(研究資料)

浮鉢式自動灌水法

吉本 衛

   摘要

 従来の定重量式自動灌水法では,植木鉢の重量変化を検知する秤と,これに 連動する給水装置とを組合せた複雑な器械が必要であった。簡単な装置で同様の自動灌水ができれば,植 物や土壌の研究にも,実用上の栽培にも有用であろうと思われる。そこで,工夫を凝らした結果,次のよ うにすればよいと考えた。植木鉢を水に浮べ,蒸発散による重量減少のための浮上と,灌水による重量増 加のための沈下とを利用して,給水装置の弁を開閉させれば,秤を省くことができる。さらに,植本鉢の 底に開管を付け,この開管を植木鉢の浮沈に応じて開閉する弁を一定水深に設置し,水をこの開管を通じて植木鉢に供給するようにすれば,給水装置も省くことができる。浮力不足の場合は植木鉢に浮子を付け,重量不足の場合は底に重錘を付ければよい。植木鉢の水中での安定は,重心が浮心より下方にあればよく,植木鉢,土壌, 植物,浮子および重錘のそれぞれの重量・浮力および重心・浮心の位置から判定できる。 開管を開閉する弁としては,容器に入れた水銀を用い,水銀面を一定水深に保つため,容器を浮子から吊り下げ,この浮子におもりを載せておき,これを加減して水銀面の深さを調節するようにすれば便利であ る。水銀を弁とした場合,管端が水銀に接していると水は管に侵入せず,管が上昇して水銀面から管端が 離れると水が侵入するが,管の内壁が滑かなときは,管端と水銀面との間隔が管径に応じた一定距離に達するまで,水銀の表面張力のため水の侵入が始まらないのに反し,管の内壁が粗であれば,その微細凹部 が水銀に充たされず,水の通路となって,管端が水銀面から離れると直ちに水の侵入が始まること,およ び管の内壁に多数のV型縦溝を刻むと水が侵入し易く,その侵入速度は近似的に管端と水銀面との間隔の2 乗の12.6倍に正比例し,その比例常数は縦溝の大きさと数に依存することが,種々の管を用いた実験から 判った。水の侵入速度が植木鉢の蒸発散速度に等しくなるまで植木鉢は浮上するので,その浮上距離と植木鉢の断面積の積が植木鉢の重量の誤差となる。これを試算した結果,管の縦溝の大きさと数が充分であれば,高精度の自動灌水が可能と推定された。植物の偏倚生長で植木鉢が傾いたときに生ずる誤差の推定も可能で,これが大きい場合は釣り合いおもりで修正すればよい。この装置は,大小各種のものが容易に廉価で製造できること,精度が高いこと,土壌重や土壌水分を広範囲に変えられること,栽培中いつでも 補正や変更が容易で,装置の移動も容易であること,故障が考えられないこと,電力その他のエネルギー が不要なこと等の利点をもつが,他方,生育中の植物体の重量増加による誤差の補正が必要なこと,風雨の影響を避けねばならないこと,重心の高い植物の栽培に不適なこと等の欠点もあると考えられる。以上の考察にもとづく試作品は順調に作動し,この自動灌水法が実用可能であることを示した。

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