トドマツ,アカエゾマツ苗木の耐乾性に関する研究

高橋邦秀

   要旨

 この報告ではトドマツ,アカエゾマツ苗木の水ストレスに対する 反応を耐性(樹体が乾燥状態になっても耐える性質)と回避性(乾燥状態にならないように樹体の水分 状態を有利に保とうとする性質)の両面から検討し,2樹種の苗木の耐乾性の違いを明らかにすること を目的とした。
 実験はトドマツ,アカエゾマツの1〜8年生苗木を材料とし,障害を受けた時の苗木の水分状態や土壌 含水率,致死時間,光合成の乾燥に対するヒステリシスの程度などで耐性を調べ,苗齢,脱水速度,気 孔閉鎖時の水分状態,蒸散係数,乾燥時の光合成の低下速度などで回避性を調べた。苗木の水分状態は 枝葉の木部圧ポテンシャル(P),浸透圧,相対的含水率(RWC)で求め,光合成量は赤外線ガス分析装 置で測定した。2樹種とも脱水速度は苗齢の大きいもの程遠く,気孔閉鎖は永久萎凋点付近のPで始まり, 可視被害発生の前に枝葉の篩部細胞に萎縮が観察された。被害発生点や致死点でのPはアカエゾマツが トドマツより低くなったが,永久萎凋点付近の土壌水分や同一脱水率に対する苗木の水分状態はトドマ ツがアカエゾマツより良好であり,致死点でのRWCや土壌含水率もトドマツのほうが小さかった。また, 乾燥処理された苗木が移植後活着する限界のPはトドマツがアカエゾマツより低く,致死時間もトドマ ツで長くなった。このように一時的な水ストレスをおこす土壌乾燥や移植に対し,耐性と回避性とから 総合するとトドマツはアカエゾマツより耐乾性が大きいと考えられる。一生育期を通しての土壌乾燥時 における蒸散係数はトドマツがアカエゾマツより小さく,トドマツの水利用効率が良いことを示したが, これは光合成の低下速度や給水後のヒステリシスの程度により裏付けられる。これらのことから,慢性 的水ストレス条件でもトドマツはアカエゾマツより耐乾性を示すと考えられる。

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