多摩森林科学園(旧浅川実験林)における森林遷移

豊 田 武 司 ・ 谷 本 丈 夫

要 旨
  本研究は,多摩森林科学園内天然林における群落構造及び植生の遷移,都市化による植生の変化を把握し,林分の細分化,断片化の著しい都市近郊林における森林の維持管理技術に関する基礎的な情報を得ることを目的に行った。すなわち,1964年に林らによって調査された当園(旧浅川実験林)内天然林の植生調査資料を基に,およそ25年後の1985年から1991年にわたって林分構造及び林床植生の変化を調査し,森林の遷移及び林床植生にみられる都市化の影響を考察した。当園周辺の都市化は近年特に急激で,その影響と病虫害を受けて上層林冠のモミ・アカマツが衰退し,常緑広葉樹のカシ・シイ林に変化した。林ら(1964)は前回の調査において,モミの更新は林内に生育する稚幼樹の数が多いことから比較的容易であると予測していたが,その後の急速な林冠破壊が中・低木層に広葉樹の繁茂と侵入を促し,林床のモミ稚幼樹のほとんどを枯死させた。従って,多摩森林科学園の自然条件下では,モミやアカマツの天然更新は極めて困難であることが強く示唆された。急激なアカマツ・モミの枯死は,マツの材線虫病やモミノハラアカマイマイの被害によるものであったが,枯死した跡地には前生の常緑広葉樹の繁茂,陽性の落葉広葉樹の侵入が著しく,近年,都心部の樹林地において異常な繁茂を示すアオキやシュロなどの都市化を指標するとされる植物や帰化植物などの増加がみられ,林床植生には著しい変化があった。多摩森林科学園内の天然林を含む森林の林床植生と周辺樹林地との林床植生の比較を行った結果,当科学園内の天然林は,近傍の樹林地と同様に都市化の影響を強く受けてはいるが,部分的には自然度の高い良好な状態を維持している森林であり,都市域における森林の遷移を追跡調査する場所として,極めて重要な林分であることが明らかになった。

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−森林総合研究所研究報告−
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