森林総合研究所関西支所年報第61号
令和2年版
まえがき
令和元年度は、国立研究開発法人森林研究・整備機構の5年間にわたる中長期目標期間の4年目となります。森林総合研究所関西支所では、中長期目標で掲げた4つの重点課題のうち、近畿・中国地域の森林・林業の現状を踏まえ重点課題ア及びイに特に注力して研究を実施して参りました。
ア.森林の多面的機能の高度発揮に向けた森林管理技術の開発
イ.国産材の安定供給に向けた持続的林業システムの開発
ウ.木材及び木質資源の利用技術の開発
エ.森林生物の利用技術の高度化と林木育種による多様な品種開発及び育種基盤技術の強化
関西支所の本年度の課題は57課題(基盤事業5課題を含む)でした。これらの課題を予算別に分類すると外部資金によるものが約5割(31課題)、残りは運営費交付金でした。外部資金の中では、科学研究費助成事業によるものが17課題と最も多く、そのほかは農林水産省、環境省、民間財団の研究助成金となっていました。主な研究課題としては、ヒバ漏脂病に対する個体と林分の抵抗性機構に関する課題(アウbPF63)、スマート獣害対策技術を開発し地域への適合性を実証する課題(アウbPF70)、成長に優れた苗木を活用した施業体系の開発に関する課題(イアaPF31)などがあげられます。
関西支所では研究課題の推進に加えて、産学官民を対象とした地域連携への取り組みも積極的に実施してきました。主な取り組みとしては、近畿中国森林管理局との連携・協力協定に基づき(1)「里山広葉樹林の活用と再生に関する現地検討会」(令和元年10月10~11日)を岡山県新見市他において共催し、各府県、森林組合等から多くの参加者を得ました。また、(2)関西支所公開講演会「森林(もり)の小さな生き物たち」(令和元年10月30日)を龍谷大学響都ホール校友会館において開催し、約110名の聴衆を集めました。その他(3)林木育種センター関西育種場、森林整備センター中国四国整備局と「森林とのふれあい2019」(令和元年8月4日)を関西育種場にて共催し、近隣住民や関連団体等、多数の方々に参加していただきました。これらに加え(4)「シカ被害対策技術交流会」、(5)「里山広葉樹活用シンポジウム」の開催についても準備しておりましたが、こちらについては年度末に起こった新型コロナの急速な拡大により開催を断念せざるを得ませんでした。その他講演会、シンポジウム以外では、近隣の中学生を対象とした「職場体験」や「チャレンジ体験学習」、森の展示館を活用した「森林教室」、三重大学、京都大学等から研修生受入れについて例年と同様のスタイルで実施し、多くの方々にご参加いただきました。
次年度は中長期目標期間の最後の年に当たります。関西支所では近畿中国地域における森林・林業に関する様々な問題の解決に継続して取り組んで参ります。また、これまでに蓄積してきた研究成果を市民の皆さま、民間企業・行政の皆さまに橋渡すため、新型コロナ感染拡大防止策をとった上で研究発表、技術指導、一般公開などを行うことにより、近畿中国地域の皆さまとの連携をより一層深めたいと考えております。地域の皆さまにおかれましても、より一層のご支援、ご指導をお願い申し上げます。
令和2年12月
森林総合研究所関西支所長桃原郁夫
目次
- 森林総合研究所関西支所関係抜粋
- アアa1 森林の災害防止機能高度利用技術の開発
- アアaPF11 山地災害リスクを低減する技術の開発
- アアaPS4 樹木根系の分布特性の多様性を考慮した防災林配置技術の開発
- アアb1 多様な管理手法下にある森林の水保全機能評価技術の開発
- アアbPF16 熱帯雨林生態系における水環境機構と植生のレジリエンスの相互作用の解明
- アアbPF18 気候変動への適応に向けた森林の水循環機能の高度発揮のための観測網・予測手法の構築
- アアd1 森林における放射性セシウム動態の解明
- アアdPF1 森林内における放射性物質実態把握調査事業
- アアdPF11 放射能汚染による渓流性水生昆虫への生理的影響及びそれに伴う群集変化の解明
- アイa1 森林における物質・エネルギーの蓄積・輸送パラメタリゼーションの高度化と精緻化
- アイaPF3 森林土壌の炭素蓄積量報告のための情報整備
- アイaPF15 13Cラベリングとイオン顕微鏡を組み合わせた森林樹木への炭素固定プロセスの解明
- アイaPF24 人工林に係る気候変動の影響評価
- アイaPF27 パレオフォレストリーに基づく日本海地域のスギの成立および変遷要因の解明
- アイaPF42 樹木内部の水・炭素輸送と樹木成長の季節・環境応答特性の解明
- アイaPF44 竹林は地球温暖化を緩和しうるのか?:モウソウチク林の炭素固定量の算定と将来予測
- アイaPF45 「経験的なパラメーター」に依存しない新しいフラックス測定法の開発
- アイbPF3 緩和策と適応策に資する森林生態系機能とサービスの評価
- アイbPF28 土地利用変化による土壌炭素の変動量評価と国家インベントリへの適用に関する研究
- アウa1 生態系サービスの定量的評価技術の開発
- アウaPF52 世界自然遺産のための沖縄・奄美における森林生態系管理手法の開発
- アウaPF65 腸内細菌に由来する匂いは昆虫の社会を司るか?ーアリを題材にー
- アウaPS2 渓流に注ぎ込む光の量から渓畔林を評価する―光量・藻類量・水生昆虫量の関係解明―
- アウb1 環境に配慮した樹木病害制御技術の高度化
- アウb2 森林・林業害虫管理技術の高度化
- アウbPF47 アウトブレイク前における森林昆虫とその随伴微生物のリスク評価:先見的病害対策のために
- アウbPF52 日本における樹木疫病菌被害の発生リスク評価
- アウbPF56 鳥獣害の軽減と農山村の活性維持を目的とする野生動物管理学と農村計画学との連携研究
- アウbPF57 「天然の実験室」を活用した外来リス根絶と生態系回復に関する研究
- アウbPF58 スマート捕獲・スマートジビエ技術の確立
- アウbPF60 サクラ・モモ・ウメ等バラ科樹木を加害する外来種クビアカツヤカミキリの防除法の開発
- アウbPF65 増えるシカと減るカモシカは何が違うのか?最適採餌理論からの検証
- アウbPF70 AIやIotによる、人材育成も可能なスマート獣害対策の技術開発と、多様なモデル地区による地域への適合性実証研究
- アウbPF71 線虫をもって線虫を制する―捕食性線虫を用いた新規マツ枯れ制御技術の開発
- アウbPS9 関東地方のナラ枯れに対応した防除技術の開発
- イアa1 多様な森林の育成と修復・回復技術の開発
- イアa2 地域特性に応じた天然林の更新管理技術の開発
- イアaPF31 成長に優れた苗木を活用した施業モデルの開発
- イアb2 森林情報の計測評価技術と森林空間の持続的利用手法の高度化
- イアbPS6 積極的長伐期林業を目指した大径材生産技術の開発
- イイaPS3 資源と需要のマッチングによる北海道人工林資源の保続・有効利用方策の提案
- エアbPF1 高級菌根性きのこ栽培技術の開発
- キ102 森林気象モニタリング
- キ109 気候変動下における広葉樹林、温帯性針葉樹林および森林被害跡地の生態情報の収集と公開
- 基盤事業:森林水文モニタリング-竜ノ口山森林理水試験地-
- 基盤事業:森林流域の水質モニタリング
- 高取山スギ人工林収穫試験地(奈良県吉野郡)定期調査報告ー比較的温暖多雨な地域における高齢級スギ人工林の成長量についてー
- 高取山ヒノキ人工林収穫試験地(奈良県吉野郡)定期調査報告ー比較的温暖多雨な地域における高齢級ヒノキ人工林の成長量についてー
- 令和元年度試験研究発表題名一覧
- 沿革
- 土地及び施設
- 組織
- 受託出張
- 職員研修
- 受託研修生受入
- 特別研究員
- 海外派遣・出張
- 業務遂行に必要な免許の取得・技能講習等の受講
- 森の展示館(標本展示・学習館)
- 会議
- 諸行事
- 試験地一覧表
一括版のpdfファイルはこちらです。年報第61号(令和2年版)(PDF:4,907KB)