樹木多糖類の抗腫よう活性及び抗補体活性

土師美恵子

   要旨

 セルロース,ヘミセルロースなどの多糖類は,森林植物成分の大部分を占めている にもかかわらずセルロース以外はほとんど利用されていない。そこで,へミセルロースその他の多糖類に付加価値の高い 利用法を見い出すことを目的として,樹葉多糖類及びヘミセルロース関連物質について,マウス皮下移植腫よう増殖抑制 効果並びに補体活性抑制効果を検討し,以下の結果を得た。
 樹葉36種類の粗多糖類について,ICRマウスに皮下移植したEhrlich carcinomaの増殖抑制効果を試験した結果,ダンコ ウバイ,ホソバタブ,ネズミモチ,スダジイ,アオモリトドマツ,ミカン,アセビ,アオトウヒ,ミヤマシキミ,シロモ ジ,シロダモ,フサアカシアの12樹種が70%以上の抑制効果を示した。この中でネズミモチ粗多糖は,Ehrlich carcinoma 及び,L1210 leukemic cellの皮下移植腫ように対して高い抗腫よう活性を示した。すなわち, Ehrlich腫ように対しては15r/sの投与量で90%以上の腫よう阻止率を示し,分画精製の結果,アラビノース,ガラクト ースを主体とするマイナス旋光度.分子量25 000の中性多糖が最も高い活性を示すことが分かった。増殖速度の極めて早い L1210腫ように対しても,ネズミモチ粗多糖は,L1210を皮下移植したBDF1 マウスの生存日数を14%延命することができた。この粗多糖体はマウスの細胞性免疫を増強し,細胞毒性も示さないことか ら,宿主介在性の抗腫よう活性を持つことが確認された。
 また,木材ヘミセルロースと木材分解性酵素の複合体(HE−Complex)に著しい抗腫よう活性のあることを明らかにした。
 一方,樹葉40種類から抗補体活性多糖を検索した結果,5種類が20%以上の補体抑制活性を示し,その中ではクスノキ樹 葉に著しい活性が見られた。分画精製の結果,活性多糖はラムノースを含むアラビノガラクタンで,その糖比率はラムノ ース:アラビノース:ガラクトース=1:1.9:3.2,分子量約52 000の中性多糖であった。この多糖の抗補体活性を,5× 10/ml感作赤血球に対する50%溶血法で測定した結果,補体活性を67.4%抑制できた。
 さらに,この多糖体は抗原抗体反応の補体側にのみ作用して,抗体側には全く損傷を与えないことも確認できた。

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−森林総合研究所研究報告−
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