プレスリリース

平成12年5月31日


森林総合研究所フラックスネットで

CO2吸収量観測を開始

−落葉樹林,常緑樹林など代表的な森林ごとに特徴ある季節変化が明らかに−


 【背景・ねらい】  【成果の内容・特徴】  【今後の展開】  

【背景・ねらい】

 地球温暖化防止の国際的な取り組みにおいて,森林の二酸化炭素(CO2)吸収量の解明が重要な課題となっている。しかし,温暖化防止に対する森林の役割を評価するという社会的な要請に応えるだけのまだ蓄積されていない。森林による大気中のCO2の吸収は,森林が光合成によって大気中のCO2を固定して成長するという森林の最も基本的な営みに依存しており,気候の違いや多様な種類の森林に対応した炭素循環メカニズムの解明が急がれている。とりわけ,森林によるCO2吸収量の評価と予測を行うためには,観測によって森林と大気間のCO2の交換過程に関する理解を深め,モデルの構築や検証に必要なデータを収集・蓄積する必要がある。これらは,森林を含む陸域生態系のCO2収支を評価し,これを国別CO2排出量に反映させようとする地球温暖化防止京都会議以降の社会的要請に対して,科学的な知見を盛り込むためにも欠くことは出来ない。

 森林総合研究所の気象研究グループは,1995年にCO2吸収量の観測研究を開始し,その後平成10年度補正予算で建設された「二酸化炭素動態観測施設」による観測地点を加え,日本国内6か所の森林で林野庁,山梨県環境科学研究所と共同でCO2吸収量の観測を行っている。「森林総合研究所フラックスネット(FFPRI FluxNet)」という名称でこの研究を束ね,国際的なフラックス観測ネットワークのひとつであるAsia Fluxに参画し,観測方法やデータ収集の標準化及びデータの精度管理を行いつつ研究を進めている。

【成果の内容・特徴】

 森林のCO2吸収量を測定・推定する手法はいくつかあるが,ここで用いるのは,乱流変動法または渦相関法と呼ばれる方法である。森林群落に気象観測用のタワーを建て,そこで風速とCO2濃度の変化を速い速度で測定し,それから森林と大気間のCO2フラックスを求める。つまり,CO2を森林がどの程度吸収したかが直接求められる点にこの方法の特徴がある。

気象観測用のタワー

 森林のCO2吸収量を長期連続的に測定するためには,測定器自体の安定性に加え,測定が天候に左右されにくいことも考慮する必要がある。そのため,クローズドパス型赤外線CO2分析計と超音波風速計を採用し,森林のCO2吸収量の長期連続測定に適した観測方法を確立した。連続観測開始から1〜3年が経過し,落葉広葉樹林・常緑針葉樹林といった代表的な森林ごとに,森林のCO2吸収量について特徴ある季節変化が明らかになるなどの成果が得られている。

CO2フラックス観測用測器

【今後の展開】

 今後も観測を継続し,データを蓄積することで,森林のCO2吸収の仕組みについての理解を深め,予測モデルの構築とモデルの検証を行う。


【補足説明】

○観測地点

*札幌試験地(北海道)  : 落葉広葉樹林(シラカンバ,ミズナラなど)

*安比試験地(岩手県)  : 落葉広葉樹林(ブナ)

・川越試験地(埼玉県)  : 落葉広葉樹林(コナラ,リョウブなど)

*富士吉田試験地(山梨県): 常緑針葉樹林(アカマツ,ソヨゴなど)

*山城試験地(京都府)  : 落葉広葉樹林(コナラ,ソヨゴなど)

*鹿北試験地(熊本県)  : 常緑針葉樹林(スギ,ヒノキ)

  *印は平成10年度補正予算による二酸化炭素動態観測施設

○フラックス

 単位時間に単位面積を通って輸送される物質などの量を表し,ここでは,森林群落上を鉛直方向に輸送されるエネルギー,熱,CO2などを扱う。森林によって大気中のCO2が吸収される場合,CO2は大気から森林へと下向きに輸送される。このときCO2フラックスは森林によるCO2吸収量を表す。


研究推進責任者 森林総合研究所森林環境部長          大角 泰夫

        森林総合研究所森林環境部防災科長       河合 英二

研究担当者   森林総合研究所森林環境部防災科気象研究室長  大谷 義一

                    Tel.0298-73-3211 Ext374

               渡辺  力  溝口 康子(気象研究室)

               安田 幸生(科学技術振興事業団特別研究員)

               岡野 通明(森林災害研究室)

        森林総合研究所北海道支所経営部防災研究室長  中井裕一郎

               北村 兼三  鈴木  覚(防災研究室)

        森林総合研究所東北支所経営部防災研究室長   齋藤 武史

               大丸 裕武  細田 育広  村上  亘(防災研究室)

        森林総合研究所関西支所育林部防災研究室    小南 裕志

               後藤 義明  玉井 幸治  深山 貴文(防災研究室)

        森林総合研究所九州支所育林部防災研究室   清水 貴範

               清水  晃  宮縁 育夫  小川 泰浩(防災研究室)

広報担当者   森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係  田嶋  隆

                    Tel.0298-73-3211 Ext227 


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