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研究情報 No.57 (Aug 2000)

巻頭言

研究周辺の動きとこれから

支所長 真島征夫

現在、次期科学技術基本計画が検討されています。2000年度終了の現行計画は、科学技術創造立国として、政府研究開発投資を欧米並の国内総生産比率に引き上げるとの計画のもとで、予算の充実が図られてきましたが、1997年ベースで対国内総生産比0.63%で、米国0.80%(1998年度)、独国0.83%(1997年度)、仏国0.97%(1997年度)の値に比べてかなり低いのが現状です。また、わが国の研究費総額に占める政府負担割合は20%以下であり、欧米諸国の30~40%に比べると半分程度に留まり、経団連も次期計画では目標値として対国内総生産比1%を実現すべきと提言しています。さらに、次期科学技術基本計画の目標を「知的存在感のある国」、「安心・安全な生活ができる国」、「国際競争力のある国(雇用機会の創出を含む)」の3大テーマを実現するため、具体的な目標を掲げ、その達成年度、目標値等とその実現方策を明確化して推進することを提言しています。その前提として、これまでの技術の負の遺産も考慮して、「何のための科学技術か」が問われており、一般社会から離れた独立の存在ではあり得ないとして、次期計画では科学技術の今日的課題とその影響力、また技術開発基盤強化の重要性について国民の理解を得る必要性を説いています。同時に、選択と集中、競争と連携、知識の創造と活用の調和、成功に対する賞賛と敗者復活の容認の考え方を盛り込むことを提言しています。

また、先に平成11年度林業白書が公表されました。林業を取り巻く厳しい環境は、日本経済の停滞と同じく回復基調にないことが読みとれます。そうした中で、従来の旺盛な木材需要を背景に、林業総生産の増大、生産性の向上、林業従事者の所得の増大を図ることを目標とした現林業基本法路線が、もはや現実的に外部条件などにより破綻している現状が以前から指摘されていました。こうした従来の木材生産主体とする政策では十分な効果を発揮しにくいことを白書の中でも明らかにし、新たな政策の検討が早急に必要として、木材生産主体の政策から、多様な機能を持続的に発揮させるための森林の管理、経営を重視する政策への転換、森林資源、特に人工林資源の循環利用を促進する政策への検討を行うとしています。そこで、林野庁では森林・林業・木材産業について、1)森林の多様な機能の持続的発揮、3)川上、川下を通ずる森林資源の循環利用、3)森林・林業の存立基盤である山村の振興、を基本に据えて、抜本的に基本法の見直しを含めたあり方を検討し、政策大綱等を取りまとめ、関連法案の改正に向けた検討を行っています。こうした政策転換に際しては、国民の理解が必要であると共に、より具体的な施策の立案と事業の推進に当たっては試験研究の成果に基づく提言が求められるでしょう。

21世紀に人類が解決すべき課題は、エネルギー・環境問題、人口問題、食糧問題等数多くあります。これらの問題は森林、林業、木材産業にも深い関わりがありますし、そして地域の問題であり、国の課題であり、またグローバルな問題です。

我々が関西支所で扱っている研究課題は、いずれも提起されている問題に関係しています。日常的に関わっている自らの森林・林業研究を通して、その成果がどうフィードバック出来ているか、出来るか、そのために必要なことは何か、時々自問自答してみようではありませんか。

研究紹介

センサスデータによる林業地域類型

経営研究室 田中 亘

2000年は農林業センサスの実施年です。1995年農業センサスの場合、都道府県別統計書における最初の項目は何だったかというと、農業地域類型です。この「都市的地域」、「平地農業地域」、「中間農業地域」、「山間農業地域」といった分類型は1995年から新しく登場した項目であり、最近よく耳にする中山間地域という言葉はこの分類型が元になっています。

さて、この分類型を林業側の視点から見ると、どうなるでしょう。農業地域類型が人口密度や耕地率など当然農業側の視点から決定されているため、林業に関してはやや異なった点も現れるように推測されます。それでは、森林資源・林業の指標に基いた分類型を作ってみようということで、1990年林業センサスデータ(林業センサスは10年に1度のため)を用いて林業地域類型を今回作りました。

方法としては、センサスに記載される人工林率・森林蓄積・伐採面積など主要と思われる14のデータで京都府内各市区町村について主成分分析を行い、その主成分得点を利用したクラスター分析によって類型化してみました。グループ分けは農業地域類型にならって4つです。

下の図と表はその結果です。

色が濃いところほど森林資源が充実し、林業活動が活発である市区町村と考えられ、以下色が薄くなるにつれて林業があまり行われていない市町村ということになります。殊にⅣ型に関しては全く林地が無いか、あるいはほとんど林業が行われていない市区町村ということができます。

各グループの分布に関しては概ね妥当、言い換えれば予想の範囲内だといえるでしょう。色の濃いI型で表される地域は美山町・京北町を中心に実際に林業が活発です。また一方、京都市中心部を含むIV型では林業は行われていません。

この林業地域類型によって農業地域類型と大きく異なった地域を挙げますと、京都市の左京区と北区(図中ではI型の南東端)です。この2区は都市的地域からI型、言わば「最も林業が活発な地域」へと「格上げ」されました。無論これは両分類の指標の取り方の違いに過ぎませんが、このように山側からの視点で分類してみるのもまた意味があるのではないでしょうか。

今回の解析についてはやや荒削りな点もあるため、今後もう少し洗練させ、他府県についても試みたいと思います。

graph
図京都府内の林業地域類型
表各類型の市区町村別内訳
I型 II型 III型 IV型
北区 右京区 伏見区 上京区
左京区 山科区 西京区 中京区
綾部市 福知山市 宇治市 東山区
京北町 舞鶴市 城陽市 下京区
美山町 宮津市 長岡京市 南区
日吉町 亀岡市 大山崎町 久御山町
和知町 宇治田原町 京田辺市 向日市
夜久野町 笠置町 井手町 八幡市
  和束町 山城町 木津町
  南山城村 加茂町  
  園部町 精華町  
  丹波町 八木町  
  瑞穂町 岩滝町  
  三和町 野田川町  
  大江町 峰山町  
  加悦町 大宮町  
  伊根町    
  網野町    
  丹後町    
  弥栄町    
  久美浜町  

常緑化のすすむ広葉樹二次林

造林研究室 伊東宏樹

近年、里山や二次林への関心が高まっていますが、こうした林分はほとんどが放置されています。このまま放置がつづけば、遷移の進行により、常緑広葉樹が中心の林になってしまうといわれています。

放置された広葉樹二次林が実際にどのように変化するのかを調査するため、造林研究室では、京都市左京区の銀閣寺山国有林(京都大阪森林管理事務所管内)に固定調査区を1992年に設置し(森林総合研究所関西支所研究情報第28号で紹介)、胸高直径3cm以上の木本・藤本を対象として、1993年から3年おきに毎木調査を実施しています。固定調査区のうちヒノキ人工林を含まない5000m2の部分について、どのように林の構造が変化してきているかをみてみることにしましょう。

1993年の調査では、5000m2の中で46種1657本の樹木が確認されました。胸高断面積合計は17.69m2/haでした。1999年には、種数は50種に増加し、幹数の合計は1544本に減少しましたが、胸高断面積合計は19.55m2/haへと増加しました(表)。

幹数の多いアラカシQuercus glauca Thunberg)、クロバイ(Symplocos prunifolia Sieb. et Zucc.)、タカノツメ(Evodiopanax innovans (Sieb. et Zucc.) Nakai)、アオハダ(Ilex macropoda Miq.)の4種について、1993年からの幹数の変化を図に示します。他の樹種とくらべて、タカノツメの減少がめだちます。これは、タカノツメの小径木が多く枯死したためです。1993年には胸高直径が3~6cmのタカノツメは105本ありましたが、1999年にはこれが58本にまで減少しました。

アラカシやクロバイにも枯死木はありますが、こうした樹種では、新たに胸高直径3cm以上にまで成長してきた個体によって数が補充されていますので、全体としては幹数には大きな変化はありません。その他、幹数が増加したのは主に、サカキ・ヒサカキのような常緑低木~亜高木です。

落葉広葉樹では、タカノツメの他にもヤマウルシなどが減少しています。こうしたことから、どうやら実際に常緑広葉樹林化が進行しているといえそうです。

では、この林はこれからどうなっていくのでしょうか。

現在、幹数が多い常緑広葉樹はアラカシとクロバイです。この両種を比較すると、アラカシの方が稚樹が多く、上層に成木のないところにも稚樹がよくみられます。また、アラカシの方が大きなサイズまで成長するようで、アラカシの方が遷移後期種的な性格が強いと考えられます。シイや他のカシ類のような遷移後期種は現在この林分には多くありませんので、こうしたことから大きな撹乱がない限り、この林分では次第にアラカシが優占度を高めていくものと予想されます。

表主な樹種の幹数と胸高断面積合計 (1999年)
樹種 幹数 胸高断面積合計 (m2/ha) タイプ
アラカシ 331 2.59 常緑広葉樹
クロバイ 270 2.94 常緑広葉樹
タカノツメ 221 2.07 落葉広葉樹
アオハダ 103 2.46 落葉広葉樹
フジ 92 0.28 落葉広葉樹
サカキ 79 0.10 常緑広葉樹
ソヨゴ 67 1.09 常緑広葉樹
カナメモチ 59 0.29 常緑広葉樹
ヒサカキ 58 0.06 常緑広葉樹
スギ 46 1.42 常緑針葉樹
ネジキ 27 0.30 落葉広葉樹
コナラ 24 2.38 落葉広葉樹
リョウブ 22 0.29 落葉広葉樹
ネズミモチ 18 0.04 常緑広葉樹
コシアブラ 15 0.29 落葉広葉樹
その他 131 2.96  
合計 1544 19.55 常緑広葉樹
graph

連載

ローテク測樹教室(4)
指折り数えて林分材積

経営研究室 細田和男

胸高直径や林地面積を測定することなしに、ただ立木をカウントするだけで単位面積あたりの胸高断面積合計を推定する方法があります。定角測定法とよばれるこの画期的理論は、オーストリアのビッターリッヒによって1947年に考案されました。原理は難解であり、高価な測樹器具を用いる高級な手法であるというイメージがありますが、単位面積あたりの林分材積を簡便に知る手段としても役立ちます。

まずは林内の任意の位置に立ちます。林道近くなどは避け、森林内部の平均的な場所を選んだほうがよいでしょう。ヒッチハイクのように手の親指を立て腕を伸ばし、周囲の立木の胸高位置にかざします。このとき立木と自分との距離には関係なく、見かけ上自分の親指より立木が太ければ「1本」とカウント(写真右)、親指と立木がピッタリ同じ太さなら「0.5本」とし、見かけ上親指より細い立木はカウントしません(写真左)。このようにして立つ位置は変えずに、水平方向にぐるりと360度回転し、順次本数を数えあげていきます。初心者は比較的過大にカウントしがちであるので、指が太いか立木が太いかをじっくりと見定めるようにして下さい。

ヘクタールあたり胸高断面積合計(m2)は、なんと驚くべきことに

    カウント本数×4

というきわめて単純な式で求められます。式中「4」は断面積定数といわれる値で、腕の長さと指の幅の比によって変化しますが、ここでは簡単のため腕の長さを50cm、親指の幅を2cmと仮定しました。より良心的には、ご自分の腕の長さの25分の1が、どの指のどの部分に相当するか覚えておくとよいでしょう。筆者の場合、親指の甘皮の位置の全幅が腕の長さの25分の1です。

さて、胸高断面積合計が分かったので、次に最終目的である林分材積の推定に移りましょう。ヘクタールあたり林分材積(m3)は

    胸高断面積合計(m2/ha)×平均樹高(m)×0.5

で計算されます。ここでは断面積定数を4としていますから、結局

    カウント本数×平均樹高(m)×2

が林分材積になります。平均樹高は目測でこと足ります(本誌54号を参考にして下さい)。式中「0.5」という定数は、林分形数(林分の胸高形数)とよばれるものです。林分形数は胸高断面積×樹高の円柱体体積に対する幹材積の割合を示すもので、樹種・林齢・密度などの条件により異なりますが、大雑把には0.5として差し支えありません。

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写真指による定角測定(右はカウント1、左はカウントせず)
(注)実際の測定は林内で行ってください

おしらせ

関西林試協第53回総会が開催される

さる5月30、31日に関西地区林業試験研究機関連絡協議会の総会が福井県のお世話により、福井市内で開催されました。北陸、近畿、中国、四国の17府県18機関の場所長、林木育種センター関西育種場、森林総合研究所四国支所ならびに関西支所長が出席しました。会議では、最近の研究情勢や全国林試協の活動状況などが報告された後、協議に移り、各専門部会の活動状況と今後の計画が協議され、部会長の交代などが承認されました。なお事務局が提案を予定した森林総研の独立行政法人化にともなう協議会会則の改正案は次回54回総会に提案することになりました。

関西地区ブロック会議、関西支所研究発表会の開催予定

日時:平成12年10月25日(水曜日)[ブロック会議]
          10月26日(木曜日)[研究成果発表会]
場所:京都市呉竹文化センター 2F会議室(近鉄・京阪丹波橋駅前)

発表課題は「複層林問題」と「木材の生産・流通・加工モデル」の予定です。
特別講演として「花粉症問題とスギの木」を予定しています。