堀野眞一,柔畑 勤
造林木に対するニホンカモシカとニホンジカ(以下,カモシカとシカ)の食害防除法を確立するために は,基礎的研究として両種の食性を明らかにしなければならない。これまで,一方の種のみを対象とした研究はかなり行われてきたが,混生 地で両種を対象にした研究はほとんどみられない。また,両種の食性と食害を定量的に把握するためには,これまで慣習的に用いられてきた 食痕調査法よりも,糞量と糞内容分析とを結びつげた調査法の方がはるかに優れている。本研究は,糞量調査と糞内容分木斤を行うことによ り,混生地での両種の食性を明らかにするとともに,ヒノキ幼齢造林地で発生する食害のうち,カモシカとシカのそれぞれによる食害がどれ だけの比率であるかを計算した。
調査は1981年10月から1983年10月まで,三重県大台ケ原山中腹の1979年植えヒノキ幼齢林を中心に行った。
糞内容分析の方法は次のとおりである。まず,糞を10%硝酸とともに50mlビーカーに入れる。これを1時間湯煎した後,糞中の粘性物質が分 解するまで約60℃で保温する。上澄みを捨て,2回水洗してからAPATHYのガムシロップでスライドに封入する。スライ ドはNOMALSKYの徴分干渉顕微鏡を用いて200倍で観察する。
結果は次のとおりである。
1.カモシカとシカ両種の主食はイネ科植物であった。その中でも特に,本調査地の優占種であるスズダケの占める割合が非常に高かった (Table 1)。
2.両種の食性には次の相異点が認められた。第1に,カモシカの食性に占める木本植物の比率がシカのそれより高く,イネ科植物は逆に シカのそれより低かった。このことは,カモシカを木本食い,シカを草本食いとする従来の見解と一致している。第2に,シカの食性はカモ シカのそれより経時的に安定していた。
3.カモシカおよびシカによるヒノキ食害は,積雪期の食物不足が原因で起こるという仮説を採用している報告が多い。しかし,本調査地 では,ヒノキが周年摂食されていただけでなく,採食可能な植物の減少にともなってヒノキの摂食量が増大する負の相関関係が認められなかっ た。したがって,本調査地で発生した食害にこの仮説を適用することはできず,むしろ,両種がヒノキを常食のひとつとしている可能性の方 が強い。
4.ある地域において,カモシカとシカの両種が一定期間にある植物を摂食した合計量に対する,カモシカとシカのそれぞれの摂食量の比 率を「植物摂食分担率」と定義した。ヒノキの「摂食分担率」をカモシカとシカについてそれぞれ計算すると,本調査地で,調査期間中にヒ ノキの受けた食害の60%がカモシカ,残る40%がシカによるものであった(Fig.6)。
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−林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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