森林総合研究所について > 公開情報 > 交付金プロジェクトの評価 > 平成15年度交付金プロジェクト研究課題評価結果 > スギ材の革新的高速乾燥システムの開発
更新日:2010年5月11日
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主査氏名(所属): 久田卓興(研究管理官)
担当部署: 木材特性研究領域、加工技術研究領域、構造利用研究領域、木材改質研究領域
参画機関: 九州大学農学部、京都大学木質科学研究所、愛媛大学農学部、高知大学農学部、大分県林業試験場、熊本県林業研究指導所、住友林業筑波研究所、山本ビニター株式会社
研究期間: 平成12~16年度
1.目的
高品質なスギ乾燥材の安定供給と利用拡大を可能にするため、乾燥困難なスギを短時間で経済的に乾燥しうる革新的な高速乾燥技術を開発し、用途に応じたスギ材乾燥技樹の体系化を図る。このため、一連の技術開発、すなわち材質的なバラツキの多いスギ材の用途を原木供給段階で選別する技術開発、圧力制御下における水分除去と木材物性に係わる最新の知見を活用した乾燥日数を従来の数分の一に短縮可能な革新的高速乾燥技術の開発を行い、建築用材としての性能確保と経済性を達成しうる乾燥技術を確立する。
2.当年度研究成果の概要
原木丸太の選別に必要な材内の密度推定技術については、ピロディンの打ち込み深さのほか、今年度からは新たにレジストグラフによる穿孔抵抗、及びレーザー変位計を用いた木口の走査画像を用いる方法を研究し、特に後者は丸太の中心部の密度推定に有効なことが明らかにした。また、製材による歩止りを考慮した選別については、丸太材面に表れた節による仕分け技術を検討し、その可能性を見いだした。
乾燥過程モニタリングについては、開発した温度と圧力を同時に測定する新しい技術を用いて、材内の湿度から含水率を求める方法を研究し、かなりの精度でこれが可能なことを明らかにした。また、薬剤を使った乾燥処理の効率化については、パラフィンについて、急速乾燥、狂いや割れの防止、耐久性への効果を明らかにした。この処理は撥水性を利用することにより屋外構造物用の木材の乾燥に適用できる可能性がある。大断面材の乾燥については、蒸煮・減圧処理と天然乾燥による方法を検討し、処理効果の検討を行った。また、丸太材の乾燥については熱風とマイクロ波を併用する方法を検討し、背割り材に関しては実用化の見通しが得られた。
温度及び圧力の制御を基本とする新しい高速乾燥技術の開発については、従来測定が困難であった高温高湿条件における水分移動性、動的ヤング係数、応力緩和や収縮応力などに関する新しい知見が集積されつつあり、新しい処理技術における効果の解明が進んでいる。具体的な処理技術に関しては、温度を130℃とした過熱蒸気処理によって、心持ち柱材を割れなく急速に乾燥する方法が開発された。また、これにさらに高周波加熱減圧乾燥を組み合わせることによって、品質向上と急速乾燥を実現する方法を検討し、その可能性を明らかにした。これらの技術の実用化には、さらなる処理条件の改良と、乾燥処理材の建築用材としての性能確保が重要であるため、これらについても併せて検討している。すなわち、材料及び構造体としての強度性能、接合部の性能、シロアリや腐朽に対する耐久性等について検討し、これを適性乾燥処理に結びつけるための基礎データの収集を行った。その結果、おおむね温度130℃で24時間以内の処理であれば、強度及び耐久性にそれほど影響がないとの結果が得られている。しかし、これについてはさらに詳しく検討する必要がある。次年度においては、乾燥コスト等を含めてこれらを総合的に勘案し、スギ材の用途別の適性乾燥処理方法を明確にする予定である。
3.当年度の発表業績
4.評価委員氏名(所属)
岡野健(日本木材総合情報センター 木のなんでも相談室長、東京大学名誉教授)
祖父江信夫(静岡大学農学部教授)
笠木和雄(名古屋木材株式会社会長)
5.評価結果の概要
高速乾燥システムの開発は順調に進んでおり、個別の課題についても多くの有用な成果が得られている。しかし、最終目的である高速乾燥システムの開発という大きな流れの中では、個別課題によっては必ずしもこれにつながらないものや進捗度に遅速が見られる。研究成果のアウトプットに関しては、研究的要素の強い部分と技術開発の部分とがあり、そのかねあいに難しさがあるとは思われるが、最終的には、専門知識のない人でもわかるような平易なもの、専門の人に役立つようなもの、将来展望を含むようなものに分けて、整理していく必要がある。また、これらの成果を総合的にマニュアル形式でまとめていただきたい。
6.評価において改善を指摘された事項への対応
個別課題の進捗度にアンバランスがあるとの指摘があった。このため、個別課題がそれぞれどのような位置づけにあり、どのような役割を担っているかを再認識して、最終年度のとりまとめを行っていくようにしたい。また、研究成果は最終的にはマニュアル形式でのとりまとめも行う予定である。
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