高海抜流域における森林伐採と暖候期間の流出量変化 第1報

宝川試験地の本流流域について

〔宝川森林治水試験第4回報告〕

吉野昭一,菊谷昭雄

   要旨

 宝川試験地の本流流域における1938〜'78年の水文資料を用いて,流域内 の森林伐採による暖候期間(8〜10月)の流出量変化を統計的に解析した。
 この流域では1937年11月に試験を開始し,1961年までは流域内の森林には伐採等の処理はなかった。
 しかし,試験開始前の5年間に,すでに流域内で面積約300ha,森林面積に対して23%,材積約3万m3の森林が伐採されていた。この伐採の流出量への影響は,試験開始後の無処理期間 の前半である1938〜'47年ころまで残っているものとみなされた。この期間における毎年の流出量には,その 後に続く1948〜'61年の期間に比較して,有意な増加は認められなかった。しかし,前記の二つの期間で,流 出量を推定する回帰式を比較したところ,1938〜'47までの期間の方に47.7mm,12.7%の増加が認められた。
 また,1962〜'78年までに,流域内で面積約500ha,森林面積に対して38%,材積約6万m3の本格的な伐採が 行われたが,この伐採による毎年の流出量の増加は,明らかに認められた。しかし,この増加の程度は,必ず しも伐採量の多少と符合するものではなかった。この伐採期間と1948〜'61年までの無処理期間の二つの期間で, 流出量を推定する回帰式を比較したところ,伐採期間の方に78.3mm,23.2%の増加が認められた。

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