クロマツ雌球花の受粉の有無と珠孔の閉鎖

斎藤幹夫

要旨

 マツ属の受粉機構に関する研究の一環として、クロマツの自然受粉、人工受粉および無受粉のそれぞれの雌球花を用いて,受粉適期から珠孔閉鎖完了までの期間について胚珠の解剖を行い、珠孔の閉じかた、受粉適期の終わりから珠孔の閉鎖完了までに要する日数および受粉の有無と閉鎖との関係などを調べた。その結果は次のとおりである。珠孔は珠孔壁を構成する細胞層の内側の1〜2層の細胞が珠孔壁に対してほぼ直角方向に伸長し、珠孔内壁が相接することによって閉鎖する。この細胞の伸長は珠孔の対面する2か所〔胚珠の上側(向軸側)と下側〕で起こる。したがって、横断面で見ると,その閉じ口は一文字形の細長い線状となる。受粉適期の終わりから、珠孔の閉鎖完了までに要する日数は自然受粉、無受粉のそれぞれでおよそ9日、18日であった。花粉の粒径を考慮に入れると,受粉適期の終わりから、花粉粒が珠孔を通過できる期間は自然受粉では4日、無受粉では10日であった。無受粉の場合にも珠孔は閉鎖するが、閉鎖完了までの期間が9日も長くなった。なお、受粉(人工受粉)してから珠孔の閉鎖完了までに要する日数および花粉粒が珠孔を通過できる期間はそれぞれ、13日、8日であった。

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