ここから本文です。
1.受賞名 | 平成31年日本森林学会学生奨励賞(受賞日:2019年3月21日) |
---|---|
2.受賞者の氏名、所属 |
伊津野 彩子(樹木分子遺伝研究領域) |
3.受賞理由 |
非モデル生物を対象に、ゲノムワイドなDNA塩基多型を解析した下記の学術論文が、森林科学において発展性が高く、今後の研究の展開が期待されるとして、評価された。 |
4.受賞対象研究の紹介 |
ゲノム中のDNAの塩基変異を調べることで、その生物のたどってきた進化過程を推定することができます。塩基配列解読技術の著しい発達により、近年では、モデル生物だけでなく野生生物を対象として、そうしたゲノムレベルの進化研究が可能になってきています。 ハワイ諸島の固有樹種であるハワイフトモモ(Metrosideros polymorpha; フトモモ科)は、同じ種でありながら諸島内の様々な環境に生育し、場所ごとに異なった形態を示します。ハワイフトモモがハワイ諸島への定着以降に多様な環境に適応したプロセスを紐解くことができれば、樹木が新しい環境へ適応するのに重要な形質について示唆を得られると考えられます。 上記論文では、ハワイ島マウナロアの標高150-2400mの範囲に生育する72個体を対象に、ゲノム中の1659遺伝子座におけるDNAの塩基変異を調べました。その結果、異なる環境に適応し、異なった形態をもつ集団間においても遺伝子交流があり、ゲノムの大部分で遺伝的差異は小さいことがわかりました。一方で、気温や降水量変化への応答に関与すると思われる一部の遺伝子座(34遺伝子座)においては、選択によって生じたと思われる、大きな差異が認められました。従って、ハワイフトモモは、一部の遺伝子座の変化によって葉などの形質に著しい差異が生じることで多様な環境に適応しており、種分化のごく初期の段階にあることが示唆されました。
【関連論文】 Izuno A, Kitayama K, Onoda Y, Tsujii Y, Hatakeyama M, Nagano AJ, Honjo MN, Shimizu-Inatsugi R, Kudoh H, Shimizu KK, Isagi Y The population genomic signature of environmental association with gene flow in an ecologically divergent tree species Metrosideros polymorpha (Myrtaceae).(2017) Molecular Ecology 26: 1515–1532. |
お問い合わせ
Copyright © Forest Research and Management Organization. All rights reserved.