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左写真:ナラ枯れの被害を受けた森林(滋賀県大津市)、写真:カシノナガキクイムシ(メス)の走査電子顕微鏡写真
2011年は、2006年の国連総会で決議した「国際森林年(the International Year of Forests)」です。テーマは「人々のための森林」で、世界の人々の森林に対する理解と森林への関わりを持ってもらうことを促すものです。森林総合研究所では、国内テーマ「森林を歩こう」やサブテーマ「未来に向かって日本の森を活かそう!」のもと、次世代に引き継ぐ豊かな森林(もり)づくりや暮らしの中に木を取り入れることを進めるための研究開発の推進や様々な催しを開催します。
新たな「食料・農業・農村基本計画」を受け、新たな「農林水産研究基本計画」が平成22年3月30日に農林水産技術会議で策定されました。本研究基本計画では、農林水産業の持てる機能を最大限に発揮しつつ、資源、環境、エネルギー等の地球規模での課題の解決に貢献する「グリーン・イノベーション」の推進等に必要な革新的研究開発を、産学官の連携を図りつつ進めることとしています。地域資源活用研究には、森林整備と林業・木材産業の持続的発展が位置づけられています。また、環境応答・生物間相互作用機構の解明、農林水産生態系の構造とメカニズムの解明などがシーズ創出研究の項目にあげられています。
「森林・林業再生プラン(平成21年12月25日)」では、「森林の有する多面的機能の持続的発揮、林業・木材産業の地域資源創造型産業への再生、木材利用・エネルギー利用拡大による森林・林業の低炭素社会への貢献」を3つの基本理念としています。平成22年11月には、本プランを推進していくための具体的な方向性が「森林・林業の再生に向けた改革の姿」にとりまとめられました。政策ニーズに対応した研究・技術開発の重点課題の記述には、面的なまとまりをもった森林経営の確立、施業技術の高度化等があります。このような情勢では、近畿中国地方の林業再生に向けて、当面の必然的な選択としてなされている施業の団地化・高密度路網の整備・高性能機械の導入促進による効率的な低コスト木材生産の施策が進むなかで、日本の林業・木材産業を支える研究所として将来を見越した技術開発に取り組む必要があると考え、支所内で研究プロジェクトの準備を進めてきました。
平成22年度は森林総合研究所の第2期中期計画の最終年度であるために、所内では多くの研究プロジェクトと全ての実行課題が取り纏めの年度でした。そのような中で、関西支所の主要な研究プロジェクト「現代版里山維持(H21~25)」は開始2年目で、順調に進展しました。
初夏には、『「ナラ枯れ」御苑でも(京都新聞6月16日夕刊1面)』や『ナラ枯れ「紅葉」猛暑で深刻化延焼防止へ割木2割減(京都新聞8月11日夕刊10面)』などの新聞報道に現れているように、京都東山のナラ枯れの被害拡大が一般市民の関心を集めました。これに対応して、関西支所の既往の研究成果をとりまとめたパンフレット類「ナラ枯れの被害をどう減らすか-里山林を守るために-」や「里山に入る前に考えること-行政およびボランティア等による整備活動のために-」に対する要望が多く寄せられました。
三重大学との連携大学院構想では、平成19年12月6日の第1回打合せ以降、足かけ5年間にわたる作業の末、平成23年3月24日に教育研究に係わる連携・協力に関する協定書を締結することができました。三重大学大学院生物資源学研究科の資質の向上を図り、相互の研究交流を促進し、もって農林水産業に関する学術及び科学技術の発展に寄与することを目的として掲げています。関西支所では、生物資源学研究科長との間で協定に関する覚書を平成23年4月1日に取り交わす運びとなりました。それに先立ち、3月には三重大学において、特別連携シンポジウム「自然共生学の展望-森林の生物多様性と里山の保全戦略-」を開催し、支所の教員候補者3名と三重大学教官2名が講演しました。続けて、三重大学の教職員と学生6名が関西支所を見学し、平成23年度の大学院入試に向け、着実に実施に向けた準備を進めてきました。
今年度の公開講演会は「森林(もり)の時間、社会の時間」のテーマで、12月9日(木曜日)龍谷大学アバンティ響都ホールで開催しました。「森林と施業 - 80年に及ぶ人工林の長期モニタリング-」、「森林と地域 -沖縄やんばるの森と地域の歴史的関わり-」、「森林と投資 -日本国内で見られる最近の動き-」、「森林と産業 -日本と世界の経験から考える-」の4つの講演で、前年よりも聴講者は少ないながら、熱心な質疑応答があり、支所の研究成果をご理解いただけたと、感謝しています。
JSTサマーサイエンスキャンプを関西支所で開催するのは2年目でした。「光が変われば葉も変わる~樹木の光環境適応戦略~」のテーマで、夏休みの8月上旬の3日間、高校生1~3年生10名が参加しました。講師を勤めた担当の研究者と多くの支所職員の協力を得て、参加した高校生諸君には研究することの楽しさを味わってもらうことができたと信じています。
支所で行う森林研究と各育種場が行う林木育種事業の業務の調整を図ることにより、森林研究及び林木育種事業の一体的な運用を確保し、効率的かつ効果的な展開を図るため、10月1日付けで育種調整監が新設されました。
平成24年1月
森林総合研究所関西支所長 藤井智之
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