フェニトロチオン(MEP)剤によるヒノキの異常落葉現象に関する研究

細田隆治

   要旨

 松くい虫被害予防のためにフェニトロチオン(以下MEPと表示)を主 剤とした薬剤散布が行われている。しかし,1974年頃にこの影響によるヒノキの異常落葉現象が各地で現 れ,予防事業実施上の障害となった。これはそれまで知られていなかったヒノキに対する薬害であって, 緊急な対応研究が要請された。  この異常落葉現象はMEP剤散布後1週間程度で始まり,約1か月後には樹冠全体が枯死状態になる。この現 象は,ヒノキの系統により異なると思われるが,今までの調査例では,林分内の10%前後の個体に現れると されている。若い実生苗木では現れず,5〜8年生頃から出現し始め,幼齢林よりも高齢林で出現しやすい ようであった。ヒノキ個体のMEP感受性は非感受性,弱感受性(落葉はするものの枯死しない個体),強感 受性(激しく落葉し枯死する個体)に区分できる。この感受性を実験的に調べるには樹冠のどの部位からで も小枝を採取して,それに薬剤をかければよい。
 強感受性木は0.1ppm程度のきわめて低濃度のMEP剤でも,激しい落葉を示した。この落葉現象は,気温の 高い時期ほどMEP剤接触後短期問に出現し,4℃以下の温度ではみられず,明暗条件はほとんど関係なかった。 強感受性木の増殖はさし木では困難であるが,つぎ木ではかなり高い活着率がみられた。そのつぎ木苗は母 樹と同じような激しい落葉現象を示した。このような異常落葉現象はヒノキ以外の樹木ではほとんど現れな かった。

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