プレスリリース

平成12年8月7日


東アジア地域の森林火災を

集中観測するシステムを開発


【背景・ねらい】  【成果の内容・特徴】  【今後の課題】

【衛星の説明】  【連絡先・問合先】


【背景・ねらい】

 アジアにおいては,シベリアからモンゴル,中国,タイ,インドネシアにかけて大規模森林火災がたびたび発生している。その被害を最小限にとどめることは,アジア太平洋地域の木材資源や森林環境の維持・増進にとって極めて重要な課題である。また,森林火災は,国境を越えた被害を及ぼすため,近隣諸国での情報の共有化が必要であり,第三国機関からの情報として,迅速かつ信頼性の高い情報を提供する必要がある。そのために,森林総合研究所を中心とする研究グループでは,日夜観測されている人工衛星データをリアルタイム処理し,森林火災発生箇所をいち早く発見し,被害の低減に役立てることなどを目的として,「リアルタイム地球観測衛星データ高速通信・高速演算配信によるアジア太平洋防災ネットワークの開発」を進めている。

 森林総合研究所では,JICAインドネシア森林火災予防計画プロジェクトで衛星データによる火災の早期発見・警戒システムの開発協力を行って来たが,この技術の利用は他国でも期待されているところである。

【成果の内容・特徴】

 タイと日本で受信されている米国の気象観測衛星(NOAA)や,夜間の光を観測する米国空軍のDMSP衛星,熱帯降雨観測衛星(TRMM)などのデータをAPAN(アジア太平洋高度ネットワーク)の日・タイ間及び日・米間のネットワークを通じてリアルタイムで受け取り,高速演算処理して,アーカイブするシステム(SIDaB)が農林水産研究計算センターで7月から稼働した。(http://www.affrc.go.jp/Agropedia/

 このシステムに,森林総合研究所と科学技術振興事業団が共同研究開発したNOAA衛星とDMSP衛星による東アジア地域の森林火災を集中観測する検知処理システムを加え,日本ではじめて準リアルタイムで東アジア地域(太平洋岸)の森林火災発見を可能にした。この観測システムは,まず,両衛星のデータを基本地図座標に自動的に投影変換する。次に,NOAA衛星では夜間の熱バンドデータから高温部をホットスポットとして抽出し,DMSP衛星では,夜間の光のデータから,都市部などの光を除き,新たな光を抽出する。両者は,夜間の火災発生箇所を示すと考え,位置座標ファイルと画像を作成するものである。

 現在,これらをほぼリアルタイムでネットワーク上(http://www.affrc.go.jp/ANDES/)で確認できるようにしたところである。最近の観測では,インドネシアで森林火災が発生し進行した様子が捕らえられている。今後,東アジア地域の一国あたりの火災発生箇所数がある程度以上見られる場合は,火災の発生状況を逐次広報する。

【今後の課題】

 当面,データの配信相手は,タイの王室林野局に設置の決まったアセアン森林火災コントロール研究開発センターであるが,さらにアルゴリズムの改善や実用化面での改善を図り近隣諸国での利用促進を目指す。

 また,NOAA衛星の画像データなどから森林の変化を日毎に捕らえて,乾燥に伴う森林火災発生危険度や火災が発生した地点の延焼危険度など,「森林火災危険度評価」を組み込み,速やかな消火活動立案に資するための改善を図る。

【衛星の説明】

ノア(NOAA)

 米国の気象衛星シリーズの総称(正式にはAdvanced TIROS-N/NOAAシリーズ)。

1976年6月27日にNOAA−6号が打ち上げられて以来,現在15号まで打ち上げられている。

 定常的な気象業務のため常に2つのNOAA衛星(14号,15号)が同時に運用されており,昼夜各2回の観測が行われている。

 センサとして可視熱赤外放射計AVHRR(Advanced Very High Resolution Radiometer),垂直気温分布測定サウンダーTOVSという気象観測センサとともに,地球の熱収支観測に利用されるERBE,SBUV,データ収集システムDCS,遭難捜索救助システムSAR,宇宙環境モニターSEMなどを搭載している。

 AVHRRは5つの波長帯(チャンネル)で観測する。直下の地上分解能は1.1km。

 チャンネル1:可視:雲および地表面マッピング

 チャンネル2:近赤外:陸水分布,植生観測

 チャンネル3〜5:熱赤外:海面温度,ホットスポット

 AVHRRはグローバルな植生観測に長く利用されてきた。熱赤外チャンネルで火災の判定が行われている。農林水産研究計算センターでは水産庁の受信局のデータとタイのアジア工科大学(AIT)の受信局のデータとをリアルタイムで著積している。【成果の内容・特徴】に戻る

 

米国空軍気象衝星(DMSP:Defence Meteorological Satellite Program)

 衛星名はF−1からつけられ,現在F−14まで打ち上げられている。

 センサとしては,ラインスキャンシステム(OLS:Operational Line scan System)とマイクロ波放射画像装置(SSM:Special Sensor Microwave Image)がある。

 OLSは可視(チャンネル1)と熱赤外(チャンネル2)の2つのチャンネルで観測している。主な目的は雲の観測である。感度が極めて良いため,夜の明かりを観測できる。地上分解能は高分解能時で560mである。街などの恒常的な光を差し引いて,新たな夜の光を監視する。時には,新たな都市開発なども発見できる。

 SSMは7チャンネルのマイクロ波放射計である。これは,海洋風や降雨,大気水分,氷山などの観測に利用される。

 空軍用の気象衛星であるため,昨年までは,72時間の配信制限があり,空軍以外は3日間利用できなかった。今年からその制限が3時間となり,ほぼリアルタイムでの処理が可能となった。日本へのデータ配信は,本プロジェクトをきっかけとしてNOAA(米国海洋大気庁)を通して農林水産研究計算センターへ行われるようになった。イカ釣り船も観測できる。【成果の内容・特徴】に戻る


【連絡先・問合先】

研究推進責任者 森林総合研究所海外森林環境変動研究チーム長  沢田 治雄

         TEL:0298-73-3211 内線248

共 同 研 究 科学技術振興事業団研究員

         新村 太郎,永谷  泉,澤田 義人,宋  献方

協     力 農林水産技術会議事務局筑波事務所

         水島  明,田村 和也,児玉 正文,佐藤  勉,

         江口  尚   TEL: 0298-38-7280

広報担当者   森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係長  田嶋  隆

         TEL:0298-73-3211 内線227


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