在来工法木造住宅の実大火災実験

上杉三郎

   要旨

 既存の木造住宅,特に都市の人口密集地における在来工法木造住宅(軸組工法住宅)の防火改修を目的とし,試作した住宅による実大火災実験から既存木造住宅の防火性能の評価を検証した。
 過去の実大火災実験の結果から,各部屋ごとに防火性能を有する材料で隔離する「区画防火」が室内火災に対して有効であることが明らかとなっている。この実大実験における既存の防火改修も「区画防火」を第一に考慮するものとした。
 実験による室内火災温度は最高1,200℃に達し,温度の上昇速度はJIS A 1301「建築物の木造部分の防火試験方法」に規定されている1級加熱曲線に類似していた。出火室と上階にある部屋の開口部(窓)を開放することにより延焼速度は速くなり,出火時の開口部条件,特に外壁開口部の開放状況が延焼速度に大きな影響を及ぼした。防火性能を有する被覆材によって改修された室内であっても,その構成材料の一部に可熱性材料が使用されている場合,ここが弱点となり,防火改修の効果は低下した。
 難燃ドアは遮熱,遮炎の防火性能に優れ,有効に作用したが,今後の使用については,軽量化の必要がある。木製サッシ・線入ガラス窓は,アルミサッシ窓に比べ,室内火災に対しては,破壊,脱落が遅く,防火対策上有利であった。
 小屋裏の簡易な防火壁は,小屋裏から室内への火災の侵入を阻止し,区画防火の有効な手段であることがわかった。また,壁体内に簡易なファイアーストップ材を設けることで,壁体空間を経路とする延焼にも,防火上有効であることがわかった。
 これからの結果から,既存の木造住宅の防火改修に有効な区画防火の設計施工について,有益な指針が得られた。

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