更新日:2017年8月29日

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北海道育種場内に生育するアオダモの9年間の着花状況

福田陽子1)・半田孝俊2)  
1)森林総合研究所林木育種センター北海道育種場
2)(元)森林総合研究所林木育種センター北海道育種場、(現)半田植生研究所

 

1.はじめに

アオダモ(Fraxinus lanuginosa Koidz. f. serrata、モクセイ科トネリコ属)は、北海道から九州、千島列島に分布する亜高木性の樹種です。北海道産のアオダモの材は粘りが強く強度が高いことから、優良な野球のバット材として知られています。しかし、林床のササやシカの食害などに天然更新が妨げられることが多く、資源の減少が危惧されています。そのため当場では、アオダモ資源の保全に向けて、優良クローンの収集保存、さし木苗や実生苗の育成方法の検討、地理変異及び繁殖生態の研究を進めています。

アオダモの大きな特徴のひとつは、その性表現にあります。一見すると、どの個体も同じような白い円錐花序をつけていますが(写真-1)、個々の花を観察すると、雄蕊2本のみを持つ雄性花(写真-2)をつける雄性株と雄蕊2本と雌蕊1本を持つ両性花(写真-3)をつける両性株とが混在しています。このように雄性株と両性株からなる雄性両全性異株性の植物は極めて少なく、両性株が正常な花粉を生産しない「見せかけの」雄性両全性異株を除く、両性株が生殖能力をもつ花粉を生産する「真の」雄性両全性異株性の植物は、10種程度に過ぎません。アオダモは、数少ない「真の」雄性両全性異種性植物のひとつです1)。もうひとつ、アオダモの繁殖を特徴づけるのは、5~7年間隔で見られるマスティング(豊凶)です。遺伝的多様性に考慮しながら天然更新を促すためには、アオダモの豊凶や開花個体の性比が交雑にどのような影響を与えているのか、繁殖実態を明らかにする必要があります。ここでは、2002年以降行ってきた、北海道育種場内に生育するアオダモ集団の着花調査の結果についてご紹介します。

 

 アオダモの着花の様子

アオダモの着花の様子

アオダモの翼果

アオダモの翼果

アオダモの雄性花

アオダモの雄性花

アオダモの両性花

アオダモの両性花

 

2.調査概要

2002年~2010年の9年間、北海道育種場内に生育するアオダモの着花状況の調査を行いました。場内には沢地が点在しており、苗畑や試験地等に利用されている平坦地と沢地の間の急斜面にアオダモが生育しています。従って、アオダモは平坦地によって分断された局所集団を構成しています。場内にはこのような局所集団が9つ存在し、2002年から2007年にかけて全集団を調査、2008年から2010年にはこのうち4集団について調査を行いました。2003年、2006年には株ごとの調査を行っていませんが、いずれの年も大凶作でした。

2002年には着花の有無、2004年以降には0から4の5段階の指数による着花量の評価を行いました(5月下旬~6月上旬)。2002年と2007年には樹高及び胸高直径の調査、性別の判定も行いました。アオダモは萌芽性が高く、殆どの個体が株立ちしているため、本研究では根元のつながっている個体を株として扱い、株ごとに着花調査を行いました。また、樹高、胸高直径は、株の中で最も大きいものを調査しました。着花が認められた年には9月下旬から10月上旬に翼果を採取し、2002年と2004年に採取した種子については、軟X線装置を用いた充実率の推定を行いました。

 

3.調査結果

2002年の開花株数は、雄性株196株、両性株123株でした。雄性株の平均樹高は8.1m、平均胸高直径は12.2cm、両性株の平均樹高は8.2m、平均胸高直径は11.9cmで分散分析の結果有意な差は認められませんでした2) 3)。また、局所集団ごとの性比は、両性株:雄性株=1:3から1:1程度であり、1:1から大きく外れる集団もありました1)。2007年の開花株数は雄性株が213株、両性株が118株でした。2008年以降、調査を継続した株数は、雄性株が70株、両性株が56株です。

図-1に、9年間調査を継続した株における着花率(調査株における着花株の割合)を雄性両性別に示しました。2002年の着花株が調査のベースになっているため、2002年の着花率は1です。2007年の着花率は雄性株が0.86、両性株が0.87で豊作、2004年、2009年、2010年は15~40%で並作下程度、2003年、2005年、2006年はほとんど着花株がなく、凶作でした。豊作年の雄性株と両性株の着花率は同程度でしたが、並作下だった年の着花率は雄性株の方が高い傾向が認められました。平均着花指数においても、2007年には雄性株と両性株が同程度、それ以外の年では雄性株の方が着花指数が高い傾向がありました(図-2)。

  

図-1 着花率の年次変動及び図-2 平均着花指数の推移

 

 軟エックス線装置を使用した充実率の調査では、豊作年であった2002年には虫害やしいながほとんど認められず、個体ごとの平均充実率は80~90%以上でした。また2004年の充実率は株による差が大きく、ほぼ100%が虫害を受けている株もあれば、充実率が70%以上の株もありました。また、2010年にはほとんどの種子が虫害を受けており、充実種子は得られませんでした。

 

4.おわりに

これまでの調査の結果、アオダモの着花には約5年に1度大豊作年があり、それ以外の年にも15~40%程度の株が着花していることが明らかになりました。また、大豊作年であった2002年、2007年以外の4年では、雄性株の着花率及び平均着花指数の方が両性株よりも高い傾向が認められました。雄性株の中には、凶作の2年を除く6年間、すべての年に着花している株もありました。これは、両性株の場合、着花年には種子の発育に多大なコストがかかり、樹勢の回復に時間がかかるためと考えられます。また、豊作年には充実率が80%を超えて高かったのに対し、凶作であった2005年には着果が認められず、並作下であった2010年にはしいな及び虫害が多く、充実種子がほとんど得られませんでした。この結果は、豊作年には飛散花粉量が増加するために受粉する確率が高くなること(受粉効率仮説)、また、顕著なマスティングによって種子の虫害を免れていること(捕食者飽食仮説)を示唆しています。ただし、豊作年の間隔が5~7年であることを考慮すると、9年間の調査ではアオダモのマスティングの機構を解明するには不十分であり、今後も調査を継続する必要があります。雄性株と両性株のマスティングがどの程度同調するのか、また、着花株の性比が結実率などの繁殖成功に与える影響についても検討することによって、アオダモの雄性両全性異株性の進化・維持機構の一端を明らかにしたいと考えています。

 

引用文献

1) Ishida and Hiura (1998) Pollen fertility and flowering phenology in an androdioecious tree, Fraxinus lanuginose (Oleaceae) in Hokkaido, Japan. Int. J. Plant Sci. 159(6):p.941-947.

2) 半田孝俊(2003)アオダモ局所個体群の性比と種子の性質-2002年北海道育種場構内での調査結果-. 北海道の林木育種 46(1): p.23-26.

3) 半田孝俊(2006)アオダモの開花周期-2002~2005年までの北海道育種場構内での観察事例-. 北海道の林木育種 49(1): p.20-23. 


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