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立田山の哺乳類

立田山に生息する哺乳類

 

熊本市のほぼ中央に位置する立田山において、2006から2019年にかけて、自動撮影カメラ法、わな法、聞き取り法により哺乳類相の調査を行った。過去の記録を含め、7目20種の哺乳類の生息記録が得られた。現在の立田山は、都市のなかに島状に残る小面積の森林としては豊かな哺乳類相を擁していることが明らかとなった。最近はイノシシの増加にともない、人間と野生動物の間のあつれきが高まりつつある。

1.立田山の哺乳類は21種

過去の記録を含め、少なくとも7目20種の哺乳類(霊長目ニホンザル、齧歯目ムササビ、アカネズミ、カヤネズミ、兎形目ニホンノウサギ、トガリネズミ形目ニホンジネズミ、ヒミズ、コウベモグラ、翼手目キクガシラコウモリ、アブラコウモリ、ノレンコウモリ、ユビナガコウモリ、食肉目タヌキ、イヌ、イエネコ、シベリアイタチ、ニホンテン、アナグマ、偶蹄目イノシシ、ニホンジカ)の生息記録が立田山実験林およびその周辺から得られた。ただし、これらのなかには、近年、生息が確認されていない4種が含まれている。

2.さまざまな調査で明らかになった哺乳類相

  • 自動撮影法では11種が撮影された。その内訳は、ニホンザル、アカネズミ属、ニホンノウサギ、タヌキ、イヌ、イエネコ、イタチ属、ニホンテンおよびアナグマ、イノシシ、ニホンジカであった(掲載写真は9種)。イヌとイエネコは首輪をつけていることがあり、飼育個体を含むと考えられた。イタチ属はシベリアイタチ(別名チョウセンイタチ)の可能性が高いと考えられた。九州本土において、イヌ、イエネコおよびシベリアイタチは外来種である。
  • わな法では、アカネズミのみが捕獲された。
  • 聞き取り法では、ニホンジネズミ、コウベモグラ、キクガシラコウモリ、アブラコウモリ、ニホンザル、カヤネズミ、ムササビ、ニホンノウサギ、アカギツネ、タヌキ、イエネコ、イタチ属、アナグマの生息情報が得られた。カヤネズミは、2009年、五高の森周辺の湿地において巣が確認されている。
  • 文献では1990年代のアンケート調査により、立田山周辺から、上記の種に加えて、イノシシの生息情報が得られていた(歌岡ほか 1996)。当時のイノシシの分布はかなり限られていたとみられる。
  • 捕獲実績はないが、コウベモグラのものとみられる塚や坑道は調査地内の各所にあるため、本種を確認種に含めた。

3.最近確認された種

  • アナグマは、支所構内から2011年夏に初めて目撃情報が寄せられ、2012年春以降は昼間にも頻繁に目撃されるようになったことから、定住していると考えられる。
  • ニホンザルは2006年1月4日、2007年2月28日、2008年10月2日に目撃された。その後も警察による注意喚起がほぼ毎年冬に発出されている。いずれも群れではなく、単独個体であったことから、移動途中の個体が目撃されたものと考えられる。2018年12月には自動撮影カメラで1頭の姿が記録された。
  • イノシシは、2013年12月にはじめて立田山実験林内において自動撮影カメラにより姿が記録された。その後増加し、最近では熊本市による捕獲が実施されている(2018年度実績43頭)。
  • ニホンジカは2016年頃から立田山に出没するようになり、立田山実験林では2016年11月にはじめて自動撮影カメラによりオスの姿が記録された。同時に複数頭が目撃されている。

4.最近確認されていない種

過去の文献資料によると、立田山から、ヒミズ、ノレンコウモリ、ユビナガコウモリが報告されている(吉倉 1974, 1984, 1988)。これら3種に上記のニホンジネズミを加えた4種については、最近数十年間以上にわたり確実な生息記録がない。

5.未確認の種

以上の21種のほかに、生息の可能性はあるが未確認の種として外来のネズミ類3種が挙げられる。人家周辺に生息するドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミは立田山周辺に生息する可能性が高い。しかし、これらの種はいずれも生息が未確認であるため、本研究の結果には含めなかった。

6.絶滅のおそれのある種

熊本県、大分県、宮崎県の3県からなる中九州からは7目52種(在来種39種、外来種13種)の哺乳類の生息の記録がある(安田 2011)。本研究によって明らかとなった立田山の哺乳類相は、絶滅種3種を除いた中九州の哺乳類相の41%(20/49種)を占めるが、このうち4種は熊本県のレッドデータブックの掲載種であり、保全上重要である。すなわち、ノレンコウモリは絶滅危惧IB類、カヤネズミとムササビは準絶滅危惧、ユビナガコウモリは要注目種とされている。ただし、上記のコウモリ類2種は数十年以上前に防空壕跡で発見されたものであり、防空壕跡は安全性の面からしばしば工事によって出入口が塞がれることがあるため、種の現状は不明である。コウモリ相については情報が不足しており、今後の調査によって明らかにする必要がある。

7.外来種

哺乳類相に占める外来種の比率は、中九州の27%(13/49種)に対して、立田山では15%(3/20種)であったが、上記の未確認の外来ネズミ類3種を含めた場合には26%(6/23種)であった。分布が確認された外来種3種はすべて食肉目であり、捕食者として在来の野生生物の脅威となる可能性がある。

8.まとめ

本研究により、現在の立田山は、都市のなかに島状に残る小面積の森林としては比較的良好な哺乳類相を擁していることが明らかとなった。しかし、長期的にみると、立田山の哺乳類相は生息環境の変化にともなって大きく変化してきたと考えられる。記録によれば、戦中から戦後の森林の伐採と農耕地への転換によって、1950年代の立田山は、細川家の菩提寺として長く保護されてきた泰勝寺跡(現在の立田自然公園)に残された古い森林と大正期に植えられたヒノキ林を除き、ほぼ全体がススキやササ類に低木が混じった草原的な環境に改変された(河原畑 1978)。この頃、森林性の哺乳類の多くは立田山に生息していなかったか、あるいは限られた面積の森林に少数が生息するにすぎなかっただろう。すなわち、現在の立田山の哺乳類相は、その後の森林再生にともなって新たに成立してきたものと言える。今後、継続的な生物相のモニタリングとともに、森林生態系の適切な保全活動が必要と考えられる。

 

ニホンノウサギ ニホンザル
タヌキ シカ
イエネコ イタチ属
ニホンテン ニホンアナグマ
イノシシ

研究の方法について

熊本市のほぼ中央に位置する立田山(北緯32.83度、東経130.73度、標高151.7 m、南北2.5 km、東西2.0 km)において、2006から2019年にかけて、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所九州支所立田山実験林とその周辺の二次林に生息する哺乳類を自動撮影カメラ法、わな法、聞き取り法により調査した。自動撮影カメラ法では、SensorCamera Fieldnote DC1000((有)麻里府商事、山口)やLtl-Acornシリーズを使用し、生の殻つき落花生やクラッカー、果実等を誘引餌に用いた。わな法では、金属製の箱わな(縦90 mm、横70 mm、奥行290 mm)を使用し、オートミール、生の甘藷、生の殻つき落花生を餌に用いた。わなの内側の底には60 mm×60 mmの板状のプラスチック製断熱材を敷き、捕獲された動物の保温を図った。聞き取り法では、森林総合研究所九州支所職員ならびに一般市民から目撃情報を収集した。立田山自然探検隊益田勝行氏には長年の貴重な調査結果を寄せていただいた。さらに、過去の生息記録についての文献資料を収集した。分類と和名は『世界哺乳類標準和名目録(川田ほか 2018)』に準じた。種の判別が困難な場合には属以上のレベルで整理した。種の保全状態については、『熊本県の保護上重要な野生動植物リスト-レッドリスト2014-』を参照した。


引用文献

歌岡宏信・松岡秀樹・坂本真理子・坂田拓司・長尾圭祐・平川朝子・北田 薫・中冨尚士. 1996. 熊本市に生息する野生動物の分布. -熊本市における野生動物の都市定住化に関するアンケート基礎調査より-. 熊本野生動物研究会誌 2: 49-57.
川田伸一郎・岩佐真宏・福井 大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽 創・姉崎智子・横畑泰志. 2018. 世界哺乳類標準和名目録. 哺乳類科学 58(別冊): 1-53.
河原畑 勇. 1978. 立田山南斜面の鳥類(1949-1957). 熊本生物研究誌 11: 1-13.
安田雅俊. 2011. 中九州の哺乳類相の特徴. 九州森林研究 64: 26-29.
吉倉 真. 1974. 北向山鳥獣調査報告. 白川ダム建設が北向山天然林に及ぼす影響の調査(最終報告)(熊本県自然保護課, 編), pp.1-45. 熊本県自然保護課, 熊本.
吉倉 真. 1984. 熊本の陸生哺乳動物. (1)研究史と陸生哺乳動物目録. 土龍 11: 27-55.
吉倉 真. 1988. 熊本の陸生哺乳動物. (2)分布と実態. 土龍 13: 100-117

 

 

記事掲載日:2019年11月

 

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