スギ針葉の冬季における色調の遺伝

菊池秀夫

要旨

 スギが示す針葉の色素変異のなかには,冬季における針葉色の色調の変異も含まれる。遺伝実験のために収集したスギ個体のなかから,冬季における針葉色が鮮明な緑色を呈するスギ(ミドリスギ),黄土色になるスギ(黄土スギ)及び濃度の異なる赤色を帯びるスギ(アカスギ)を用いて交配F家系及びF家系を育成し,それらの家系における表現型の分離を調べるとともに,一部の家系で針葉のロドキサンチン含有量を調べた。その結果,@:冬季針葉色形質のアカ型は,ミドリ型及び黄土型に対して完全優性であった。ミドリ型と黄土型の形質間には優劣性の関係はみられず,ミドリスギと黄土スギの交配F家系苗はすべて黄褐色となった。A:ロドキサンチンはミドリ型には無く,黄土型には含有されていた。ミドリ型と黄土型のF家系に生ずる黄褐型のロドキサンチン含有量は黄土型よりも多く,この形質発現は超優性効果の現象と考えられた。アカ型苗にはさらに多くのロドキサンチンが含まれていた。B:@Aの結果から,アカ型,ミドリ型及び黄土型の針葉色を支配する遺伝子については同一の1遺伝子座を共有する複対立遺伝子群を成していると推定できた。アカ型には,色調の異なる苗が含まれており,ロドキサンチン含有量にも差異が認められたことから,アカ型形質の発現だけに関しても,同じ遺伝子座を共有する複数の対立遺伝子の存在が想定された。C:産地の異なるミドリスギのミドリ遺伝子の対立性を検定した結果,宮城,栃木,東京,愛知及び鹿児島の各都県産のミドリスギの発現形質は同じミドリ遺伝子に支配されていることが判った。また,中国浙江省産のミドリ柳杉も同じミドリ遺伝子を保有していた。精英樹竹田署4号(アオスギ),精英樹都城署1号(サツマメアサ)及び宮崎県椎葉村のヂスギについては,同じミドリ遺伝子をヘテロ接合型で保有していることを再確認した。

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−森林総合研究所研究報告−
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