さ、斜面の傾き、植生などの諸条件の影響を受けて変動する。それゆえ、これらの関係が正確に把握できれば、保水機能を考慮した森林造成が可能になる。
図-1は、斜面の上部と下部で測定した土壌の水分状態(pF価)*1・保水量*2と降水量との関連をみたものである。これによると、上部の水分状態は下部に比べて変化しやすく、降水状況や季節によって大きな差がみられる。8月から10月にかけて相対的に降水量が少なく、気温が高かった期間には上部の変化は特に大きく、乾燥したことを示した。しかし、保水量は下部よりも多く、斜面上部が乾燥しやすいというこれまでの考え方と一見逆の結果になった。この理由は、土壌が乾燥する場合は粗い孔隙の水から失われてゆくため細かい孔隙の多い上部の土壌が粗い孔隙の多い下部よりもおそくまで多くの水を保持できるためである。しかしながら年間の保水量では上部より下部の変動が少なく、はるかに安定している。これは上・下部の土壌とも蒸発散や下方への水分移動によって水を失うが、降雨以外に水の供給のない上部に比べ下部には他所から供給があるからである。
ところで、上部では蒸発散や下部への流出によって保水量の減り方が激しいが、降雨時には水分を失なった孔隙に貯水されるから、1降雨当り約60mm(下部の約2倍)の貯水例がみられている。このような場合の保水機能は斜面上部が下部のそれよりも高いといえよう。
*1 pF価: 土壌孔隙が水を保持している力を水柱に換算して自然対数で表わしたもの
*2 保水量:土壌の深さを1mと仮定し、pF価から算出し、降水量と同じmm単位で示した。
図-1. 土壌型別の水分状態(pF値)、保水量、降水量の関係 (京都営林署・鞍馬山国有林の例)
昭和61年度の林業技術開発推進のための、近畿・中国ブロック協議会が10月23日関西支場会議室において、67名が参加して開かれ、議事は次のように進められた。
各府県から提案された26課題について協議が行われ、このうち7課題をとりあげ、これを4課題に再整理して中央協議会へ提案することになった。
ブロック協議会の運営について今年度から次の点が変更になった。(1)会議は林野庁が主催するがその運営は支場長が総括する。(2)従来、単独に開かれていた林産合同会議はブロック会議に含めて実施する。(3)協議会においては、府県からの提案課題について重点課題の摘出を行う。
(長谷川)
ブロック協議会の翌日(10月24日)、70余名の参加者を得て下記のような内容の成果発表会が開催された。
林業試験場木材部長 筒本卓造
国産針葉樹材の需要拡大による林業・林産業の活性化のために、木材産業側では生産(加工)コストの低減と製品の付加価値向上が大きな課題である。後者に対し現在、建築用製材品の人工乾燥、プレカット、防腐処理さらに各種集成加工、単板積層加工などが進められている。これらの概要を紹介するとともに、とくに需要側の要望が強まり全国的に普及してきた人工乾燥について、乾燥装置、含有率測定法なども含め、現状と問題点、今後の対応について考えてみる。
育林部防災研究室 谷誠
当支場竜の口山森林理水試験地では、2つの小流域で流量観測が始められてから今年で50年になる。この間、皆伐、出火事、松枯損などの森林変化があり、その流出への影響が明らかにされた。現在は、この観測結果を一般的かつ定量的に応用するための流出モデル開発の研究、森林土壌の水源涵養機能に関する観測・研究などが進められている。今回は、既往の成果を中心に、今後の課題についても説明する。
保護部昆虫研究室 北原英治
西日本、特に近畿地域での獣類による林木被害の特徴として加害種の多さがある。種個々の取り組みが要求される鳥獣研究においては、種類の多さはそのまま問題の複雑さを意味する。今回は、これら林木被害の実態を、被害量の推移、被害形態と加害種の同定方法をも含めて解説し、併せて当研究室での取り組みについて報告する。
育林部経営研究室 黒川泰亨
最近、経営や生活の合理化が叫ばれるにつれて、しばしばオペレーションズ・リサーチ(OR)という言葉が聞かれるようになった。ORは、人的・物的に限られた資源を最大限に活用しようという要求のもとに生まれた手法の総称である。この手法の導入によって、次第に経営の精密計量化が可能となり、経営に関する各種の意思決定から「カンと経験」を排除しようとしている。OR手法は今後ますます多くの分野で導入されてゆくと思われるが、本報告では、森林経営の計画にたいするオペレーションズ・リサーチ手法の導入について解説する。
育林部造林研究室 河原輝彦
最近、ヒノキ林についていくつかの問題点が指摘されている。関西地域ではアカマツ枯損跡地にヒノキの植栽が非常に多くなっており、このような場所は土壌もあまりよくないために不成績造林地になる恐れがある。またヒノキ林の林冠が閉鎖すると、林床植生が消失するため、表土の流亡が起こりやすくなり、林地の悪化が心配される。このようなヒノキ林のいくつかの欠点を回避する一手段としてヒノキにアカマツを混交する方法があるので、混交したアカマツの働きについて話を進める。
司会 育林部長 大山根雄・保護部長 前田満
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