* | 世界初の衛星画像雲取りフィルタ技術 |
−地球温暖化やエルニーニョの解析進展に期待− |
概要 | |
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人工衛星からの写真画像は地球上の様々な情報を提供してくれますが、しばしば雲によって地表の様子が撮影できないことがあり、継続的な観測の障害となっています。そこで、私たちは衛星写真の雲に隠れた部分を合成する「雲取りフィルタ」技術を開発しました。本技術は、撮影地点の季節変化をコンピューターでモデル化することによって雲のない画像を10日間隔で得ることを可能にします。雲がある画像からも地表面の温度や植生などの様子を連続して観察することを可能とすることから、森林観察による地球温暖化のモニタリングやエルニーニョの解析、作物の収量推定など様々場面で威力発揮することが期待されます。 |
雲取りフィルターの特徴 | |
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雲取りフィルタは、同一地域を撮影した複数の衛星画像から、撮影時の雲の影響を排除して10日間隔で地表の様子を表示できるようにする技術です。衛星データの画素ごとに周期関数*の組み合わせを行い季節変化をモデル化し、実際の衛星データを当てはめることで雲の影響を除いた地表の状況を10日間隔で再現します。周期関数には周期の整数倍が1年となるような複数の周期関数(1年周期、半年周期、4ヶ月周期、3ヶ月周期、2ヶ月周期など)から、最適な周期関数を組み合わせることで、雲などランダムに影響を与える事象の影響を小さくすることを実現しています。本技術は、植生指数データ、近赤外データ、熱バンドデータなどに適用できます。 | |
*:周期関数とは季節が巡るように一定の周期で値が変動する関数 |
SPOT-VGTデータの雲取り処理例 | |
フランスの人工衛星SPOTに搭載されているセンサVGT(VEGETATION)で得られた画像も「10日間合成画像(左図)」として提供されているが、必ずと言ってよいほど10日間地上が見えない場所がある(左図)。下図は九州地方を拡大したもので、「雲」や衛星の観測位置の影響で、原画像では地表のようすがわからなかったり、杉や常緑広葉樹が成育する同じような森林域が異なる色調になっています(a)。処理した結果では、植生の状態が確認でき、このひとつの画像からでも異なる植生タイプがあることが伺えます(b)。1年間分のデータを使うことでさらに詳細な状況が観測できることになります。 このように、10日間で最もよく地表をあらわしている画素で作られている「10日間合成画像」も、植生観測に利用できないのが実態です。この処理法が開発されてはじめて植物季節の観測が実質的に可能になりました。 (1999年6月下旬の画像。RGBに中間赤外、近赤外、赤のバンドを対応させてカラー合成したもの) |
従来からの衛星画像解析手法とその限界 | |
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地上の森林や環境のモニタリングには毎日同じところを観測できるNOAA衛星などの画像が利用されていますが、地表が雲や霧、スモッグなどで見えないことがよくあります。こうした場合、従来から一般に各画素で10日間ごとに最適なデータを抽出して合成する「10日間合成画像」の作成が行われています。しかし、10日の撮影時のすべてのデータに雲などの影響がある場合、地表の状況を的確に捉えることは困難でした。
そこで、さらに雲を除去する方法として2つの方が試みられてきました。ひとつは分解能を粗くする方法で、「10日間合成画像」から画素単位ではなく、広い範囲(例えば16×16画素)の中の最もよいデータを採用する方法です。この方法では分解能が粗くなり、また、同じ箇所のデータが採用されることにならないため、極めて大きなスケールでの傾向観測に用途が限定されました。もうひとつは、1ヶ月、あるいは3ヶ月という期間で最もよいデータを採用する方法です。この方法では、新葉の展開や落葉といった植物季節を的確な時期に捉えることができない問題がありました。 |
雲取りフィルターの活用場面 | |
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本技術は植生観測、温度など環境条件のモニタリングなど地表面の広汎な継続的観測に活用でき、過去の撮影データに遡って解析が行えます。森林総合研究所の関係する分野では、森林のモニタリングを通じた地球温暖化の解析や、植生の乾燥状況に基づく森林火災の危険度の評価が可能になります。常緑と落葉の混交割合や、季節変化に伴う植生の相対的な活性状況の変化も把握できます。さらに、農作物の作況の予測や適切な管理方策の策定にも役立てることができる他、海洋面の温度データの観測にも活用することができます。 |
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地球温暖化の観測例 | |
本技術を用いて中央アジアの北緯55度付近の森林地帯の様子を過去に遡って検討したところ、この20年で積雪が減少している傾向が画像化できるようになりました。イギリスやアメリカ西海岸、チリ南部などでも同様なようすを捉えることができました。これによって地球温暖化の影響が「いつごろから、どこに現れてきたか」も的確に把握できるようになりました。 |
本この図は1981年〜1983年(左)と1995年〜1999年(右)に得られたノア衛星データから米国NOAAが作成した植生指数の「10日間合成画像」を本手法で処理して作成したものです。カラー合成にはそれぞれの期間で得られた最小植生指数と最大植生指数およびその差分画像を用いています。赤い部分は、1年中植生の薄いところで、緑の濃い部分は常緑の植生が多いところ、白い部分は季節変化が激しいところを示しています。北方での白い部分は雪で覆われる地域で、アフリカなどに見える白い部分は落葉性の植生域です。従来の方法では、最小植生指数を作っても、雲の影響のあるデータばかりを拾ってしまい、意味のある画像が作れませんでしたので、このようなカラー合成もできませんでした。 ・上の図のヨーロッパの部分を拡大したものが下の図です。左図が1980年前期、右図1990年後期です。スペインや地中海では大きな変化はありませんが、イギリスやデンマークでは季節変化が小さくなっています(白い部分が減っている)。これは、この地域が雪で覆われることがこの15年間に少なくなっていることを示しています。これは、最下段に示した気象データ(降雪日数データ)とも矛盾していません。 |
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エルニーニョの観測例 | |
本技術を温度データに適用したところ、エルニーニョと陸域温度との関係を捉えた画像を作成できました。同様の画像はインド洋の海面温度の変動であるダイポールモードイベントでも捉えることができました。 |
NOAA−Pathfinderデータの処理例 |
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米国海洋大気庁(NOAA)はノア衛星データを地球環境研究のために整備して、陸域の「10日間合成画像」や、海域の「9日間合成画像」などをPathfinderデータセットとして提供しています。下の図3つの例は、陸域温度データと海面温度データに本処理を施して、10日間隔データとして合成したものです。1997年11月初旬のデータでは太平洋のエルニーニョのようすとインド洋のダイポールモードが確認できます。これらは大規模火災の警戒情報としても注目されています。 このように雲の影響のほとんど無い地球全体の画像を10日間隔で作成することで、海洋と陸域がダイナミックに連動して変化しているようすが観測できるようになりました。このような画像は世界初のもので、地球環境問題の啓蒙にも役立つものと考えられます。なお、陸域に関しては植生指数データを利用して同様な合成を行ったものも作られています。 |
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1996年11月初旬 通常年 |
1997年11月初旬 エルニーニョと ダイポールモードイベント |
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1998年11月初旬 ラ・ニーニャ ![]() |
森林植生のモニタリング | |
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森林は二酸化炭素を効率的に吸収して地球温暖化を軽減しており、近年の森林面積の減少は地球環境の変化にも影響しています。地球環境の変化はさらに森林の生育を通じて二酸化炭素の吸収量に影響します。こうしたサイクルによって森林の地球環境に及ぼす影響は増幅されることから、地球環境の保全には森林環境の保全と監視が不可欠です。森林総合研究所では、既にNOAA衛星データ、SPOT−VEGETATIONデータから10日間隔の雲除去データセットを作成し、地球環境の変化が顕著に表れる森林植生の季節変化や積雪状況の変化を継続的に捉えることで地球温暖化の監視に着手しています。 |
関連情報 | |
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本技術は森林総合研究所と科学技術振興事業団が農林水産研究計算センター(農林水産技術会議事務局筑波事務所)の協力を得て開発しました。成果の一部は科学技術振興事業団計算科学技術活用型特定研究開発推進事業「リアルタイム地球観測衛星データ高速通信・高速演算配信によるアジア太平洋防災ネットワークの開発(平成10年10月〜平成13年9月)」によります。また、本成果について9月20日に開催されるつくばサイエンスフロンティア2002で「地球環境変化を反映している森林の季節変化」と題した講演を予定しています。 |
◇連絡先・問合先 | |
独立行政法人 森林総合研究所 理事長 廣居忠量 |
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農林水産研究計算センター (農林水産技術会議事務局筑波事務所)所 長 金森健治 |
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研究推進責任者:森林総合研究所海外研究領域長 沢田治雄 | |
Tel: 0298-73-3211 内線248 |
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研 究 協 力 者: 農林水産研究計算センター 児玉正文、名越 誠 |
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Tel:0298-38-7341 |
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広 報 担 当 者: 森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係長 立川宏臣 |
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Tel: 0298-73-3211 内線227 Fax: 0298-74-8507 |