山村集落の合意形成過程

柳 次郎

   要旨

 この資料は合意形成過程の一般理論化と理論の山村集落に対する現 地検証を試みたものである。
 理論面では合意形成に関する既往諸文献を収集してその総合化をはかった。その結果として,合意形成 過程の理論的解明には,経済理論の援用による合意形成市場と合意形成費用の両概念の適用が有効と みられること,複雑な大組織体相互間の合意形成過程の分析には,組織体内部のかげひきに着目した決 定モデルが利用できること,社会をその性格の相違からムラ社会とマチ社会にわけて合意形成過程と関係 づけるとムラ社会の全員一致決定,マチ社会の多数決定と性格分類ができるほか,自己抑制的全員一致 と本来の全員一致は異なる性格をもつこと等がわかった。
 実証面では,農業集落を例にとり,ムラ社会からマチ社会への移行に伴って合意形成過程がどのように 変化するかを,前述の理論面から考察し,全員一致から多数決への移行,合意形成の場の拡大と多様化, リーダーシップの広域化とリーダーの多様化,「全体和の尊重」の維持,等の諸項目を含む仮設をつくり, 1980年世界農林業センサスおよび静岡県春野町調査資料に依り検証して,仮設にみられる傾向の存在を みとめた。
 さらに,ムラ常会の日常的な合意形成過程の記録について,その分析手法試案を提示,最後に非日常的 なダム補償紛争に関しても,調査資料にもとづいて,合意形成研究のためのチェックリストを作製した。

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