更新日:2017年8月29日

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小笠原母島の希少樹種等林木遺伝資源保存林について

栗田祐子
森林総合研究所林木育種センター遺伝資源部

 

1.はじめに

今年6月、小笠原諸島は世界自然遺産に登録されました。登録にあたり、小笠原諸島の生態系は陸産貝類と維管束植物において高い固有性を示しており、その適応放散の数々の事例は、種分化および生態学的多様化の研究、理解の中核となっていると評価されています。
 林木育種センターでは、平成14年より関東森林管理局と共同で、小笠原母島の希少樹種等の遺伝資源を保存するため、保存林を造成してきました。今年で10年目を迎える小笠原母島の希少樹種等保存の取組みについて紹介します。
 

 

2.保存林について

図-1保存林の位置

図-1 保存林の位置

 

母島の桑ノ木山国有林「28ろ小班」内の1.5ha、「28は小班」内の0.47ha、計1.97ha(図-1)を希少樹種等遺伝資源保存林とし、その中のアカギ駆除跡地を活用して固有種11樹種を含む全て母島産の13樹種、約1240本の保存木を植栽しています(表-1)。
保存林のある桑ノ木山では、設定当時より外来種であるアカギが繁茂していましたが、同時に貴重な固有種の生育地でもあります。そのため、植栽区域をパッチ状に設けて、保存木の植栽にはアカギの多い箇所を利用し、固有種が多く生育している箇所はそのまま保全していく方法をとっています。
植栽区域では、平成14年度から17年度にかけて数回のアカギの巻き枯らし(樹皮を環状に剥いで枯らす)を行い、その後平成19年度にかけて、徐々に枯れたアカギの伐採、切り株から萌芽更新する枝の処理、周辺に繁茂する幼樹の伐採を行いました(写真-1,2)。現在では植栽区域内のアカギはかなり少なくなり、当初年3~4回行っていたアカギ稚樹抜き取りも現在では年2回に減らして実施しています。
保存木の育苗と植栽は、アカギ駆除と並行して行い平成13年度から各樹種の種子の採取、播種、育苗を順次開始し、平成17年度から21年度にかけて全樹種を植栽しました。

表-1 各樹種の保存状況(平成23年3月現在)
樹種 繁殖方法 系統数
(母樹数)
備考 
アデク 実生 15 広域分布
ウドノキ 実生 13 広域分布
オオバシロテツ 実生 15 固有種
オオヤマイチジク 実生 15 固有種・絶滅危惧種
オガサワラグワ 実生
組織培養
9
12
固有種・絶滅危惧種
オオバシマムラサキ 実生 10 固有種
シマホルトノキ 実生 15 固有種
セキモンノキ 実生
さし木
10
8
固有種・絶滅危惧種
ムニンシロダモ 実生 14 固有種
 ムニンイヌグス 実生 12 固有種
ムニンモチ 実生 12 固有種・絶滅危惧種
ハハジマノボタン 実生 10 固有種・絶滅危惧種
ハハジマトベラ 実生 6 固有種・絶滅危惧種
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写真-1巻き枯らし処理したアカギと周辺のアカギ幼樹 写真-2アカギ幼樹の駆除
写真-1 巻き枯らし処理したアカギと周辺のアカギ幼樹(平成16年撮影)  写真-2 アカギ幼樹の駆除(平成16年撮影)

  

 

3.保存木の生育状況

いくつかの固有種について、現在の生育状況を報告します。

オガサワラグワは、種子を採取し播種して育てた実生苗と、枝葉を採取して組織培養により育てた苗の二通りを植栽しています。実生苗(写真-3)は植栽後5年が経過しており平均樹高は3m程度、大きいものでは6m以上となっています。組織培養による苗(写真-4)は植栽後2~3年目で、平均樹高は2m程度になり、順調に成長しています。着花はまだ見られません。 

写真-3オガサワラグワ保存木(実生) 2011_No2_image4
写真-3 オガサワラグワ保存木(実生) 写真-4 オガサワラグワ保存木(組織培養)

 

 

 


セキモンノキも、実生苗とさし木苗の二通りを植栽しています。植栽から3~4年が経過していますが、平均樹高1.5m程度と成長は芳しくありません。植栽後にネズミの食害を受けたことも原因かと考えられます。現在は金網を巻いて食害を防止しています(写真-5)。また、さし木苗の一部の個体では着花が確認されています。 

写真-5セキモンノキ保存木
写真-5 セキモンノキ保存木

 

 


シマホルトノキは、植栽してから6~8年が経過しました(写真-6,7)。樹高は2~5mで、日当たりにより個体差はありますが、全体的に順調に生育しています。

写真-6植栽1年後のシマホルトノキ 2011_No2_image-7
写真-6 植栽1年後のシマホルトノキ(平成17年撮影) 写真-7 シマホルトノキ保存木

 

  


ハハジマノボタンは、植栽木が林床を覆って樹高2m程に成長しています(写真-8,9)。ちょうどツツジの植え込みのように小枝が繁っているため、植栽区域内ではアカギの実生がほとんど見られなくなりました。着花や結実も確認されています。

 

写真-8植栽半年後のハハジマノボタン 写真-9ハハジマ植栽区域の遠景
写真-8 植栽半年後のハハジマノボタン(平成18年撮影) 写真-9 ハハジマノボタン植栽区域の遠景
(白い幹は巻き枯らし処理したアカギ)

  

  

 4.おわりに

保存林周辺には、現在もアカギに覆われている箇所が多くありますが、植栽区域内ではアカギの稚樹が散見される程度となりました。設定当初から林内に生育しているタコノキなどの固有種もアカギの侵略を免れ成長しています。 保存林では今後も植栽木の系統管理と開花・結実状況の把握を定期的に行い、より良い方法で保存を継続していく必要があります。また、各樹種の母島全体の遺伝情報や分布情報を踏まえ、希少樹種等の遺伝資源保存により効果の高い保存林にしていくことが求められています。

 


お問い合わせ

所属課室:森林総合研究所林木育種センター遺伝資源部  担当者名:保存評価課

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