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鳥獣研究室長 北原英治
1. 設置の背景
野生動物の話題は、一般的には自然度の高い森林が豊富に残る東、北日本のものと思われがちです。しかし、野生動物のなかには人工林化の進んだ西日本において森林環境の変化にも巧みに適応し、したたかに生存しているものがあります。かれらは森林における深刻な被害問題や劣悪な環境での動物保護の問題を引き起こし、これらの地域ではより以上に地域性に富んだ話題を提供しています。加えて、古くから都市化が進み、森林域と人々の居住域が接近しているこの地域ではバードウオッチング等、森林に棲む野生鳥獣に関心を持つ市民が増えてきています。
2.研究室の研究目標
西日本における野生動物の森林被害の多さはすでに「森林総合研究所関西支所研究情報No.5」で紹介されていますが、実に多種類の動物が被害を起こしています。それらは、かれらの森林環境への適応の一つとしての“形”で、かれらの生活には必然的な行動であり、防除の難しい場合が多いのが実状です。しかし、野生動物との共存を図るためには、まず被害を回避・軽減することが不可欠です。そのため、森林でのかれらの生息条件・被害発生条件を、森林に手を加えることによって取り除く技術の開発を一つの研究目標とします。次に、地域の個体群として存続が危惧されている野生動物の多い西日本では、森林の持つ公益的機能持」機能の解明や生態系の保全技術の開発が待たれており、これをもう一方の研究目標とします。
研究室の設置に際し、地域の府県からのご協力に深謝しますとともに、より一層のご指導・叱責を御願いします。
前防災研究室 小林忠一
防災研究室 玉井幸治
例年、春先を中心に林野火災のニュースを聞きます。昨年3月に日立市で発生した林野火災が、民家にも延焼した例は記憶にも新しいでしょう。資産的な被害のみならず、不幸にして消火活動中の被災者が発生する場合も少なくありません。このような被災を防ぐためには、林野火災の延焼拡大機構速度に関する研究は欠かせません。
そこで傾斜、可燃物量、可燃物の種類が延焼速度に及ぼす影響を実験的に調べましたので、成果の一部を紹介してみましょう。
延焼実験に使用した人工斜面は図-1に示すように片斜面長180cm、幅100cmで、傾斜角は0、25、35、45度の4種類、この上に敷く可燃物の種類はテーダマツとコナラの落葉2種類、可燃物量は0.5、1.0、1.5kg/m2の3種類をそれぞれ設定しました。実験は斜面の下端に点火し、火災が斜面を上る場合(上り火)と反対側の斜面を下る場合(下り火)について、その進行速度を測定しました。上り火と下り火を比較した場合、上り火の方が延焼速度が圧倒的に大きくなります。そのため危険性も上り火の方が圧倒的に大きくなります。したがって、以下では上り火について、傾斜角と、可燃物量、種類が延焼速度に及ぼす影響を説明します。
1. 傾斜角の影響
テーダマツ、クヌギとも傾斜角が大きくなるに従って、上り火の延焼速度も増加します。しかもその増加程度は指数関数的です。45度の斜面の延焼速度は、0度の実に27倍にも達します。このような傾斜角と延焼速度の関係は、傾斜角が大きくなると、立ち上がった火炎は斜面との距離が近くなるので火炎からの伝熱量が増加し、可燃物の着火が促進されるためと推定されます。また、火炎や上昇気流が斜面に吸い寄せられる「コアンダ効果」も考えられます。
2. 可燃物の種類の影響
クヌギの延焼速度は、一部を除いて、テーダマツの延焼速度よりも大きな値を示します。その理由として堆積密度の影響が推定されます。堆積密度を比較してみると、テーダマツは常にクヌギよりも15%程度大きな値でした。つまり落葉の形状から堆積した落葉中の隙間はクヌギの方が多くなる傾向があるので、それだけクヌギの方が空気の供給が容易になって延焼速度が大きくなるものと思われます。このことは樹種や落葉の堆積形態が延焼速度に影響を及ぼすことを示唆します。
3.可燃物量の影響
可燃物の量と延焼速度を比較すると、1.0kg/m2の時の延焼速度が3種類の中では最大となりました。1.5kg/m2に可燃物量が増加すると逆に延焼速度は減少しました。その理由には可燃物の表層と下層の間で延焼時間に差が生じるため、可燃物量の増加が短時間の発熱量の増加に結びつかず、そのために延焼速度が増加しないと考えられます。
鳥獣研究室 山田文雄
植物を餌にする草食獣類には、数グラムの体重のげっ歯類(例えばカヤネズミ)から数トンの長鼻類(ゾウ)まで多くの種類が進化過程で生まれました。それは植物の種類や部分によって栄養の質やエネルギー効率などが異なり、それぞれを利用できるように様々な動物が適応した結果です。草食獣にとっての“食物”を考えた場合、ふつう生息地には低品質の食物が多量にあり、比較的手に入りやすい状態にあります。このような食物を利用できるよう、形態的、生理的、さらに行動的に特殊化した動物の一種として、ウサギ類があげられます。
ノウサギ(Lepus属)は体重2~5kgぐらいの小型草食獣で、その生息密度は比較的低く、夜行性単独生活者です。分化のない胃(単胃)、よく発達した盲腸、結腸分離機構および食糞性などの特異な消化システムを持っています(図-1)。ノウサギにとっては、低品質の食物を消化して必要なエネルギーにするために、「採食量の増加」と「排出量の減少」をいかに効率良く行うかが重要な課題となります(図-2)。すなわち、小型獣ほど高いエネルギー要求量を満たすために採食速度を高める必要がありますが、消化管における微生物発酵には比較的長い時間を要するという矛盾した問題をかかえています。これを解決する消化機能として・上記の特異な消化システムがあげられます。
採食された低品質の食物は胃腸でおおまかに栄養を吸収された後、盲腸内での発酵に適さない大きな食物粒子は結腸分離機構により選択され、糞(硬糞)としてすばやく排出されます。一方、発酵に適する小さな食物粒子は盲腸内に送られ、ゆっくりと微生物により発酵された後、栄養価の高い盲腸内容物(軟糞)は再度食べられます。このように消化管における食物粒子の選択というみごとな方法で、消化管通過速度を速めつつ、かつ必要なエネルギーを効率よく獲得しています。
このような消化システムを支えるには、利用できる餌メニューを多くすることが必要です。実際、ノウサギの餌メニューはイネ科や草本類などの葉、木本類の若葉や若枝、樹皮など非常に多種類の植物にわたり、しかも手に入りやすいものが多いのです。また、利用している食物の栄養価も、必ずしも高品質の食物だけでなく、低品質の食物も結構多い。さらに、採食量も多く、採食時間も長い。1日の採食量は体重の5~l0%、胃内容量は体重の1~6%に相当し、空腹になることは常にありません。また、絶え間なく採食を繰り返すため、1日の活動時間に占める採食時間は20~50%と長くなります。
ウサギ類の中では、ノウサギは高い走行(運動)能力と大きな体を持っています(図-2)。これは「大量の採食」と「消化管容量の増加」を促進させる意味があります。採食時間を長くすることは、捕食の危険や消費エネルギーの増大という問題も起きます。しかし、対捕食戦略的にも、またより多くのエネルギーを獲得するためにも、餌資源を拡大した方がより有利になると思われます。ウサギ類の中で、ノウサギは最も劣悪な自然環境にも生活し、また広範な分布をしていますが、その理由の一つとして、このような採食適応があげられます。
初夏の頃になると木の葉が茂ってしまうので森林の鳥の姿は見にくくなります。そのかわり、さえずりの季節になるので、森を歩いていれば鳥の声を聞くことも多くなるでしょう。鳥の鳴き方を意味のあることばにおきかえて記憶に役立てることを「聞きなし」といいます。これから、その聞きなしをいくつか紹介してみましょう。
(伊東宏樹)
(参考文献)
川村多実二 (1947) 「鳥の歌の科学」臼井書房. 直接参照したのは中央公論社(1974)。
志村英雄 (1991) 野鳥の聞きなし.野鳥538号: 20ぺ一ジ
(イラスト: 瀬川也寸子)
新築要求をしていた風致林管理実験棟延260m2がこの度完成しました。この施設は木造2階建、集成材を利用し風致的にも優れた建物です。1階は風致林管理研究室、2階は会議室として利用されます。
森林総合研究所の研究基本計画に基づき、関西支所が掲げる2つの研究問題に関する研究検討会が2月24日・25日の2日間、研究推進会議は2月28日いずれも支所会議室で開かれました。
研究実行課題のうち14課題が計画通り完了し、得られた成果は整理され、問題の残された課題は新規課題へ発展的に移行することとなり、これらを含め8課題が新規課題として研究が開始されることになりました。 森林総合研究所の研究基本計画に基づき、関西支所が掲げる2つの研究問題に関する研究検討会が2月24日・25日の2日間、研究推進会議は2月28日いずれも支所会議室で開かれました。
また、3月6日には平成3年度からスタートした関西支所中心のプロジェクト研究「緑資源の総合評価による最適配置計画手法の確立に関する研究」(略称「緑資源」)の研究推進会議が、農林水産技術会議・兵庫県および本所の関係者を含め支所輪講室において開かれ、初年度の報告と今後の研究の進め方が確認されました。
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