海岸林の開発における林帯保全に関する研究

坂本知己

   要旨

 港湾建設の関連工事が進められている,札幌の近郊,石狩の天然生海岸林を主調査対象地として,海岸林伐開後の 林縁部に生じた樹木の折損や枯死並びに環境の変化を調査した。その結果に基づいて海岸林の機能の再評価を行い,林帯の保全に関する考察を行った。 海岸林では樹高成長が制限されているが,梢頭部が海風にさらされている度合は,林相や海岸林の動態,着葉塩分量から判断して,内陸ほど少ない。雪 ・砂の堆積状況,着葉塩分量,風速,風送塩分量を指標として判断すると,伐開後の林縁部の環境は,前縁相当,あるいはそれ以上に厳しい。海岸林の 前線部は,海風に強くさらされるだけではなく,砂・雪が集中して堆積する場所として位置付けられる。海岸林の伐開がもたらした現象は,林帯が地表 を樹木で覆うことによって表土(砂)や積雪の移動による荒廃地化を防いでいることを明らかにした。林帯の環境緩和機能のうち,上述の荒廃地化防止 を海岸林の最も重要な機能と考えると,海岸林は樹高や立木密度以前に地表を覆っている広がりで評価される。林帝の伐開を伴う開発行為に対して林帯 の保全を図るために,伐開に先立って伐開後の林縁予定地の林帯を新たな環境に対応した林形に導くことを提案し,開発工事完了後だけではなく,開発 工事過程での環境悪化を最小限にとどめるための合理的な開発手順を例示した。

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−森林総合研究所研究報告−
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