水源かん養林の機能理論と施業目標

遠藤泰造

   要旨

 この報告は山地小流域の貯水機能の定式化による水源かん養林の 機能理論と施業目標を取り扱ったものである。一降雨ごとの流域水分不足量の補給に関する経験式をみ ちびき,出水曲線の解析の際の単位時間の損失雨量の計算に適用した。二つの小流域で観測された合計 46の出水曲線について,2時間単位の損失雨量,有効雨量,流域貯水量およびその変化量,流出量を計 算した。次に単位時関流出量(q)とその時の流域貯水量(H(T))との関係式を流 域別に求めた。解析資料によると,q(T)=fH(T)+gの関係が成立 する。この式のfは流域貯水量の流出係数,gは定数で,洪水時の最大流出係数(P) と流出係数(f)および先行降雨の継続時間(T)との間には大略fP≦ 1-(1-f)T+1が成り立ち,流域因子である流出係数と降雨条件 とから洪水時最大流出係数を決定することができる。単位時間の流域貯水変化量(S)は有効 雨量(re)と流出量(q)との差に等しいという原則に基づいて, 出水期間の小流域の貯水機能式S(T)=re(T)- fH(T)-gをみちびいた。この貯水機能式は単純であって,流域貯水機能を数量的に 評価するのに有効である。貯水機能式によると,水源かん養林の施業目標は有効雨量または損失雨量の 増減,流域貯水機能の現状維持または強化との二つに大別され,流域貯水機能の施業目標は流出係数の 現状維持または改良と有効流域貯水量の維持または増大とに細別される。この研究により,山地小流域 の貯水機能を定式化し,これによって水源かん養林の貯水機能を論拠づけ,その施業目標を明確にする ことができた。

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