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研究情報 No.27 (Feb. 1993)

巻頭言

森林の大面積長期研究の取り組み

造林研究室長 加茂皓一

最近、天然林の生態や遷移の研究方法に新しい潮流が現れています。それは空間的にも時間的にも巨大な広がりを持つ森林の実像に迫ろうという新しい調査・研究方法の導入です。今までの天然林の研究では、森林の組成・構造が比較的一様とみなされる部分に小面積の調査区を設定し、その生態や遷移の調査を行ってきました。その調査の結果、部分的に抽出された森林のモデルは描けても、それが森林全体を反映しているとは限らなかったのです。なぜなら実際の森林は、局所変化に富む異質な部分の集合体だからです。そこで森林の全体像を把握するため、数ヘクタールから数十ヘクタール規模の大面積調査区を一つの森林を対象に作るようになってきました。一方、時間スケールの長い森林の更新や動態の研究においては、樹木の年輪情報の解析や発達段階の異なる森林の比較的短期間の継続調査から、森林の動態を推定してきましたが、それらの実証は大きな問題です。長期にわたって調査を続ける事によってのみ、実際の森林の遷移過程が明らかにされるでしょう。つまり、これらの大面積調査と長期継続調査を同じ森林で行うことにより、空間的、時間的に巨大な森林の構造や遷移過程がより具体的に明らかにされると考えられます。

大面積長期継続研究は、すでに熱帯や温帯の森林でいくつか進められています。その雛型は、1980年に50ヘクタールの調査区が設定されたパナマのバロ・コロラド島の熱帯林に求められます。そこでは胸高直径1・以上の全立木の胸高直径、種名、位置関係の記録という、いわば森林を構成する個々の樹木の戸籍作りが行われ、現在定期調査が続けられています。このような研究方法は、膨大な時間と労力を要します。けれども一度調査区を設定してしまえば、大きな成果が期待できます。例えば、小面積調査区では調べにくかった森林のモザイク構造の実態が明らかにされるでしょう。森林の遷移に大きく関わっている自然撹乱が、森林の動態にいかに影響するかを実際に評価することもできます。また小面積調査では見過ごされがちであった少数派樹種を含めたいろいろな樹種の細かい生育・立地特性が解明され、その結果、将来林業的に活用可能な樹種が見いだされる可能性もあります。現在日本を含めて世界各地で大面積調査区のネットワーク化も進行中です。ネットワークが完成し、調査が続けられれば現在天きな問題になりつつある地球規模での環境問題と森林との関わりついて多くの情報が得られるでしょう。

関西支所造林研究室でも京都営林署の御協力を得て、銀閣寺国有林の落葉広葉樹二次林で比較的大きな調査区を設定し、長期継続調査をめざし群落構造や動態の調査にとりかかっています。

研究紹介

穿孔性害虫に対する針葉樹の抵抗性

昆虫研究室 伊藤賢介

針葉樹の枯死・衰弱木で繁殖する昆虫は非常に多いのですが、健全な生立木に寄生する昆虫は稀れです。これは、生立木には害虫の侵入を阻止する強力な抵抗性があるためと考えられます。そこで、スギ・ヒノキ穿孔性害虫問題の今後の研究方向の参考とするために、mountain pine beetle(以下「MPB」)というキクイムシに関するアメリカでの研究結果を紹介します。

MPBは北米西部に分布し、毎年470万m2以上のマツを枯損させている重要な害虫です。成虫は夏に枯死木から脱出します。そして雌成虫が健全なマツの樹皮下に穿入し、集合フェロモンを放出して雌雄成虫を誘引します。大量の成虫が誘引されると、続いて抗集合フェロモンを放出してマツへの集中攻撃を終えます。樹皮下で交尾した雌は母孔を形成して産卵します。成虫の攻撃によって既に枯死したマツの樹皮下で幼虫は内樹皮と辺材表面を食べ、翌年に成虫となって脱出します。

一方、攻撃を受けるマツの反応について検討してみます。マツの内樹皮と辺材には良く発達した樹脂道があり、成虫の穿孔によって樹脂道が切断されると樹脂が坑道内に流れ出し、成虫の侵入に対する最初の障壁となります。内樹皮に侵入した雌成虫がこの樹脂を排除できなければ、孔道から外へ押し出されるか樹脂にまかれてしまいます。またさらに、成虫の内樹皮への侵入に対して誘導抵抗反応を示します。この反応では、孔道の周辺に壊死部が形成されて傷害部は他の生組織から隔離されます。壊死部には、柔細胞によって生産された樹脂やフェノール類など壊死部に特異的な物質が浸漬します。この樹脂は卵と幼虫に対して強い毒性を示し、壊死部ではMPBは生存できません。

以上のようにMPBに対するマツの抵抗性は、MPBの攻撃とは無関係に存在している「樹脂道系」と攻撃を受けてから始動される「誘導抵抗反応」という2つのシステムから構成されています。

このように、成虫は穿入したマツが枯死しなければ繁殖できないのですが、マツの生死は成虫の穿入密度によって決まります。誘導抵抗反応は大量のエネルギーを消費しますので、マツの抵抗能力には一定の限界があります。攻撃密度が低い時は、マツの抵抗反応は非常に有効であり、成虫は繁殖できません。しかし成虫密度が高まるにつれて反応は低下し、さらに高密度になるとMPBの繁殖に対して何の悪影響も与えなくなります。マツの潜在的な抵抗性がどれほど強くても、高密度の成虫が攻撃すれば、マツはすべて枯死してMPBの好適な繁殖場所となるのです。一方、低密度時のMPBは衰弱木だけを利用していて、生立木を枯死させることはありません。低密度個体群では生立木の抵抗性を打破するのに十分な数の成虫がフェロモンの誘引範囲内に存在しないからです。

スギ・ヒノキの場合、マツに見られる正常な樹脂道を欠いていますが、スギカミキリなどの侵入に対して内樹皮に傷害樹脂道を形成します。これも誘導抵抗反応のひとつと考えられます。今後は、スギ・ヒノキの抵抗能力と害虫密度との関係について定量的に調べてゆく必要があります。

100年伐期ヒノキ人工林施業の収益性

経営研究室 家原敏郎

近年、木材の価格は長期にわたって低迷していますが、大径材が相対的に高価格を維持していることと、労働力が省力化されるため、長伐期施業の有利性がいわれています。しかし、高齢級林を主伐した時にどのような材がどれだけ採れ、その収益性がどうであるか検討した報告はあまりありません。高野山国有林では平成2年1月に、過去の施業履歴が明らかな林齢98年のヒノキ人工林が伐採されました。そこでこの林分について植林から伐採に至る1伐期間の育林費、供出・輸送費、素材の収穫量および売り払い金額を調査し、施業の収益性を検討しました。

林分は、和歌山県伊都郡高野町高野山国有林44林班にあり、面積は0.77haでした。植栽密度は5000本/haで、表-1のように十分な手入れが行われてきました。地位指数は約12であまり成長が良好ではありませんが、林齢が60年を過ぎても成長が衰えなかったため、主伐時には平均胸高直径30.4cm、立木材積が522.4m3/haに達しました。

材が大経で高価値であるため、品質が良く末口で20cm以上が期待できる立木は積極的に長尺に採材され、数本から1本単位の小口に分けて販売されました。高野山国有林のヒノキは高価格で取引されることもあって、平均素材単価は160,410円/m3、素材材積412.4m3/haの価額は合計約8,384万円/haとなりました。材長別では、素材材積の39.3%を長尺材(8m、7m、6m)が、また元玉が49.7%を占めました(図-1)。長尺材を3mないし4mの材に切って販売した場合の価額を推定すると、約1,350万円/haの減少となり、ヒノキでは長尺材を採材するのが有利であることがわかりました。

表-1から内部収益率(利回り)および森林純収穫(Σ(主・間伐収入-費用)/伐期年数)を求め、長伐期施業の収益性を検討しました。間伐収益を考慮しない場合、物価・賃金の上昇を考慮しない名目の値では内部収益率は16.61%、森林純収穫は814,701円/ha・年と大変局くなりましたが、過去の育林費用を賃金指数で現在の時点での価格に換算した実質値では内部収益率は4.41%、森林純収穫は798,764円/ha・年となりました。成長モデルによる伐期が80年以下の林分の収益性と比較した結果、本林分のような長伐期施業がやや有利であると考えられました。

表-1.施業経過と収支
林齢 施業 収益・費用 林齢 施業 収益・費用
(円/ha) (円/ha)
0 新植 -17.299 20 蔓切り -1.820
1 下刈り -0.669 20 枝打ち -3.755
2 下刈り -0.883 20 除伐 -1.373
2 補植 義務 23 除伐 -1.347
3 下刈り -0.881 24 枝打ち -6.975
4 下刈り -0.946 29 除伐 官行
5 下刈り -1.182 31 枝打ち 官行
6 下刈り -1.749 43 間伐 -21.446
7 下刈り -1.837 58 間伐 7,740*
8 補植 -0.229 63 間伐 10,795*
14 蔓切り -0.425 73 間伐 337,908*
15 除伐・枝打ち -7.985 98 伐採・搬出 -3,999,494
15 下刈り -0.145 98 素材価額 83,840,293
正値は収益、負値は費用を表す、*: 推定値
photo
図-1. 末口径・材長・品等別の素材材積
小: 末口径5~13cm, 中1: 同14~16cm, 中2: 同18~28cm, 大: 同30cm以上

コラム

新語紹介
ランドスケープエコロジーとは?

風致林管理研究室 杉村 乾

最近ランドスケープエコロジーという言葉を時折耳にするようになりました。英語を直訳する形で景観生態学と呼ばれることがあります。しかしこれは誤解を招きやすい用語と言えます。というのも、「景観」は通常、「風景外観、ながめ」または、それらの「美しさ」という意味で用いられます。これに対し生態学は、生態系を構成する生物的・非生物的要素(気候、地形、土壌有機養分等)の間のダイナミックな相互関係を扱う学問です。両者を組み合わせれば、風景外観がいかに形成されるか、その過程(例えば、あるシイ林の外観的遷移過程)を明らかにする科学となるでしょう。しかしこれでは、ランドスケープエコロジーと従来の生態学との間に、それほど違いがあるとは言えません。ではランドスケープエコロジーはどのような特徴を持っているのでしょうか。従来の生態学は対象の生態系を一様なものとして扱い、異質な部分(例えば土地利用形態、植生などの違い)との相互関係については、系外からのあるいは系外へのインップト・アウトプットとして処理されてきました。しかし、ランドスケープエコロジーでは対象の生態系全体が異質の部分で構成されています。例えば、農耕地の中に防風林、道路、河川・水路等が散在するランドスケープ、あるいは木材生産目的の一斉人工林の中に林道、渓流、天然林等が散在するランドスケープなどです。

こういった異質な部分の「分布のパターンや面積が、対象の生態系全体の構造や機能にどう影響するか」を明らかにするのがランドスケープエコロジーです。例をあげれば、広葉樹天然林が主要な生息場所である希少種の生息数や個体群の構造と、ランドスケープ(島状に残された天然林の面積や形状、天然林間の距離、天然林と人工林の境界の距離・形状、道路による生息域の分断等)の関係を明らかにすることがランドスケープエコロジーと言えます。人間が自然に及ぼす影響が大いに問題視されている現在、このようなアプローチは一定地域の生態系に課せられる人為インパクトを最小限に抑えつつ地域を有効に利用するための ecological planning において効力を発揮することが期待されます。

おしらせ

育林施業での「機械化の必要性」説く
講演会「国産材時代に向けた林業経営づくり」で速水氏

さる12月4日に、“「国産材時代」に向けた新たな経営づくり”と題した講演会を森林総合研究所関西支所にて開催しました。講演者には速水亨氏にお願いしました。速水氏は尾鷲林業を舞台に、実際に林業経営を積極的に行っておられます。

講演では、速水林業での取り組みをふまえて、日本林業の今後の経営指針について論じられました。特に氏は、タワーヤーダーなどの高性能機械の導入やそのための林道網整備といった機械化が必要である点、機械化が魅力ある職場を作り、若手労働力の確保に有効である点を強調されました。

講演会には、府県、営林局署からを中心に多くの聴衆が集まる盛況ぶりでした。

(文責玉井)