平成12年度 森林総合研究所 研究成果発表会

環境と性能 −木質材料だけにできること−

 

木材化工部 複合化研究室主任研究官  渋澤 龍也

  

1. 木質材料とは

 古来,木材は最も身近な工業材料の一つであった。建築物や家具をはじめ,我々の生活に欠かせない,多くの物が木材から造られてきた。科学技術が発展するとともに,より安全かつ快適な生活を多くの人が望むようになり,木材についても高性能・多機能な製品が求められるようになった。しかし,木材は天然物由来の材料であるため,性能のばらつきが大きく,腐る・燃える等の欠点がある。これらの欠点を克服するために開発されたのが木質材料である。木質材料とは,木材を一度小さな構成要素(エレメント)に細分化した後,接着剤等の結合剤を用いて再構成した材料である。特に,板状に成形した木質材料を木質ボード類と呼び,エレメントの形状によって合板・OSB・パーティクルボード・MDF等に分類される(図1)。木質ボード類の主な特徴は,原料の選択性が広いこと,均質な製品が得られること,任意の寸法の製品が製造可能なことで,建築物の床・壁や家具などに広く用いられている。さらに,これらの木質材料に化学的な改質や異種材料との複合化を行うことで新しい機能を付与した材料が開発され,住まいやオフィスの快適性・耐久性の向上に寄与してきた。

図1. 木質ボード類のいろいろ

左から,合板,OSB,パーティクルボード,MDF

 

2. 木材資源と環境 

 

 木材は再生資源であり,加工に必要なエネルギーも他材料より少ないため,本来,環境に対する負荷は小さい材料である。木材資源の理想的な利用法について見てみよう(図2)。森林に生えている樹木を伐採すると,木材が得られる。伐採した所には,必ず植林を行う。得られた木材は,木造住宅の柱や梁などの構造材として長期間使用する。樹木は大気中のCO2(二酸化炭素)を吸収・固定することで成長しているため,使用期間中は樹木が蓄えたCO2は大気中に放出されず,木材としてストックされる。住宅が解体されて発生する廃材は,木質ボード類や製紙原料として再利用する。最終的に廃棄物として処分する必要が生じたときに,森林の樹木が伐採した量と同じだけ成長していれば,その期間に樹木が固定したCO2の量と処分によって排出される量とは釣り合うため,環境に対する負荷は0となる。木材の加工等にかかわるエネルギー消費には環境負荷が伴うが,エネルギー消費の少ない加工方法を採用し,排出されるCO2を樹木が固定するのに必要なだけ使用期間をのばせばよい。さらに長い期間使用すれば,大気中のCO2を減少させることすら可能である。適切な使用によって環境保護に寄与しうることは,化石資源にはない長所である。

図2. 環境に負荷を与えない木材資源の利用法

 木材のリサイクルの現状について見ると,製材工場や合板工場などの木材工業から発生する木質廃棄物は約95%が再利用されている。しかし,建築解体材や梱包材などの木材工業以外で発生する木質廃棄物約2180万m3のうち,再利用されているのは約20%に過ぎず,木質ボード類の原料として利用されるのは,さらにそのうちの10%程度しかない。快適性・耐久性の向上のために新しい機能を付与したことによって通常の木材と異なる性質を持つことが,建築解体材の再利用を阻害する主要因となってしまっている。

 

3. 木質材料による環境保全の試み 

 建築解体材を再び建築材料としてリサイクルすることで環境保全に寄与することを目的として,解体材由来の木質廃棄物からパーティクルボードを製造する研究を行った。パーティクルボードは建築物の床材料として多く使用されている。通常,パーティクルボードのエレメントは,木材チップを刃物により切削することで加工される。しかし,木質廃棄物を原料として切削加工を行うと,乾いていること,異物の混入があることから,刃物の摩耗が早く,エネルギー消費量が増大してしまう。そこで,刃物を使用せず,エネルギー消費の少ない加工方法である破砕加工を取り上げ,エレメントのサイズと加工方法の違いが製品性能に与える影響について検討した(図3)。

図3. エレメントの加工方法

 建築物の床に使用される板材料には鉛直方向の力が加わるため,折り曲げる力に対する強度性能(曲げ強さ)が要求される。また,木質ボード類は湿度の影響で膨張・収縮による寸法変化をしてしまうため,寸法安定性能(厚さ膨張率)も重要な性能である。破砕エレメント(HM)を用いて製造したパーティクルボードの場合,エレメントのサイズが小さいほど曲げ強さは高くなるが,寸法安定性能は低く(厚さ膨張率は高く)なる傾向が見られた(図4)。切削エレメント(RF)によるボードと比較すると,いずれのサイズでも十分な性能は得られなかった。そこで,最もサイズの小さい破砕エレメント(S)からダスト分を除去して切削エレメントと同じサイズにしたエレメント(S(L))を用いると,切削エレメントと同程度の曲げ強さが得られたが,寸法安定性能は改善されなかった。

図4. エレメントの加工方法とサイズによる性能の違い

HM:破砕エレメント

L:サイズ大,M:サイズ中,S:サイズ小,S(L):サイズ小からダスト分除去

RF:切削エレメント

図5. 3層ボードの曲げ強さの予測

図6. 3層ボードの厚さ膨張率の予測

 破砕エレメントを用いたパーティクルボードの強度性能と寸法安定性能の両者を向上させるための最適な製造条件を決定する性能設計法を考案した。強度性能を向上させるために,破砕エレメントに切削エレメントを混合した。また,寸法安定性能を向上させるために,細かいエレメントを表層に配置した3層構造とした。切削エレメントと破砕エレメントの混合率と表層比率を用いて,性能の予測値を算出した。強度性能(図5),寸法安定性能(図6)ともに予測値と実測値は良い一致を示し,破砕エレメントの重量混合率が75%以上であっても,表層比率を60%とすれば,JIS規格8タイプ基準値を満たした。この設計法を用いれば,廃棄物を環境負荷の低い方法で加工した原料を用いて,通常のパーティクルボードと同等の性能を持つ製品を製造することができる。 

参考文献

有馬孝禮(1994)エコマテリアルとしての木材,(社)全日本建築士会,pp.8-38.

大熊幹章(1998)炭素ストック,CO2収支の観点から見た木材利用の評価,木材工業,53,54-59.

(財)日本住宅・木材技術センター(1996)平成7年度木質廃棄物利用促進事業報告書.

 

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