日本産ハタネズミMicrotus montebelli MILNE-EDWARDS
に対する抗凝血性殺鼠剤 2-(dephenyl acetyl)-1,
3-indandioneの野外効果試験

北原英治

   摘要

 現在,ネズミ類の駆除法は多数あるが,殺鼡剤の使用による駆除法が 最も効果のある方法とされており,数多くの種類の殺鼡剤が開発されている。しかし,屋外に生息する野 ネズミ類の駆除においては,速効性を有することと中毒死したネズミの摂食による二次的中毒が起こりに くい点により,燐化亜鉛剤が最も普通に使用されている。殺鼡剤は麦粉,サツマイモ,米糠,ふすまなど に少量の魚粉などを混ぜて現地のネズミの好みに合わせた毒餌として用いることが多い。それ故,毒性が 速効性のため燐化亜鉛剤について,二次的中毒は程度の差こそあれ避け難い問題である。また,摂食薬量 が致死量に到らない個体は,この殺鼡剤を忌避する傾向を示すことも知られている。
 本試験に供した2-(diphenyl acetyl)-1,3-indandioneは従来野外の野ネズミ類駆除に,その効果が疑 問視されてきた抗凝血性殺鼡剤の一種である。ネズミがこの種の殺鼡剤を数日間連続摂食すると血液凝固 機能の喪失と内出血が起こり,死亡する。この殺鼡剤は前述の燐化亜鉛剤においてみられる忌避性と二次 的中毒性をほとんど有しない。
 本州と九州の森林において主要な加害種であるハタネズミMicrotus montebelli M ILNE-EDWARDSを対象種として,千葉県印旛郡の利根川河川敷と,同じく千葉 県富津市郊外にある鬼泪山において試験を行った。利根川河川敷においては50×100m(10m間隔にて1か所 に4個のワナを設置−合計200個),鬼泪山においては40×80m(10m間隔にて1か所2個のワナを設置−合計 64個)の試験区にて,記号放逐法を用いて調査した。まず,毒餌の配置(両区とも1か所50g)に先立ち, その試験区における野ネズミの生息状況を把握し,毒餌配置後再びワナ掛けを行い捕獲される記号個体の 有無にて,殺鼡剤の駆除効果の検討を行った。
 利根川河川敷において,毒餌配置前7日間のワナ掛げにより411頭の個体に記号付けを行い,配置後3日間 のワナ掛けにより183頭の記号個体を捕獲した。それ故,この試験区における駆除効果は約50%と計算される。 一方,鬼泪山試験区においては,毒餌配置前のワナ掛けで46頭の個体に記号付けを行い,配置後記号個体を 7頭捕獲したにすぎない。それ故,鬼泪山においては86%の駆除効果をみた。
 利根川試験区に生息するハタネズミはha当り1,120頭と計算され,異常なまでに高密度であった。この異 常に高密度な個体群と,配置殺鼡剤の量が密度に比して過少であったことが,この区において50%と低い駆 除効果を示した主要な原因であると考える。一方,鬼泪山試験区では未記号個体の死体を発見することもし ばしばであった。それらの死体は吻端に出血跡が認められ,明らかに本試験に供した殺鼡剤を喫食して死亡 したものと考えられる。これらの事実は,供試殺鼡剤の高率駆除効果を裏付けるものであった。
 以上,2つの試験区においての結果から,2-(diphenyl acetyl)-1,3-indandioneは野外においても十分 にその野ネズミヘの駆除効果が期待できるものと思われる。

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