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研究情報No.11(Feb.1989)

巻頭言

風致林の育成・管理上問題となる森林昆虫類の研究の必要性

昆虫研究室長田畑勝洋

木材生産上は問題にならなくても、風致を保つ上で対策が必要な害虫は多い。昭和63年9月2日の朝日新聞(夕刊)に「嵐山早くも紅葉、虫害で全山枯色」という記事があった。秋でもない時期の紅葉は、嵐山に多いケヤキの大木の葉が大発生したヤノナミガタチビタマムシに食害され、老化現象を引き起したことによるものであった。ケヤキが枯れることはなく、また木材生産にさしたる影響は及ばなかったと考えられるが、森林の景観は著しく損なわれた。これらの害虫の個体数を適切に管理することは、風致林の育成・管理における重要な目標の一つとなる。

関西支所では昭和63年10月1日に風致林管理研究室が新設され、新たに地域の研究問題である「風致林及び都市近郊林の育成・管理技術の向上」に関する研究が推進されることとなった。

風致のための施業が、森林に生息する昆虫類やその天敵類にどのような影響を与えるかについて研究を進めると同時に、両者のバランスが経時的にどのように変化して行くかを見極め、森林昆虫類の生態的地位を明らかにすることが必要である。そして、このような風致林の維持機構に関する基礎的な研究の積み重ねによって、風致林が持つ公益的機能を解析・評価し、その増進技術を開発して総合的な管理技術の確立を図ることが問題解決の早道であろう

嵐山のヤノナミガタチビタマムシによる被害は12年前の昭和51年にも確認されている。昨年の大発生はそれ以来のものであった。現在では誘引剤を使用した越冬成虫の防除法が検討されている。

研究紹介

竹林の林内雨量は針葉樹林より多い

服部重昭

近畿・中国地方には約3.7haの竹林があり、竹材やタケノコ生産に利用されている。一方、竹林は都市や近郊に成立していることが多いので、都市域の環境保全株としてもその公益的機能の発揮に期待が寄せられている。ここでは竹林の水土保全機能の実態解明の一環として、関西支所島津実験林で昭和57年から3年間行った研究の成果から、竹林における降雨配分(林冠通過雨量、竹稈流下量、林冠遮断量の内訳)の特性を紹介する。

実験林(モウソウ竹林)内に試験区を設定し、そこに林冠通過雨量を測定する2m×4mの受水器を配置するとともに、試験区内の全木(17本)に集水装置を取付け、竹稈流下量を測定した。その結果、林冠通過雨量、竹稈流下量と降雨量の回帰関係は、図-1のような直線で近似された。このような関係は、これまで各地の森林で報告されているものと同じであるが、降雨量に対する各量の内訳には図-2に示すような差異が認められた。この図は年降雨量に対する林冠通過雨量、竹稈流下量および遮断量の年間量を割合で表わしたものである。なお、遮断量は降雨量から林冠通過雨量と竹稈流下量を差引いて求められる。

竹林の林冠通過雨量率はアカマツ林とヒノキ林の中間に位置し、その差は小さい。しかし、竹稈流下量はアカマツ林やヒノキ林より明らかに大きいことがわかる。そのため、林冠で遮断される雨水の割合、すなわち遮断率は約12%と小さくなる。一般に針葉樹林の遮断率は年率にして約20%といわれるので、竹林はその約6割に当る。竹林は針葉樹林より雨水を林地に落とし易いことになる。

この結果は竹の形態的特性と関係がありそうだ。葉面積指数が大きいにもかかわらず林冠通過雨量が多い理由には、桿・枝葉が弾力性に富むため、風で動揺することと枝の先端が下垂していることが挙げられる。竹稈が風でしなうのは、雨水を振り払うのと同じ効果をもつ。竹稈流下量が多いことには、枝が稈に対し斜上に張出し、雨水を集め易いこと、稈表面は疎水性のペクチン質の層で覆われ、平滑であり、雨水が流下し易いこと、が関係している。

竹林の遮断量が針葉樹林より小さいということは、水資源の確保の観点からすると、プラスの要因といえる。また、落葉は地表を全面的に被覆するので、少し強い間伐を実施しても地表面が裸地化し、土砂の流亡が起る危険は少ない。そのため、立竹密度を低くおさえる管理により、蒸発散による水消費を制限することも可能であろう。樹林とは違った竹林の特性を水保全に活用するため、水保全機能の全体像の把握が急がれる。

アカマツ林下に植栽されたヒノキの64年間の成長

家原敏郎

近年、複層林地業が注目されているが、下層木の成長経過を長期間にわたって調査した例は少ない。そこで、アカマツ林にヒノキを植栽し64年経過した二段林の調査結果から、植栽木の成長について検討を試みた。

この林分は奈良市内春日山樹林地に隣接する地獄谷国有林に所在する。1923年に、当時46年生のアカマツー斉林を択伐しヒノキおよびスギを植栽した。その林分内に1940年試験地を設け、上木がアカマツ、下木がヒノキの二段林施業を行ってきた。1940年でのアカマツの平均樹高は21.3mで収穫表の地位3等に相当する生産力の低い林分であった。調査はヒノキが17年生であった1940年以降、ほぼ5年または10年間隔で行い、アカマツを主体とした択伐を1940年と1965年に行った。

この林分は図-1の直径分布に示されるように典型的な二段林型を呈していた。アカマツとヒノキの平均直径、本数、成長率、林分材積および、択伐などによって収穫された材積の推移を図-2に示す。ヒノキの立木本数はほとんどの植栽木について胸高直径の測定が可能となった1949年以降、ha当り約1000本でほぼ一定であった。アカマツは1940年(林齢63年)にはha当り181本であったが、択伐と近年の松クイ虫被害により減少し現在では残存していない。ヒノキの直径はほぼ直線的に増加しており択伐を行う前の1960年には13.4cm(樹齢37年)、アカマツが無くなった1986年(樹齢64年)には22.1cmに達した。

この時のヒノキの平均樹高はそれぞれ10.1m、16.4mであった。樹齢37年時の平均直径と平均樹高は、ヒノキ林の収穫表の地位3等より劣っていたが、64年生時には反対にやや優った値を示した。材積も64年生時にヒノキだけで320.8m3/haに達している。

このようにヒノキの成長が樹齢40年を過ぎてから良くなったのは、上木のアカマツがとり除かれ、抑制がとかれたためだと思われる。これは樹齢47年以降の成長率が約5%と、極めて高い値を示していることからも裏づけられる。1986年までに択伐または松クイ虫の被害木伐採によって収穫された材積と1986年の材積の合計は722.3m3/haあり、これは林齢が同じ110年で3等地のアカマツの林分の約1.3倍である。従って地力の低い林分でのアカマツ-ヒノキ二段林施業は、林地の生産力増大の観点からみても好ましいと思われる。

コラム

北谷水文試験地

総合的開発研究「農林業における水保全・管理機能の高度化に関する総合研究」が、昭和63年度から6年間の計画で始まった。関西支所は「林地土壌の水移動メカニズムの解明」と「林地における水保全機能の解明」という課題の中で、寡雨乾燥地域を分担している。ここでは、広葉樹林の水保全機能の解明が一つの柱となっている。そのため、種々の広葉樹が混生する二次林に京都営林署との共同試験地を設け各種の水文観測を始めた。

試験地は京都府相楽郡山城町の北谷国有林509林班い小斑で、この中に1.6haの試験流域がある。現在、量水堰による流量観測のほか、流域降雨量、樹冠通過雨量、樹幹流下量の測定を行っている。これまでに水位-流量曲線式の作成と、土壌研究室の協力を得て、土壌調査を終えた。今後は、地形・植生調査に加えて、蒸発散や土壌水分の測定を行い、広葉樹林の水収支や水循環の特性を明らかにする予定である。また、侵食を受けやすい花崗岩地帯であるため、山腹斜面や流域全体からの土砂移動の実態を把握するフィールドとしても活用することを計画している。

(阿部敏夫)

風致林及び都市近郊林の育成管理技術に関する現地検討会

関西支所の研究課題の1つとして風致林及び都市近郊林の育成・管理技術が取り上げられたことを契機に、研究員が風致林、都市近郊林の概念について十分な認識ができるよう、京都市近郊に位置する東山、北山、西山の森林を対象とした現地検討会を昭和63年12月1日に行った。まず、市の中心部に位置する京都市役所屋上において、京都市風致課長から風致行政の概要説明を受け、遠望した場合の風致林の状況を観察した。その後、借景として重要な修学院離宮の後背丘陵を訪れ、近景としての風致林を見た。つぎに公園緑地としての保全施業が行われている宝ケ池公園、四季折々の森林の美しさを維持するための施業が行われている嵐山を視察した。最後に近年宅地開発が盛んな洛西地域における住宅地と緑地の分布状況を俯瞰し、生活環境保全のための緑地のあり方について検討した。これまで中心的な研究課題であった木材生産のための施業と風致林のための施業では、共通点もあるが新たに解明しなければならない課題も多い。今後もこの分野の討議を重ねていく予定である。なお、現地検討会の開催にあたっては、京都市、京都府、京都営林署にご協力を頂いた。

マツバウンラン
-居心地がよいわけは-

Linaria canadensis (L.)Dum.(写真):北米原産の帰化植物でゴマノハグサ科の1~2年生草本。1941年に京都で発見され、今は瀬戸内沿岸に広がっている。しかし一般には珍しい。関西支所では10数年前から目立つようになった。その頃宇治川の川原の土を客土しており、土とともに種子が持ち込まれたらしい。日当りのよい松林の緑や苗畑によく群生する。4~5月に高さ30cm位の花茎を立て、きれいな紫色の花を咲かせる。生育期間は11月から翌年5月まで。多くの植物が夏を中心に育つのとは異なる。おかげでライバルは少なく、夏の草とりの手からもうまく逃れる。

(清野嘉之)