文字サイズ
縮小
標準
拡大
色合い
標準
1
2
3

ホーム > 森林研究・整備機構 環境報告書2022 > 社会貢献活動への取組1

更新日:2022年9月30日

ここから本文です。

社会貢献活動への取組

地域社会との共生

関西地区における取組

関西地区の気候は、日本海側気候、瀬戸内気候、内陸気候、太平洋側気候、山岳気候等、地域によって大きく異なります。また、地形についても、瀬戸内海に面し人口が密集している平野部から、奈良や京都の盆地、さらには丘陵や山岳地形まで、バラエティーに富んでいます。これら多様な気候や地形の影響を受け、関西地区における森林や林業の状況は府県によって大きく異なり、森林率も吉野や尾鷲といった有名林業地域を抱える奈良県、和歌山県の75%程度から大阪府の30%までかなりの開きがあります。
一方、低コスト林業への転換、林業従事者の高齢化と担い手の減少、シカをはじめとする獣害や新たな病虫害の増加、気象の激甚化や地震に伴う土砂災害発生リスクの上昇など、地域を超えた課題も数多く存在します。
関西地区の森林研究・整備機構の各機関では、こうした地域の森林や林業が抱える個別あるいは共通の課題に応える研究開発等を行うとともに、得られた成果の普及や橋渡しに取り組んでいます。

森林総合研究所関西支所

再造林の省力化とシカ対策に関する現地検討会を開催

関西地域の人工林率は約45%であり、現在その半数が50年生を超えて主伐期を迎えています。木材生産を行う人工林で森林の有する多⾯的機能を今後も継続して発揮していくためには、主伐後の再造林を着実に進めていく必要があります。その⼀⽅、林業従事者の高齢化やシカ分布地域の拡大が大きな問題となっており、再造林の省⼒化やシカ対策を進めることが喫緊の課題となっています。そこで森林総合研究所関西支所は近畿中国森林管理局と共催し、現地検討会「再造林の省力化とシカ対策~再造林を促進するための課題解決に向けて~」を2021(令和3)年12月7日(火曜日)~8日(水曜日)に和歌山県で行い、造林・保育の省⼒化やシカ害の軽減に関する研究成果の橋渡しを行いました。
現地検討会初日は田辺市内のホテルにて6件の講演を行い、関西支所からは「コンテナ苗の現状と課題について」と題して、コンテナ苗生産者の育苗の現状や生産規模と生産基盤施設との関係について紹介するとともに、コンテナ苗生産における問題点と課題について講演しました。また、「シカ対策について」と題して、増えるシカと広がる被害、被害対策の考え方について紹介するとともに、シカの個体数管理の実践について講演しました。さらに講演後、6人の講演者と参加者らによる公開意見交換会を行いました。2日目は宮城川国有林にて、「ドローンによる資材運搬」、「冬下刈り」や「低コストシカ柵」について実演・紹介しました。関西支所からは「捕獲したシカ個体の運搬」と題して、携帯型電動ウインチ、電動クローラ1輪運搬車や簡易型架線方式運搬装置について実演し意見交換を行いました。
コロナ禍での開催にもかかわらず現地検討会には約160名の参加者がありました。関西支所では、今後も森林の有する多⾯的機能の持続的な発揮に向け、再造林の省⼒化やシカ対策をはじめとする森林の総合的な管理手法の開発と管理技術の普及に取り組んでまいります。

意見交換会の写真 1輪運搬車の実演の写真
講演者との意見交換会 電動クローラ1輪運搬車の実演

林木育種センター関西育種場

地域と連携した林木育種の取組-京都・奈良における里山での抵抗性アカマツの現地適応試験-

成長や木材強度に優れるアカマツですが、マツ材線虫病の影響により、現在では、林業・木材生産目的での人工造林はほとんど見られなくなってしまいました。一方、里山の構成要素として、生態的・景観的に重要であり、借景を取り入れる社寺庭園が多い京都、奈良では、文化的にも欠かせない樹種となっています。関西育種場は、里山の緑豊かな自然景観を保全・育成するため、2010年度から公的機関や民間企業体と共同で抵抗性アカマツの植栽試験地を設定し、開発品種の現地適応試験を行っています。
京都市との共同試験では、これまでに市内5か所に試験地を設定し、植栽後9~10年が経過しました。マツ材線虫病の被害は、植林後10年程度から増加するとされていますが、いずれの試験地でも枯損被害は認められておらず、立派に成林しています。また、奈良県内の企業が所有する林地に植栽した抵抗性アカマツは試験開始から5年が経過していますが、こちらも順調に成長しています。
今後も、利用目的や景観を考慮したアカマツ林の維持・管理の取組を、京都市や企業と協力して進めていきます。また、継続的な調査により、抵抗性が強く、マツ材線虫病の被害を受けにくい、現地によく適応した品種が明らかになることが期待され、これらの情報をさらなる品種開発にフィードバックして、アカマツ林の再生に貢献していきます。

京都市内の試験地の写真 奈良県の試験地の写真
京都市内の現地適応試験地(林齢10年) 奈良県王子町の現地適応試験地(林齢5年)

森林整備センター近畿北陸整備局金沢水源林整備事務所

アテ林の造成と苗木生産に関する技術交流会

アテは、青森のヒバと同じもので、石川県能登地方の呼び名です。アスナロ(ヒノキ科アスナロ属)の変種とされ、「石川県の木」として県民に親しまれている能登を象徴する林業用の針葉樹です。漆器や家具、住宅の内装、構造部材などに幅広く利用されており、石川県はアテ林の造成と、製材品として優れたアテ材を「能登ヒバ」として県をあげてブランド化を推進(※)しています。
森林整備センターでは、これまでに能登地域でアテを約200ha植栽してきました。一般的なアテ林は、択伐林施業※※を行う小規模な植栽地が多い中、森林整備センターの植栽地は、比較的大きな面積で林齢が揃ったアテ林を造成していることから、2021(令和3)年6月に石川県が開催した、「アテ林の造成と苗木生産に関する技術交流会」の会場に選ばれました。
技術交流会には、石川県職員のほか、能登森林組合をはじめとする県内の林業関係者が参加し、アテ林の造成方法について理解を深めるとともに、今後のアテ林の造成に必要となる空中取り木手法※※※による苗木生産技術の研修を行いました。参加者からは「アテ林の植栽を進めていきたい」「苗木の増産に向けて取り組みたい」など、未来の能登ヒバのために積極的に取り組みたいとの感想が聞かれました。
森林整備センターは、今後も林業に関する技術交流や情報交換の場に積極的に参画し、林業関係者等との連携や、地域の森林・林業の発展に貢献して参ります。

※「いしかわ森林・林業・木材産業振興ビジョン2021」
※※大きくなった木を抜き伐りして小さな苗木を植栽する等により、目標とする径級の林木から小径の林木までが連続して含まれる森林へ誘導する施業
※※※枝先の皮を環状に剥がし、湿らせたミズゴケを巻いて発根させる苗木の生産方法

アテ若木の写真 アテの葉の写真
アテの幼齢木と葉の特徴(写真提供:森林総合研究所関西支所)

 

空中取り木手法説明の写真
講師による空中取り木手法の説明(写真提供:石川県奥能登農林総合事務所)

 

地域イノベーション

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」地域 世界自然遺産登録2021

九州支所では九州・沖縄地域の温暖な気候に恵まれた豊かな森林を持続的に保全し、森林・林業・木材産業の課題解決のための研究開発や行政・産業界への成果の橋渡しを軸に活動しています。特に南西諸島地域には、世界的にも珍しい固有種が多く生息しており、これまで森林総合研究所では九州支所を中心に長年に渡って森林資源と生物多様性保全に向けた研究を行ってきました。そして、2021(令和3)年7月に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」地域が日本で5番目のユネスコ世界自然遺産に登録されました。わたしたちの研究成果の一部もこの世界遺産登録に貢献しており、今後も引き続き各機関と連携しながらこの地域の保全活動に尽力していきます。

 

連携協定の締結


今回の「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」世界自然遺産登録を契機に、これまでもこの地域の保全活動に関わってきた沖縄県をはじめとする行政機関、国立研究開発法人、大学の7機関で、2021(令和3)年8月19日にオンラインで結んで「沖縄島北部及び西表島の世界自然遺産登録地における保全管理等のための連携と協力に関する協定」の締結式を行いました(写真11)。今後は登録地域でのモニタリング調査などを協力して行うだけでなく、保全管理の担い手として若い世代や地域の人材を継続して育成していくために、この連携協定を有効に活用していきます。

連携協定調印式の様子の写真

写真11 沖縄県を含む7つの機関による連携協定調印式の様子

「九州地域公開講演会」の動画配信

九州支所では毎年「九州地域公開講演会」を開催し、地域の関係者をはじめ、一般の方々にも広く研究成果の発信を行っています。 2021(令和3)年度は世界自然遺産登録を記念し、この地域のうち特に沖縄で行われてきた研究成果に焦点を絞って、森林総合研究所林木育種センターとの共催で「沖縄の森林の生物多様性保全と人の暮らし」をテーマとした4つの講演を行いました(図14)。「令和3年度九州地域公開講演会」を林木育種センターと共催し、2021(令和3)年12月1日よりに森林総合研究所YouTubeチャンネルで4つの講演「令和3年度九州地域公開講演会」の動画を配信を開始しました。
また、これに先駆けて九州支所のホームページに特設ページを、研究所のホームページにも特設サイトをそれぞれ設け、相互リンクを張るなどして、世界遺産地域におけるこれまでの研究成果の積極的な情報発信に努めました。

令和3年度九州地域公開講演会チラシの図

図14 「令和3年度九州地域公開講演会」のチラシ