北海道におけるスクレロデリス枝枯病,特に病原菌とその病原性

横田俊一

   要旨

 Scleroderris lagerbergii GREMMENによる トドマツ枝枯病は,1970年に発生して以来,北海道の若齢トドマツ造林地に著しい被害を生じている。その後 本病はストローブマツおよびヨーロッパモミにも発生していることが明らかにされた。したがって,当初本病 名はトドマツ枝枯病とされていたが,他の樹種にも発生しているのでスクレロデリス枝枯病とし,この前に樹 種名を置き,たとえばトドマツのスクレロデリス枝枯病と呼ぶことを提案した。
 本病病原菌の形態のうち,完全世代については地域,樹種のちがい等に基づく相違は認められないが,不完 全世代の柄胞子の大きさにはトドマツとヨーロッパモミ上のものとストローブマツ上のものとの間には著しい 相違がある。前者は主として7隔膜で平均50μm,後者は主として3隔膜で平均30μm程度の大きさである。世界 的にみて本病菌にはヨーロッパ,北米,およびアジアの3系統(生理的レース)が知られており,トドマツ上 の菌はアジア系統であるが,ストローブマツ上の菌は北米系統またはヨーロッパ系統のいずれかに属するもの と考えられるが,その激しい病原性から判断すると,むしろヨーロッパ系統に近いのではないかと判断される。
 トドマツ上の本病菌の寄主範囲を明らかにするための接種試験の結果,本病菌はトドマツ以外にもモミ属で はアオモリトドマツ,ヨーロッパモミ,チョウセンモミ,フレーザーモミに対して,トウヒ属ではルーベンス トウヒに対して,マツ属についてはクロマツ,バンクスマツ,レジノーサマツ,ハイマツ,キタゴヨウ,スト ローブマツ,モンテコラマツに対して,それぞれ病原性を示し,広い寄主範囲を有することが明らかとなった。

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