マレイシア産フタバガキの裸根苗の移植

−苗木の貯蔵でんぷんが活着・生長に及ぼす影響−

森 徳典

   要旨

 東南アジアでは,ポット苗による造林が一般的であるが,造林推進の ためには,経済的な裸根苗による造林法が有利である。そこで熱帯多雨林を代表するフタバガキ科樹種の 裸根苗による造林法の可能性を検討するため,移植法,苗木の形質,樹種特性などについて調べた。移植 前にすべての枝葉と主軸の上半部を除去して,根株状にした苗木を植栽する方法は,多くの樹種で裸根移 植の場合の活着率を向上させた。またこの根株状の苗木はポリ袋に入れて保存することにより,活着率を 低下させることなく,半月以上貯蔵できた。根株移植が困難であった樹種は萌芽性が悪いか,萌芽後枯死 する割合が高かった。これらの樹種に対して,肥料やホルモン類を供与しても活着率はほとんど変らなか った。一方根株状の苗木は移植後体内貯蔵でんぷんを利用して生長することがわかり,それが多い樹種, 個体ほど,移植後の活着・生長が良かった。苗木の貯蔵でんぷん量は1年中ほぼ一定値を示したが,その量 は樹種によって大きく違った。すなわちビルマ・タイの雨緑林を中心に分布する樹種でその量は多く,マ レイシア・ボルネオの常緑多雨林にのみ生育する樹種で少なかった。調べた16種の樹種では,前者に属す る樹種はすべて高い活着率を示した。これは生育地の気象条件にこれらの樹種が適応して,でんぷんを多 量に蓄積する外に,耐乾性や萌芽性も高いためと思われる。したがって雨緑林に分布するような樹種を選 択し,健全な苗木を育てれば,裸根による造林も可能な場面があると考えられる。

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