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ホーム > 研究紹介 > 関西支所刊行物 > 研究情報 2003年 > 研究情報 No.67 (Feb. 2003)

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研究情報 No.67 (Feb. 2003)

巻頭言

里山植物の保全と遺伝学

森林生態研究グループ長 石田 清

近年、里山の生物多様性を保全しようという世論が高まり、それを受けた保全学的研究が大学、研究機関、自然保護団体など各方面で行われるようになりました。平成14年3月に政府によって決定された「新・生物多様性国家戦略」でも、里山の荒廃が「生物多様性の3つの危機」の一つとして取り上げられています。生物多様性の保全学的研究は多岐にわたりますが、その根幹は、対象とする生物群集や構成種の価値を文化的背景も含めた固有性(他で代替できるかどうか)ではかり、それらの保全を行うことの重要性を脆弱性(消失リスク)で評価することにあります。日本の里山生物相の固有性については、少なくとも顕花植物や哺乳類で情報が蓄積されていますが、それに比べると脆弱性についての研究はそれほど進展していません。これは、脆弱性をはかるための方法論が確立していないことによります。生物の集団の脆弱性は、環境生理学的な視点(例えば気温の上昇による生育適地の減少)と個体群統計学的な視点から評価することができます。後者では、集団が小さくなることで生じる遺伝学的・生態学的な問題を取り扱いますが、小集団化することで消失リスクがどのように増加するのかについては理論の域を出ておらず、個別の具体的研究事例を積み上げて理論を検証し、その方法論を確立することが急務となっています。

関西支所でも、里山の木本・草本種の脆弱性を明らかにする遺伝学的研究が、農水省と環境省の委託研究プロジェクトのもとで平成14年度から始まり、絶滅危倶種のシデコブシや草本種ヒゴタイ、近年になって個体数が大きく減少した草本種カンアオイ属などの調査が行われています。里山の湿地、採草地、落葉広葉樹二次林に分布する木本・草本種には、戦後の土地利用形態の変化(土地開発や農業形態の変化、人工林の増加など)によって生育立地が減少しているものが数多く見られますが、特に湿地植物や種子分散力の低い植物の多くが土地利用形態の変化によって小集団化している可能性があり、その消失リスクをはかることが急務となっています。

移動能力が低い種や湿地植物など移動できるチャンスが少ない種では、集団が断片化され、個体数が少なくなると、近親交配の増加や性比の変動などによって集団の消失リスクが高まります。この近親交配は子孫の死亡率や繁殖失敗率の増加をもたらしますが、その程度は、集団が持つ有害遺伝子(大集団では有害効果を現さない劣性遺伝子)の性質やその頻度などで決まると考えられています。このために、小集団の消失リスクをはかるためには、これらの遺伝学的な性質を集団ごとに調べていく必要があります。近親交配の影響は次世代以降に現れるため、寿命の長い植物の場合には近親交配による消失リスクの増加を長いタイムスパンで予測することも必要になります。里山に固有な個々の植物種の消失リスクと土地利用形態の変化との関係を明らかにし、その保全・管理の長期的方針を策定するためには、このような遺伝学的研究が今後さらに重要になると考えられます。

研究紹介

森林を3次元グラフィックでみる

伊東宏樹 (森林生態研究グループ)

毎木調査などで得られた林分のデータを3次元グラフィックで表現しようとすると、一昔前までは、高価なソフトウェアが必要だったりしてなかなか簡単に試してみるわけにはいきませんでした。しかし、近年のパーソナルコンピュータとフリーソフトウェア(使用条件にしたがって、自由に使用することのできるソフトウェア)の発達により、簡単かつ安価に林分データを3次元グラフィック化することが可能となりました。今回は、大文字山(銀閣寺山国有林)に設置した固定調査区のデータを3次元グラフィック化してみましたので、その方法について述べたいと思います。

3次元グラフィックを描画するソフトウェアとして今回はPOV-Ray(http://www.povray.org/(外部サイトへリンク))を使用しました。POV-Rayは、The POV-Teamが製作・配付しているソフトウェアで、無償で使用することができます。Windows、MacOS、UNIXなどで動作しますが、今回はUNIX版を使用しました。また、POV-Rayのデータファイルの生成には、スクリプト言語のRuby(http://www.ruby-lang.org/(外部サイトへリンク))を使用しました。Rubyは、まつもとゆきひろ氏が製作しているフリーソフトウェアで、UNIXのほか、Windowsなどでも動作します。

処理の流れを図-1に示します。用意するデータは、地形データ・林分データの2つです。地形データは、固定調査区の5m×5mの格子点の標高から作成しました。地形データは、地形ファイル生成スクリプトにより、POV-Rayで使用できるファイル形式に変換します。地形データには、調査区設定の際に実際に測量した値を用いました。詳細な地図があれば、それから読み取ることも可能ですし、この部分を省略して、地形を水平面として取り扱うことも可能です。林分データには1993年の毎木調査の結果を使用しました。これには、樹種および立木位置・胸高直径が記録されています。

POV-Rayファイル生成スクリプト中で、単木ごとに胸高直径から樹高を計算し、立木位置から3次元空間中の位置を計算して、仮想空間中に配置していきます。樹形については今回は簡単にするため、広葉樹は球形の樹冠と円錐の幹で、針葉樹については両者とも円錐で表現し、それぞれ樹高に応じて相似形で拡大しました。樹冠幅・樹冠深のデータがあれば、それを反映させることも可能ですし、相対成長関係によって推定することも可能です。また、地形ファイルから地形データを読み取り、地表面として仮想空間内に配置しました。こうして出力されたPOV-Rayデータファイルを、POV-Rayプログラムで処理することによって、図-2のような3次元グラフィックが出力されました。

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図-1.処理の流れ.
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図-2.POV-Rayによる描画例.
(凡例の樹種名は、説明のため後から付け加えたもの)

スギの白根に影響を与えるアルミニウムイオンの閾値濃度を探る

平野恭弘 (森林環境研究グループ)

土壌の酸性化に伴って溶出するアルミニウムイオンは、根の伸長成長、生理機能や養分o吸収の阻害などを引き起こし樹木に悪影響を与えることが、これまで欧米の研究において明らかにされてきました。わが国でも酸性雨が話題となりはじめた1990年代から、アルミニウムとわが国の樹木に関連した研究が進められています。これまでスギに関する研究では、およそ1.1mMから5.0mMまでのアルミニウム濃度でスギ苗個体のバイオマス(乾燥重量)が減少すること、0.4mMから2.0mMで根のバイオマスが減少することが報告されています。さらに最近ではアルミニウムの影響は根のバイオマス減少よりも先に、活性が高く新しい根である白根(しらね)の形態や養分量に変化が現れることが明らかとなっています。白根というのは文字通り見た目に白色の新しい根であり、樹木個体の生存に不可欠な養分吸収機能を果たしています。根全体を個体の根として取り扱うよりも、この白根に焦点をあてた方がアルミニウムの影響を高感度に検出することができるのです。

一般に、「ある反応を引き起こさせるときに必要な作用の大きさの最小値」を閾値(いきち)と呼んでいます。これまでの報告では、スギ苗の根のバイオマスに影響を与えるアルミニウムの閾値濃度は、0.4mMから2.0mM程度と推察されています。白根の場合にはさらに低い閾値濃度が予想されるため、添加する溶液中のアルミニウム濃度を0、0.05、0.1、0.5、1.0mMの5段階(5つの処理区)に調整し、約4ヶ月間にわたりスギ苗の培養実験を行いました。実験後、すべての苗を掘り取り、葉、幹、白根、それ以外の根に分け、白根の様子を顕微鏡下で詳細に観察しました。またバイオマス、白根の根皮や根直径、養分量などを測定しました。

葉、幹、白根、それ以外の根のバイオマスについては、アルミニウムを添加した有意な影響は認められませんでした。しかしながら白根を顕微鏡下で観察してみると、0.5mM、1.0mM区で明らかに褐色化する傾向にあり、分岐した白根も短く成長が阻害されている様子が認められました(写真-1の右)。これらの白根の形態を実際に測定してみると、0.5mM、1.0mM区で白根が太く短くなっていました。また、白根中の養分量についても、0.5mM、1.0mM区でカルシウムやマグネシウム濃度が低下し、アルミニウム濃度は上昇していることが明らかとなりました(図-1)。とくに白根中のアルミニウム濃度は、0.1mMから0.5mMの問で急激に.上昇することがわかりました。このように、培養溶液中のアルミニウム濃度が0.1から0.5mMの問で、スギ苗の白根形態や養分濃度に劇的な変化が認められたことから、スギ白根が影響を受けるアルミニウムの閾値濃度は、予想されたように根のバイオマスにおける濃度よりも低く、0.1から0.5mMの間にあることが推察されました。

以上の実験に併行して行われた京都市山科区のスギ林における調査では、土壌溶液中のアルミニウム濃度は、およそ0~0.6mMの範囲内で平均0.08mM程度でした。また表層土壌のpHは平均4.8でした。このスギ林では、一時的にアルミニウムの閾値濃度を超えてスギの白根に影響を与える可能性はあるものの、恒常的にアルミニウムがスギの白根に影響を与える可能性は低いということができるでしょう。森林環境の中には樹木にさまざまな影響を与える要因が存在していますが、このように各要因の閾値を探ることにより、影響の程度を予測することができるようになるものと思われます。

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写真-1.アルミニウム濃度0mM(左)と1.0mM(右)添加したスギ苗の白根.
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図-1. アルミニウム添加したスギ苗の白根中カルシウム濃度(左)とアルミニウム濃度(右).
バー上の異なる英文字は処理間に有意差(5%)があることを示す.

連載

関西地域の森林土壌 (4)
黒色土

森林環境研究グループ 金子真司

森林土壌の表層は一般に有機物の蓄積によって黒味を帯びています。黒色土はその中でも炭のように真っ黒な表層(A層)をもつのが特徴です。そして下層(B層)との境界はコントラストが明瞭です。黒色土は火山灰の堆積地に分布します。そのため火山が少ない関西地域では分布面積が小さな土壌です。

この土壌はススキなどの草原植生の影響を受けて生成したと考えられています。事実、火山灰の堆積地でも長年森林だったところでは褐色森林土ができます。ススキ草原はかやぶき屋根の材料や家畜の飼料などに利用するために、地域の人々が毎年火入れをして維持してきたものです。このことから黒色土は私たち日本人と深く係わりのある土壌であるといえます。

林野土壌分類では、黒色土は黒色土亜群と淡色黒色土亜群の2亜群からなります。淡色黒色上亜群は黒色土亜群に比べて有機物含量が少ないためにA層が淡色の黒色土です。黒色土瓶群は次の5土壌型と1土壌亜型に分類されます。淡色黒色土亜群も黒色土亜群と同様に5土壌型と1土壌亜型が設けられています。

  • 乾性黒色土(粒状・堅果状構造型):BlB
  • 弱乾性黒色土:BlC
  • 適潤性黒色土:BlD
  • 適潤性黒色土(偏亜型):BlD(d)
  • 弱湿性黒色土:BlE
  • 弱湿性黒色土:BlF

黒色土は別名「黒ボク土」とも呼ばれ、国際的な土壌分類(世界土壌照合基準やアメリカ合衆国土壌分類)ではアンディソルに分類されます。火山灰に由来する土壌は燐酸を不可逆的に吸着するなどの特有の理化学性質をもっており、農業利用上問題の多い土壌です。そのため火山灰から生成した場合は、褐色森林土であってもアンディソルに分類されます。

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写真-1. 黒色のA層と褐色のB層のコントラストが明瞭な「黒色土」.

おしらせ

平成14年度関西支所業務報告会、研究分野推進会議開催される。

1月20~21日午前にかけて、関西支所業務報告会が開催されました。支所研究者が今年度の業務内容、次年度の計画を報告し、支所として今後の業務の検討を行いました。21日午後は、森林総合研究所の中期計画に盛られた研究分野の1つである「キ. 森林の新たな利用を促進し山村振興に資する研究」(責任者:研究管理官(林業経営・政策担当)櫻井尚武)のうち、関西支所中心に行っている研究項目「キ.(ア).1 里山の公益的機能及び生産機能の自然的・社会的評価に基づく保全・管理手法の開発」の推進会議分科会が開催され、4つの実行課題について議論が行われました。