ブラジル・サンパウロ州海岸山脈における流出特性

藤枝基久

   要旨

 本研究は,ブラジル・サンパウロ州海岸山脈の亜熱帯森林流域におけ る水文観測とその結果に基づくモデル化により,流域規模の流出過程とそれに対する森林の影響を検討し たものである。すなわち,森林水文試験により森林流域に生起する樹冠遮断,地表流出,土壌水分貯留及 び流出という水文現象の実態解明を行った。その結果,海岸山脈の森林流域は浸透性が良好で,河川の流 況は年間を通じて安定し,乾季の流出量はその期間の降雨量より多いことを明らかにした。さらに,森林 流域における流出過程のモデル化を行い,推定精度の良好な水収支モデルを開発した。このモデルにより 水流出に対する森林の影響は,@年降雨量の水収支要素への配分割合,A流域貯留量の変動,B水移動の 時間遅れ,として水文学的に計量評価できることを示した。水源林の機能は,地表流出と土壌侵食を最小 限にし,雨水の浸透と地下水かん養の促進にあるが,厳しい立地条件下の熱帯地域では,流出過程に果た す森林の影響は暖・温帯地域以上に重要であると考察された。従って,熱帯地域の水源地帯における天然 林の保護・管理及び開発地への水源林の造成が,水文環境の保全と水資源開発の上からも重要であること を指摘した。

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−森林総合研究所研究報告−
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