西ノ川山国有林におけるヒノキ天然生林の解析

桜井尚武

   要旨

 この報告では,天然更新のための初期の補助作業や,その後な される保育作業などが成林後の林分の質的,量的成長にどのような影響を及ぼすかを,壮齢のヒノキ 天然生林において,人工林と比較しつつ明らかにすることを主な目的とした。
 調査は,高知県安芸営林署管内西ノ川山国有林に1918年に設定されたヒノキ天然更新試験地と,そ れに隣接する約60年生のヒノキ人工林で行われた。当時の記録によると,この試験地には処理区とし て上木除去区,上木除去・地掻き区,上木残存区が設けられ,上木残存区は上木の疎密によりさらに 2区にわけられた。更新初期には各処理区とも多くの稚樹の発生がみられ,特に上木除去・地掻き区 に著しかった。上木を除去した区の稚樹の成長は良好であったが,上木残存区においては,残存上木 による庇陰の影響が顕著であった。更新後約60年を経た現在の状態は,上木除去区では林分構成値や 材積は,隣接する地位の良いほぼ同齢のヒノキ人工林と良く似た値を示した。一方,上木除去・地掻 き区も十分に成林したが極めて過密な林相を呈し,人工林や上木除去区にくらべ全般的に劣っていた。 この違いは,上木除去区が人工林に近い保育を受けてきたのに対し,上木除去・地掻き区は更新初期 を除き自然状態のまま放置されてきたことによると判断された。上木残存区は両区ともヒノキの総材 積は人工林より高い値を示したが,更新樹は残存母樹により強く被圧され,成立密度も低かった。ま た残された母樹はアバレギの様相を呈していた。これらのことから,天然更新林分においても,適切 な保育管理を施せば人工林に劣らぬ成果が得られるものと結論された。

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