森林総合研究所関西支所年報第57号
平成28年版
まえがき
平成27年度は森林総合研究所第3期中期計画期間の最終年度であった。第3期中期計画では9重点課題が設定され、関西支所ではその中でも森林・林業の再生に向けた政策を支える研究としての重点課題A「地域に対応した多様な森林管理技術の開発」において、一般研究費による実行課題「A122優良壮齢人工林へ誘導するための施業要件の解明と立地・社会環境要因の評価」を実施した。また、平成26年度から2年間の計画で開始した攻めの農林水産業の革新的技術緊急展開事業「A1P06コンテナ苗を活用した低コスト再造林技術の実証研究」において、ヒノキコンテナ苗を活用した低コスト再造林技術の開発に取り組んだ。さらに、関西支所が主査として、本所林業工学研究領域、四国支所ならびに石川県、大阪府、島根県、愛媛大学とともに農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「A1P09侵略的拡大竹林の効率的駆除法と植生誘導技術の開発(27-29)」を獲得し、放置・拡大竹林を駆除する技術体系の確立に着手した。一方、里山課題として重点課題G「森林の生物多様性の保全と評価・管理・利用技術の開発」において、実行課題「G211里山地域における森林の総合管理のための機能評価」を実施した。さらに、農林水産技術会議委託プロジェクトなどの研究課題に参画するとともに、関西支所研究職員が主査としての科学研究費助成事業による研究を7課題実施した。
産学官連携、地域連携に関しては、近畿中国森林管理局との「近畿及び中国地域の森林・林業に関する研究と技術開発等の円滑な促進に向けた連携と協力に関する協定」に基づき、民国連携推進会議「コンテナ苗の普及・定着に関する意見交換会」を9月28日に近畿中国森林管理局において、「伐採・植付一貫作業下でのコンテナ苗等の活着・生育実証」の成果と課題についての現地検討会を10月13日~14日に岡山県新見市において共催し、各府県、森林組合等から多くの参加者を得た。国立大学法人三重大学生物資源学研究科との連携大学院では支所の研究職員3名が連携教員として教育に携わった。また、京都府立莵道高校が申請し採択された科学技術振興機構のサイエンスパートナーシッププログラムにおいて、森林生態研究グループが講義、実習を実施した。大阪市立大学理学部附属植物園とはナラ枯れ研究会を共催した。この他、近畿中国森林管理局の「水都おおさか森林の市」、近隣の中学生を対象とした「チャレンジ体験学習」、森の展示館を活用した「森林教室」などを実施した。10月16日には公開講演会「森の恵みと土のチカラ~ささえ合う森と土~」を龍谷大学響都ホール校友会館において開催し、約180名の聴衆を集めた。
今後も関西支所では近畿中国地方における森林・林業に関するさまざまな問題の解決に向け、研究技術開発に取り組むとともに、その成果の広報と社会還元・普及に精力的に取り組んでまいりますので、一層のご支援とご協力をお願いいたします。
平成28年12月
森林総合研究所関西支所長 吉永秀一郎
目次
- 森林総合研究所関西支所関係抜粋
- コンテナ苗を活用した低コスト再造林技術の実証研究
- 侵略的拡大竹林の効率的駆除法と植生誘導技術の開発
- 健全な物質循環維持のための診断指標の開発
- 「やってはいけない森林施業」を明らかにするアセスメント
- 優良壮齢人工林へ誘導するための施業要件の解明と立地・社会環境要因の評価
- 土壌環境に触発された細根動態が駆動する土壌酸性化のメカニズムの実証
- 低コストな森林情報把握技術の開発
- 広葉樹林化技術の実践的体系化研究
- 多様な森林機能の評価・配置手法の開発
- 天然更新を利用した多様な森林タイプへの誘導技術の検証と高度化
- 秋田スギの成立および変遷に及ぼした人為影響の解明
- 歩いて調べる沖縄「やんばる」における近代の森林利用の展開過程
- 森林吸収量把握システムの実用化に関する研究
- センサーネットワーク化と自動解析化による陸域生態系の炭素循環変動把握の精緻化に関する研究
- 緩和策と適用策に資する森林生態系機能とサービスの評価
- タワー観測を用いた群落炭素収支機能等を表すパラメータセットの構築と評価
- 環境の変化に対する土壌有機物の時・空間変動評価
- 頻発する大規模山火事に駆動される物質循環プロセスの解明:植生-土壌系の再精査
- 13Cラベリングとイオン顕微鏡を組み合わせた森林樹木への炭素固定プロセスの解明
- 森林流域からの水資源供給量に関わる気候変動の影響評価
- 森林における水文過程の変動予測手法の開発
- 古生層堆積岩山地小流域における水流出特性解析
- 東日本大震災で被災した海岸林の復興技術の高度化
- 地すべりにおける脆弱性への影響評価
- 安全な路網計画のための崩壊危険ピンポイント抽出技術
- 山地災害の被害軽減のための新たな予防・復旧技術の開発
- 減災の観点から樹木根系の広がりを非破壊的に評価する方法の確立
- 過去1300年間の風水害被害の復元-地球温暖化・寒冷化の被害予測に向けて-
- ローカライズドマネジメントによる低コストシカ管理システムの開発
- ニホンジカ生息地におけるスギ・ヒノキ再造林手法の開発
- 薬剤使用の制約に対応する松くい虫対策技術の刷新
- 生態情報を利用した環境低負荷型広域病虫害管理技術の開発
- 野生動物管理技術の高度化
- ナラ枯れにおける防御物質と毒素による樹木と病原菌の相互作用の解明
- 開放系森林生態に導入した菌類微生物の動態解明と環境への影響評価
- サクラ類てんぐ巣病菌は本当にサクラ樹体内で植物ホルモンを生産しているのか?
- 農山村地域の空洞化回避を主目的に据えた鳥獣害の動向予測と実効的管理体制の提言
- 奄美・琉球における森林地帯の絶滅危惧種・生物多様瀬保全に関する研究
- 里山地域における森林の総合管理のための機能評価
- 野生動物の種多様性の観測技術および保全技術のための機能評価
- 東アジアの森林を支える菌根菌ネットワークの生態系機能の解明
- 海の島と陸の島に棲む希少鳥類・コマドリの地域的減少が遺伝的多様性に及ぼす影響評価
- 渓流魚の餌となる水生昆虫への放射能汚染による影響の実態解明
- 逆境を糧にする外来樹木の「切ったら増える」生理的プロセスの解明
- 高級菌根性きのこの栽培技術の開発
- 森林水文モニタリング
- 降雨渓流水質モニタリング
- 収穫試験地における森林成長データの収集
- 樹体内水・炭素利用プロセスに立脚した樹木成長の降雨応答機構の解明
- 小笠原乾性林における土壌乾燥に伴う樹木水利用の時系列変化と乾燥枯死回避メカニズム
- 同位体パラスラベリング法を駆使した樹木根圏炭素動態とその制御機構の解明
- 根圏呼吸の定量化を目指して:樹木細根ー菌根菌間相互作用の実態と機能解明
- 基盤事業:森林水文モニタリング-竜ノ口山森林理水試験地-
- 基盤事業:森林流域の水質モニタリング
- 遠藤天然林スギ択伐林収穫試験地(岡山県鏡野町)定期調査報告-内陸型気候地域に位置するスギ天然林択伐林における林況調査-
- 白見スギ人工林収穫試験地(和歌山県新宮市)定期調査報告-無間伐区の設定について-
- 平成27年度 試験研究発表題名一覧
- 沿革
- 土地及び施設
- 組織
- 受託出張
- 職員研修
- 受託研修生受入
- 特別研究員
- 海外派遣・出張
- 業務遂行に必要な免許の取得・技能講習等の受講
- 森の展示館(標本展示・学習館)
- 会議
- 諸行事
- 試験地一覧表
一括版のpdfファイルはこちらです。年報第57号(平成28年版)(PDF:2,835KB)