ヒノキのfenitrothion(Sumithion^�O)による異常落葉現象のメカニズム　�V

−落葉および内生エチレン生成条件とパーオキシダーゼ活性−

田畑勝洋

　　　要旨

　1975年，大阪府や高知県下の松くい虫防除事業散布地において ヒノキの異常落葉現象が発見された。その原因はすでにスミチオンなどのジメチルチオ燐酸やジメ チル燐酸型の有機燐化合物であることが明らかにされている。この異常落葉現象は著しい内生エチ レンの放出を伴い，O₂飽和条件下やあるいはCO₂吸収剤の下で促進され，CO₂，Br，N₂の飽和条件およびエチレン吸収剤や真空下では抑制された。RNAや蛋白質の 合成阻害剤であるアクチノマイシンDやシクロヘキシミドは，スミチオンによる異常落葉を抑制する 効果があった。AOAやPGのエチレン生成中間代謝物であるACC合成阻害剤はスミチオンによる異常落葉 を抑制する効果は認められず，内生エチレンの放出も阻害しなかった。感受性ヒノキのパーオキシダ ーゼはスミチオンによって活性化され，新たな酵素バンドの誘導が生じたが，非感受性ヒノキのパー オキシダーゼはスミチオンによる活性化は認められず，むしろ一部の酵素バンドが阻害された。以上 のことからスミチオンによるヒノキの異常落葉現象のメカニズムは次のようであると推論した。すな わち，感受性ヒノキではおそらくエチレン生成に関与すると考えられるパーオキシターゼがスミチオ ンによって著しく活性化される。そして多量の内生エチレンの放出が助長され，その結果，異常な落 葉が誘起される。しかし，非感受性ヒノキではこのパーオキシダーゼがスミチオンによって活性化さ れることがなく，むしろ阻害されるため，内生エチレンの生成も落葉も抑制される。

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