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研究情報 No.15 (Feb. 1990)

巻頭言

地球規模の環境問題と地域研究

支所長 有光一登

周知のように、酸性雨、温暖化、オゾン層の破壊、熱帯林の減少など、地球規模の環境悪化が最近特に目だつようになった。これらの問題の多くは地球全体の森林・林業の現状と直接・間接に関わりを持ち、また国内の、あるいは地域の研究課題とも無縁ではあり得ない。酸性雨については、欧米の森林衰退が著しい地域とほぼ同じレベルの酸性雨が、日本各地でも降っていることが確認されている。土壌の緩衝能、気象条件、樹種などの違いを考慮にいれながら、地域の身近な森林に現実に降っている酸性雨が、どのようなインパクトを与えているのか、目に見えない変化は起こっていないか、今のところ森林の衰退や湖沼の酸性化が顕在化しないのは何故なのか、などについて詳しい調査研究を実施し、将来の予測をする必要がある。環境庁によって進められている酸性雨の森林への影響のモニタリング調査に続いて、林野庁でも全国規模での森林の影響調査を計画中と聞いており、関西地域の各府県でも調査が実施されることになると思われる。こうした調査がきっかけになって、地域の森林の樹木や土壌、水質などの変化が、長期にわたって継続的に調査され、変化のメカニズムが明らかになることを期待したい。このような地域の情報が全国規模、地球規模での情報の比較対照にも役立つことになる。

地球の温暖化については、その原因である二酸化炭素の放出量を抑制する対策として、化石燃料の大量消費の縮減や代替エネルギーへの転換などが、いずれも速効的手段として期待できない中で、莫大な二酸化炭素同化能力をもつ森林に期待がかけられ、近年大幅に減少している熱帯林を再生する努力が進められている。しかし一方では、熱帯の開発途上国の爆発的人口増加にともなう、熱帯林の農耕地などへの転換に急ブレーキをかけることは困難だとみられている。二酸化炭素の大量回収者としての森林の維持・育成を、熱帯の開発途上国だけに押しつけることはできない。先進国でも地球規模の視点に立って、それぞれ自国の中で二酸化炭素同化能力の高い、活力ある森林を育成し、二酸化炭素回収に努力すべきである。

関西地域には畿陽アカマツ林帯といわれる生産力の低い森林地帯がある。この地帯の森林は、さしあたっては用材生産には適していなくても、水土保全、風致、保健休養などの公益的機能をもつ都市近郊林としての存在価値はきわめて高い。このような森林を地域の緑資源として高度に利用するために、保全・管理手法を開発する研究をすすめなければならないが、こうした研究に、二酸化炭素回収に寄与する活力ある森林を育成するという視点も盛り込みたいものである。林業先進国として、このような地球規模の課題に地域からも積極的に寄与するという姿勢が、今後ますます必要になると考える

研究紹介

熱帯のマツは1年中成長しているのだろうか?

加茂皓一

熱帯マツ林の成長の季節性はまだほとんどわかっていません。ここではタイ国のケシアマツ林、メルクシマツ林とカリビアマツ林で、成長の季節変化を調べた結果を紹介します。なお落葉量の調査も同時におこないました。成長量の測定は、各面走調査区内の約10本の立木にデンドロメータを取り付け、また落葉量の測定は、各調査区内に1メートル四方のトラップを12個設定して実施しました。測定は15日間隔でおこない、現在も継続中です。ここでは1988年1月から1989年5月までの測定結果を述べます。

3樹種の直径成長の季節変化は図1のようです。樹種による成長量の多少はありますが、3樹種ともおおむね同じ成長経過をたどりました。成長量は、7、8月から増加し、9、10月にピークに達した後、減少しました。調査地の雨量の季節変化(図2)を見ますと、5月から10月までは月によってバラツキはありますが雨量が多く、11月から2、3月までは降雨がほとんどありませんでした。熱帯では月雨量が50-60mm以下になると、ふつう植物の成長が停止するとされています。調査地では11月から4月までが植物の生育不適期にあたります。この期間これらのマツ類は、年によって一時成長を止めるものもありましたが、おおむね成長を続けていました。同じ時期に測定した広葉樹類は1、2月から4月まで成長をほぼ完全に止めたことから、これらのマツ類の乾燥に耐える力の強さがわかります。熱帯では月雨量が100mm以上だと植物の生育には十分だとされています。事実広葉樹では月雨量が100mm以上になる5、6月には成長量が著しく増加しました。マツ類でもこの時期に成長量が増えても良さそうですが、実際には目立った成長量の増加は認められませんでした。マツ類ではなぜ降水量の多いこの時期に成長が増えないのでしょうか。これにはどうも、これらのマツ類の落葉の季節変化が関係しているようです。3樹種の落葉の季節変化を調べたところ、3樹種とも、温帯のマツ類と異なり、落葉の大きなピークが乾期末の4月に現われました。これらのマツ林では4月の大量落葉以降、葉量が減少し、新葉が伸長し回復するまで少し時間がかかりました。したがって、その間幹の成長はあまり期待できないと考えられます。

以上のようにこれらのマツ類は降雨のない乾期でも、年によっては成長を停止するものもありますが、少ないながら成長し、ほぼ1年中成長を続けました。そして成長量の時期的な増減に対して降水量の多少は巨視的には影響しているとしても両者の間にはきれいな対応関係は見られませんでした。熱帯モンスーン地帯で主要樹種の成長の季節的な変化についての研究は緒についたばかりです。これから調査が進むにつれて、雨量の年変動が大きい熱帯モンスーン地域での主要樹種の年成長と年雨量との関係あるいは成長と土壌水分の季節変化など森林造成を進めるための基礎的な資料が収集されるでしょう。

竹林の土壌呼吸

井鷺裕司

土壌呼吸とはおかしな言葉です。生物でない土壌が呼吸をしているのでしょうか。

土の中にはたくさんの細菌、菌類そして地中動物などが生活していて、それらが呼吸をするため、二酸化炭素が土壌から大気中に放出されます。また植物の根からも呼吸の結果、二酸化炭素が放出されます。このような現象を総括して生物の呼吸にたとえ、土壌呼吸と呼んでいます。

植物の根が呼吸できるのは、その植物体の葉の光合成同化産物があるためであることはいうまでもありませんが、菌類や地中動物が活動し呼吸できるのも、もとはといえば植物が生産した枯葉や枯枝などを利用しているからにほかなりません。従って、土壌呼吸は、森林や草原といった生態系レベルで、植物の光合成同化産物の流れを調べる場合に非常に重要な項目となるのです。

ある森林の同化物の流れを調べることは、その取扱いを考える上で大切なことです。スギ・ヒノキの人工林やいろいろな広葉樹の天然林ではこのような研究が詳細になされてきました。しかし竹林では、その分布の広さや利用価値ほどには研究がなされていないのが現状です。

土壌呼吸を測定するのに現在最も簡単で広く用いられているのがアルカリ吸収法と呼ばれている方法です(図-1)。適当な大きさの円筒を調査林分の林床に設置し、円筒の中にアルカリ溶液を入れます。アルカリ溶液はシャーレに入れたり、あるいはスポンジに吸収させることもあります。その後、円筒に蓋をして1日程度放置します。土壌中から円筒内に放出された二酸化炭素は、アルカリ溶液と反応し、吸収されます。このアルカリ溶液を回収し、適当な酸性溶液を用いて滴定すれば、アルカリ溶液に吸収された二酸化炭素の量を求めることができます。

図-2にはモウソウチク林で年間を通して土壌呼吸を調べた結果を示しました。土壌呼吸速度は冬に低く夏に高いという傾向を示し、気温と密接な関係があることが明らかです。

一年間の気温の変動から一年間に竹林の林床から放出される二酸化炭素の量を計算してみると、モウソウチク林でヘクタールあたり50トン以上、マダケ林で40トン以上になりました。このような値は、スギ・ヒノキ人工林の土壌呼吸量に比べると著しく高く、保存状態のよい照葉樹林に相当することがわかりました(表-1)。このような莫大な土壌呼吸量が竹林全体の同化産物の流れの中でどの様な役割、位置を占めているのか更に詳しく調べなければなりません。

 

表-1 日本で報告されている土壌呼吸速度
  土壌呼吸速度 報告者
(tCO2/ha・年)
スギ林 14.0 千葉・提(1967)
ヒノキ林 7.4 千葉ほか(1968)
アカマツ林 11.2 - 13.6 千葉・提(1967)
アカマツ林 46.0 Nakane et al. (1986)
ブナ・ウラジロモミ林 18.0 中根(1980)
落葉広葉樹林 12.9 千葉・提(1967)
落葉広葉樹林 19.1 - 29.7 酒井(1988)
常緑広葉樹林 33.6 - 57.0 桐田(1971)

コラム

森林レクリェーション
オリエンテーリング

前回はオリエンテーリング(略称OL)のあらましと日本での状況を述べた。今回はOL大会が企画されてから開催されるまでを、地元との関係を中心に述べる。

大会が企画されると、まず最初に大会を開く山林を探す。広さは1500ha程度が目安である。人工林など走りやすい林が含まれること、地形が緩やかなこと、更衣所となる施設があることなどが条件となる。良い山林が見つかると地元との交渉に入る。了解が得られれば、本格的な準備に入ることができる。

次にOL用の地図を作るための調査を行う。地図はOL用の特別のもので、特徴的な地形、物は1mの大きさのものでも載っている。これは大会主催者が作る。調査は都市計画図や山林図をもとに、地形や特徴物を調べるだけでなく各林分の走りやすさも調査する。

地図ができるといよいよコースの設定を行う。距離、登はん距離、立入禁止区域などを考慮する。その際、数年生の植林地は立入禁止区域としている。試走も数回行い結果を参照する。スタート、ゴール等、人が集中する林分が決まるとその所有者の了解を求める。

ここからは、直前準備の段階である。大会当日にはコースの途中に目印としてコントロールフラッグ(写真左)が設置されるが、それを設置する際の目印として木にナイロンテープとビニールテープを巻きつけて目印とする。その際雑木に巻くように心がけているが、やむを得ない場合には植栽木に巻きつけている。その間せいぜい2~3週間であり、大会主催者が責任持ってはずすので山林所有者の方々のご理解を求めたいところである。

無事大会が終わるとナイロンテープ、ゴミ等山林に持ち込んだ物を全て持ち帰ってあとかたづけをする。

OL大会の開催には数年もの時間と今回近べた以外に数倍の労力を要する。しかもその全てはボランティアに依存している。そのため社会人による大会運営には限界があり、学生運営による大会も重要な役割を果たしている。大会終了後も資金回収のため地図は販売され、地元の了解が得られれば、練習会が開かれる。

(玉井幸治)

花粉症の季節

毎年、春先になると憂欝になる人も多いと思います。今年も花粉症の季節が近づいてきました。花粉症の主犯といわれるスギの花はサクラやウメなどと比べて、およそ花らしくない姿をしていますが、花粉の生産量は比較にならないくらい多いようです。スギの雄花は、枝の先方に多くつき、数十個の花が集まって米粒くらいの褐毛の粒を形成しています。この米粒くらいの中に数十万個の花粉が入っているといいますから、1枝あたり、1成木あたり、1林分あたりと計算してゆくと、花粉の数は天文学的な数字になってしまいます。

スギの花粉は風にのって遠くまで運ばれることも特徴のひとつです。サクラやウメの花粉が、虫によって運ばれ受粉するため虫媒花と呼ばれるのに対し、スギなどは風媒花と呼ばれます。ほとんどの針葉樹と、ブナ科やカバノキ科の主な樹種が風媒花の仲間に属しています。これら風媒花の花粉は数十キロ、時には数百キロの距離を風によって移動します。それで、スギの生えていない都会のまん中でも花粉症に悩む人が多いわけです。

スギの開花中には、どのくらいの数の花粉が空中を漂っているのでしょうか。スライドグラスにグリセリンを塗り(1×1センチ)、支所構内で地上約1.5メートルの高さに水平に設置し、グリセリンに付着した花粉の数をカウントするという方法で調べてみました。屋外では1日あたり1000~4000個、研究室内では(窓は閉めきってある)0~10個という結果でした。この数字は、風力や風向によって大きく違い、また雨の日にはほとんど花粉は飛ばないようです。

ですから花粉症の対策としては、春先には外出をひかえ、やむなく外出する場合はできるだけ雨の日、風の弱い日を選ぶという方法が考えられます。しかし、一般的にそんなことができるはずはなく、症状のひどい人はお医者さんに行くしかないでしょう。

(鳥居厚志)