ホーム > 環境報告書2021目次 > 環境報告書2021-8-1 社会貢献活動への取組
更新日:2021年9月30日
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中国・四国地区の気候は、中国山地、四国山地を境として冬に雪が多い山陰、夏に雨が多い南四国、雨が少なく乾燥した瀬戸内地方という異なる特徴を示す3つに区分され、森林植生も多様に展開しています。平均の森林率71%は北海道と同等で全国トップクラスであり、魚梁瀬(やなせ:高知県)を始めとする天然スギの産地のほか、木頭(きとう:徳島県)、久万(くま:愛媛県)、智頭(ちづ:鳥取県)などの林業地も全国的に高い評価を受けてきました。多くの人工林が生産適齢期を迎えている現在、全国の主伐・再造林をリードする役割を担っています。さらに近年では温暖化に伴う異常気象や震災発生により森林が持つ土砂災害防止、防潮、防風、飛砂防止等の防災・減災機能にも注目が集まっています。中国・四国地区の森林研究・整備機構の各機関では、こうした地域の森林や林業が抱える課題に応えるための取組や得られた成果の普及・橋渡しを行っています。
中国・四国地区の人工林率は県によって26%~65%と違いはあるものの、平均として約50%を占めています。現在その半数が50年生を超える状態となり、本格的に利用すべき時期を迎えています。2021(令和3)年4月に「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法」が延長され、中国・四国地区でも間伐や再造林が促進されています。その一方で、気候変動による温暖化や異常気象の増加に疑いの余地はなく、集中豪雨や台風による土砂災害等が激甚化しています。最近では「平成30年7月豪雨」が西日本を中心に集中豪雨を発生させ、中国・四国地方にも甚大な被害をもたらしました。森林は土砂災害を減らす効果を持っていますが、これからは森林の持つ土砂災害防止などの機能を維持しつつ人工林を利用していくことが求められます。関西支所では、山地災害が発生するリスクや災害リスクを軽減する適切な森林施業のあり方をテーマにした研修を行っています。座学研修では山地災害の誘因となる降雨特性や素因となる地形・地質の特徴について学習し、現地研修では山地災害が発生しやすい地形・地質について林道沿いの露頭で座学への理解を深めるという内容です。関西支所は今後も新たな知見と正しい知識の普及を図り、災害に強い森づくりに向け地域に貢献していきます。
鳥取県における「流木災害に強い森づくり研修会」の座学の様子
我が国の美しい海岸の風景を例える言葉に白砂青松があります。青松はクロマツが生い茂り、風やそれによって飛ばされる砂に向かって堂々と立つ様子を形容したもので、災害防止機能はもとより、風景としても未来に残すべきもののひとつでしょう。しかし、徳島県の大里松原(海部郡海陽町)では2019(令和元)年の台風19号による高潮のために海岸林の立木がおよそ12ヘクタールにわたって枯れてしまいました。さらに高知県の入野松原(幡多郡黒潮町)クロマツは数年来マツ材線虫病による激しい枯損が続いており、海岸林として機能しないほど立木密度が減少した部分もあります。四国支所では被害が顕在化する以前から立木の動態調査を行っていたこともあり、地元協議会をはじめとして、自治会、森林組合、市町村、県とともにクロマツや広葉樹苗の効率的な植栽、管理方法など、海岸林再生事業に対して技術の普及を図り、これまでに得られた試験結果の還元を目指しています。なお、植栽されるクロマツは林木育種センター関西育種場から譲り受け四国支所苗畑で育成している抵抗性品種であり、苗の現地適応試験も兼ねています。こうした取組は、将来の海岸林再生事業における具体的な技術指針の進展に貢献すると期待されます。
台風により海岸林内に堆積した砂礫上に植栽したクロマツ苗
森林大学校生徒との共同植栽作業の様子
講演会
現地検討(レーザースキャナーによる森林の効率的な現況調査)
現地検討(レーザースキャナー操作方法の説明)
地域イノベーション
北海道の森林資源の保続と活用を目指して
北海道ではトドマツやカラマツを主体とする針葉樹人工林の多くが主伐期を迎えており、その有効活用と伐採後の再造林が課題となっています。また、近年新たな付加価値を生む活用が進むなどして需要が高まりつつある広葉樹の持続的利用に向けて、資源の効率的な生産と再生を実現するため、北海道森林管理局、北海道、民間事業体等との一層の連携強化が求められています。このような地域の課題に対応する研究開発や成果の橋渡しを行っています。
ICTを活用した伐採・造林の一貫作業システムの構築
人工林資源が本格的な利用期を迎える中、今後も増加が見込まれる伐採・再造林の各作業において、従来ともすれば経験や勘に頼りがちで、人の手による作業が多くを占めてきた丸太の採寸・検知作業、植栽計画の立案、植栽時の位置決めといった作業を大きく改善すべく、ICTを活用したシステムの開発に民間企業と共同で取り組んでいます。
具体的には、(1)造材と同時に丸太の径や長さの計測・記録が可能な高性能林業機械(ハーベスタ)の採寸機能を木材流通の合理化にも活かすため、造材時に丸太に個体標識タグ(IDタグ)を取り付けて検知を効率化する丸太情報管理システム、(2)事前のドローン空撮やレーザ計測によって把握した地形情報をもとに保育や間伐等の作業への機械の導入や植栽作業者の負荷なども考慮した植栽列を自動的に設計し植栽計画を提示するソフトウェア(図1、造林プランニングシステム)、(3)高精度GNSS(全球測位衛星システム)測位により植栽すべき位置への作業者の誘導と植栽位置の正確な記録ができるデバイス(植付けナビ)の開発を行っています。林業関係者を対象とする実演会も開催し、意見交換を行いました(写真1)。また、造林プランニングシステムと植付けナビについては、林野庁の先進的造林技術推進事業の一環として上川郡下川町が実施する実証事業にも供される予定です。
図1 造林プランニングシステムにより立案した植栽計画
写真1 ICTを活用した伐採・造林の一貫作業システムの実演会
「地域再生シンポジウムin旭川」の開催
2020(令和2)年10月20日に、北海道における広葉樹材の加工・流通の中心地である旭川において、「地域再生シンポジウムin旭川」を、森林総合研究所、北海道森林管理局、北海道立総合研究機構森林研究本部、北海道大学北方生物圏フィールド科学センターにより共催し、森林総合研究所YouTubeチャンネルでのライブ配信(写真2)を通じて多くの林業関係者や一般参加者にご視聴いただきました(講演内容は北海道支所発行の『北の森だより』Vol.24(外部サイトへリンク)をご参照下さい)。
公設試験研究機関、大学、行政、民間企業など多方面からの参加を得て、北海道内外の広葉樹利用をめぐる情報の共有や、持続的かつ効率的な生産のための施業技術の在り方、利用拡大の可能性、素材の生産・流通・加工に関わる各主体の連携強化に向けた取組など、幅広い分野について議論が行われました。森林総合研究所ではカンバ類など北海道の広葉樹の更新や施業技術、流通などに関する研究開発を継続しています。
写真2 「地域再生シンポジウムin旭川」のライブ配信
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