宮島地区における空中散布によるスミチオンの残留

田畑勝洋,大久保良治

   要旨

 広島県宮島町では1973年〜1975年の3年間にわたり,マツ類枯 損防止のためスミチオン剤が空中散布された。この間,著者らは種々の森林生態系のスミチオンの 残留をガスクロマトグラフ法(FTD)によって調査した。スミチオンは空散直後には土壌,河川水 およびアセピ葉から検出されるが,河川水では24時間以内に消失し,土壌やアセビ葉でも散布後お よそ3か月で検出限界に近づいた。また,土壌表層の落葉層では散布後,高濃度のスミチオンがみ とめられた。この濃度も日数の経過とともに減少し,第2回散布時に再び増加するがその後は徐々 に消失した。また,1976年に調査した土壌,落葉層,河川水,マツ葉,スギ葉やアセビなどの下層 植生類および昆虫類ではスミチオンの残留はすべて検出限界以下であった。しかしマツ枝では平均 0.02ppmのスミチオンが検出された。また,今回調査したミミズ類にも同濃度のスミチオンを検出 した。また捕獲された1頭のニホンジカの各組織や糞中にはスミチオンの蓄積は認められなかった。 したがって,本調査のかぎりでは,マツ類枯損防止のために空中散布したスミチオンはこのような 森林生態系の中では長期間残留することはなく,また残留量も少ないと考えられる。

全文情報(2,106KB)