クロマツ雌球花の開花と受粉の適期

斎藤幹夫・山本千秋・萩原 訓・河野耕蔵・下平勝三

要旨

クロマツの自然受粉の雌球花について,開花を開始してから鱗片が閉じるまでの期間における種鱗,苞鱗の発達,珠孔の発達,閉鎖の状態,受粉液,珠孔内の花粉の有無などを解剖学的観察も加えて調査した。これらの観察結果から開花を5つのステージに分けた。開花ステージ別に受粉したところ,開花ステージVで内容の充実したタネが最も多くとれたので,このステージを受粉適期とみなした。ステージVは約半数の鱗片が露出した後,ほとんどの鱗片が露出するまでの時期であり,供試木のクローネ中部に着生した一つの雌球花について見た場合,開花開始後,6日目から11日目までの6目間がその期間であった。ステージVの雌球花の特徴は次のとおりである。種鱗は苞鱗よりも大きく,鱗片間の間隔は最大である。珠孔の腕は十分に発達し,常に湿潤な状態にある。花粉をかけると,珠孔の腕や入口付近によく付着する。一方,交配袋をかけ,無受粉に保った雌球花がこのステージに達したとき,受粉液が観察された。透明な受粉液が珠孔の腕を支えとして,球状に分泌した。この状態の雌球花に受粉すると受粉液に付着した花粉は,受粉液の引き込みにより珠孔内部に移動した。

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