平成13年度 森林総合研究所 研究成果発表会

樹皮タンニンの多彩な機能と用途開発

 

樹木化学研究領域 樹木抽出成分研究室  大原 誠資

 

1.はじめに

 日本の製材工場から排出される樹皮の量は,1998年の調査で約349万m3/年と推定されている1)。発生する樹皮の一部は家畜敷料,バーク堆肥,燃料として処理されているが,他の主な残廃材(背板,のこ屑等)と比べて未利用率がかなり高く,発生樹皮の28%が焼却または棄却されているのが現状である(図1)。近年の廃棄物に対する規制の強化から焼却処理そのものが困難になってきており,樹皮の有効利用法の開発が重要な課題となっている。樹皮は,材部に比べて多種多様な二次代謝成分を含有している。中でもタンニン類は多くの高等植物の樹皮に広く分布している天然ポリフェノール化合物で,皮なめし剤,染料,生薬の成分等として古くから利用されてきた。本課題では,モリシマアカシア,ヤナギ,ヒバ等の樹皮に多量に含まれているタンニンの化学特性を解明するとともに,それらの気中ホルムアルデヒド吸着能,抗菌・消臭作用,シロアリに対する抗蟻性,液状炭化物及び重金属吸着材の製造について検討した。

図1. 樹皮の処理法別発生比率

 

2.タンニンとは

 タンニンとは,「温水によって抽出されるポリフェノール成分で,塩化第二鉄によって青色を呈し,アルカロイド及びタンパク質と結合する化合物」と定義されている。タンニンは化学構造の特徴から大きく二つのグループ(縮合型タンニンと加水分解型タンニン)に分類される。樹皮に広く分布しているのは縮合型タンニンであり,図2に示すようなフラバノールのポリマーの化学構造を有している。フラバノール構成単位のA環及びB環のフェノール性水酸基の置換型が樹種によって異なり,またカキタンニンのようにC環にガロイル基を有するものも存在する。

図2. 縮合型タンニンの化学構造

 

3.分布・含有量

 縮合型タンニンは針葉樹,広葉樹どちらにも広く分布しているが,特にモリシマアカシアやアカシアマンギウム等のアカシア属樹木の樹皮には20〜30%に上る多量のタンニンが含まれている。ヤナギ属樹木も一般にタンニン含量が高い。カラマツ,ヒバ等の針葉樹樹皮にもタンニンが広く分布しているが,スギ,ヒノキ樹皮中の含有量は低い(図3)。

図3. 樹皮中のタンニン含有量

 

4.気中ホルムアルデヒドの吸着

 ホルムアルデヒドの吸着に関しては茶カテキン類の高い反応性が報告されているが2),エゾヤナギ樹皮タンニンやアンモニアと気相反応させたアカシアタンニンは,カテキンや緑茶抽出物よりもさらに高いホルムアルデヒド吸着能を示す(図4)。煙草の煙の主成分であるアセトアルデヒドの吸着に関しては,カラマツやエゾヤナギ樹皮タンニンが優れた吸着能を示す。

図4. タンニンのホルムアルデヒド吸着能

(アカシアNH3:アンモニア気相処理アカシアタンニン)

 

5.抗菌・消臭繊維

 モリシマアカシア樹皮抽出物を溶かした水に各種繊維素材を浸漬して加熱処理すると,絹,羊毛,ビニロン,ナイロンは樹皮中の色素成分によって容易に染色される(図5)。染色には樹皮中のタンニン成分が関与しており,特にナイロン,ビニロンでは,樹皮中のタンニンが効率的に繊維素材に吸着している(図6)。タンニンで染色したナイロンは,アンモニアに対する消臭作用を示す。また,タンニンで染色したナイロンを酢酸銅水溶液で処理して銅イオンを吸着させると,大腸菌に対する抗菌性が発現する3)

図5. 樹皮タンニンによる繊維の染色性

図6. 樹皮タンニンの繊維素材への吸着率

 

6.シロアリに対する抗蟻性

 樹皮タンニン自体にはシロアリに対する抗蟻性は認められないが,各種金属との複合体には顕著な抗蟻性が認められる。カテキン・ニッケル複合体をセルロース粉末に含浸させて強制摂食試験を行うと,無処理及びカテキンのみを含浸したものと比べて殺蟻性が大きく増大し,21日後には100%の致死率を示す4)。一方,摂食阻害活性については,カテキン・銅複合体に活性が認められる。

 

7.液状炭化物

 最近,木炭等の木質系炭化物の有する人間の健康に有用な機能が注目されはじめている。一方で木質系炭は形状が不定な固形であるため,その利用方法が限定されているのが現状である。アカシア,その他の樹皮タンニン水溶液を炭化物微粉と混合して激しく撹拌することにより,液状炭化物が製造できる。本液状炭化物を単板等の木質材料に塗布して風乾すると表面に安定な炭化物層が形成され,タンニン,木質系炭双方の機能を活用できる新規な素材である5)(図7)。

図7. 液状炭化物の調製

 

8.重金属吸着材

 タンニンが重金属吸着能を有することはよく知られているが,タンニンが水溶性であるため,重金属吸着材として利用するにはタンニンを不溶化させる必要がある。本課題では,樹皮タンニンを木質系炭微粉と水中で混合することにより,タンニンの不溶化を試みた。図8に示すように,本方法でカテキン及び樹皮タンニンは容易に炭化物に吸着されることが明らかになった。得られたアカシア及びヒバタンニン・炭化物複合体は,水溶液中のカドミウムを効率的に吸着する6)

図8. タンニン・炭化物混合系におけるタンニンの炭化物への吸着(炭化物使用量1.0g)

 

参考文献

1)日本木材総合情報センターほか(1998) 製材工場における残廃材の排出量と利用・処理方法の動向, 31〜42

2)高垣晶子,深井克彦ほか(2000) 木材学会誌,46,231〜237

3)伊藤繁則,大原誠資(1999) 木材学会誌,45,157〜163

4)W. Ohmura, S. Ohara(2000) Holzforschung, 54, 457〜460

5)大原誠資,秋月克文ほか(1999) 特願平11-317607

6)大原誠資ほか(2000) 第50回日本木材学会研究発表要旨集,京都,p445

 

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1.ブナ林の資源を空から測る  2.緑のダムを検証する  3.森林の持つ表土流亡防止機能を評価する

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