プレスリリース

平成15年11月7日



「斜面崩壊」公開実験のご案内
−山崩れ・土石流災害の予測技術進展に期待−

独立行政法人 森林総合研究所  


  熊本県水俣で起きた今年7月の土石流災害は記憶に新しいところです。豪雨により斜面が崩壊し、崩れた土砂が土石流化したことが被害を大きくした原因であると考えられています。

  これまで、崩れた土砂がどのような過程を経て土石流になるのか、そのメカニズムを探るための人工降雨による室内実験を行い、崩壊した土砂の中に発生する急激な間隙水圧(注1)の上昇が土砂を流動化させることが解ってきました。しかしながら、自然斜面の物理的性質は非常に不均一であり、極めて均一な条件で行われる室内実験の結果をそのまま自然斜面に適用することはできませんでした。

  そこで、独立行政法人森林総合研究所は、独立行政法人防災科学技術研究所、京都大学防災研究所などと共同で、自然斜面下で間隙水圧の変化と土の挙動との関係を検証する野外実験を計画し、この度、ようやく実施される運びとなりました。

  この野外実験により、土砂災害の一つである豪雨による斜面崩壊の発生と流動化のメカニズムが明らかとなり、土石流災害を未然に防ぐ技術の開発に貢献することが期待されます。

  この「斜面崩壊」に関する野外実験を下記により公開で行うこととしましたので、マスコミ関係者へお知らせ致します。

  用語解説 (注1)
  間隙水圧(過剰間隙水圧): 土の粒子の間を満たした水による圧力です。降雨等により水位が上昇すると水圧が上がって土の粒子間の結合を弱くするため崩壊が発生します。地震等の急激な力で上昇する一時的な間隙水圧を過剰間隙水圧と呼び、砂地盤の液状化はこの過剰間隙水圧により発生します。


【公開実験の概要】
  自然斜面に仮設した人工降雨装置により降雨強度70〜90mm/時間の雨を6〜7時間降らせることにより斜面を崩壊させ、崩壊土砂が流動化に至る過程での地下水および斜面の変動を観測します。特に地中の間隙水圧の変化に着目して、崩壊および流動化が発生する条件を実証的に明らかにします。なお、実験の詳細については別紙−1を参照下さい。 

【公開実験の日時】
  平成15年11月12日(水) (予備日は11月13日・14日) 

  人工降雨開始(予定):午前9時  人工降雨終了(予定):午後4時
     *現地でのマスコミの方々への説明は午後1時30分〜午後2時に行います。
     *12日当日崩壊が発生しない場合は再実験を14日に行います。
     *12日が雨天の場合は翌日の13日に順延します。

【公開実験の場所】
  茨城県真壁郡大和村大曽根地区 加波山(標高709m)北西斜面
  (関東森林管理局東京分局茨城森林管理署管内小井戸国有林202林班)

*: 公開実験会場の位置、アクセスは別紙−2を参照下さい。
*: 現地までの交通手段は各自確保願います。ただし、関係する記者会等に対しては現地まで車両の便宜を図ります。下記の見学申し込み時にその旨お知らせ下さい。

【見学申し込み】
  公開実験の見学を希望される方は11月10日までに森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係(Tel:029-873-3211内線227、kouho@ffpri.affrc.go.jp)まで事前登録をお願いします。

【注意事項】
.崩壊実験は最悪の場合生命への危険を伴いますので、現地では公開実験実施者の指示に従っていただくとともに、各自充分ご注意くださるようお願いします。

.現地は伐採跡地で足場の悪い箇所もあり、また、天候の急変も考えられますので雨具・足まわり・防寒着を含め十分な装備をお願いします。

.見学は公開実験実施者が設定した一般見学区域内にてお願いします(別紙−3)。立入禁止区域内には観測用機器・ケーブルが設置してありますので立ち入りはご遠慮ください。

.降雨実験開始後に立入禁止区域である実験斜面・対岸斜面および下流域への立ち入ることは非常に危険ですので厳禁します。

.昼食等は各自ご準備願います。

.悪天候等により実験を延期する場合は前日16時(実験当日においては6時30分)までに判断し関係者へ連絡致します。

【その他】
 人工降雨実験の開始は午前9時です。小規模な斜面下部の崩落が発生するのは午後0時前後、斜面全体の崩落は午後3時前後と予想されます。仮に崩壊が起きなくても安全の確保等のため、実験は午後4時には終了させていただきます。

本実験は文部科学省科学技術振興調整費によるプロジェクト研究「地震豪雨時の高速長距離土砂流動現象の解明」の元で実施します。

独立行政法人 森林総合研究所 理事長 田中 潔

研究推進責任者: 森林総合研究所水土保全研究領域治山研究室長 落合博貴
             Tel:029-873-3211(内線367)  Fax:029-874-3720

プロジェクト総括責任者: 京都大学防災研究所斜面災害研究センター長 教授 佐々恭二
             Tel:0774-38-4110 Fax:0774-32-5597

国有林管理責任者: 関東森林管理局東京分局茨城森林管理署長 寺田善幸
             Tel:029-243-7105 Fax:029-243-7125

広報担当者: 独立行政法人 森林総合研究所企画調整部研究情報科長 中村松三
             Tel:029-873-3211(内線225) Fax:029-874-8507

別紙−1

H15.11.7  
森林総合研究所  

現地崩壊実験の概要

1.人工降雨装置
崩壊実験の全体システムを図−1に示す。
1) 実験斜面の下を流れる渓流水を貯水用堰で溜め、揚水ポンプによりあらかじめ斜面上部に設けた容量80m3の貯水タンクに水を溜める。
 
2) 貯水タンクの水を4台の送水ポンプにより一定圧力で斜面上に仮設した人工降雨装置へ送水し、24本のノズル(1台のポンプ当たり6本)から撒水する。撒水能力は降雨強度40〜120mm/時間です。
 
2.人工降雨の条件
1) 11月11日:
(本実験の前日) 
降雨強度50mm/時間、継続時間約2時間の降雨を実験斜面に与え、斜面の土層を湿潤にさせて本実験時の降雨が斜面へ浸透しやすくなるよう先行降雨を与える。
2) 11月12日:
(本実験当日) 
表面侵食の発生しない降雨強度で6〜7時間の降雨を与え、斜面崩壊の発生を待つ。
3) 11月13日(予定):  崩壊が発生しない場合は、14日の再実験に備え貯水タンクに水を溜める。
4) 11月14日(予定):  再度、本実験と同じ降雨条件で人工降雨を与え斜面崩壊を待つ。
 
3.観測
  人工降雨により崩壊・流動化に至る斜面水文現象および斜面変動を観測し、崩壊土砂が流動化する過程を把握して崩壊および流動化発生条件を実証的に明らかにする。 観測用の各種センサーは実験前に斜面に設置および埋設され、間隙水圧、移動量等の信号はケーブルにより観測小屋まで導かれ、小屋内に設置された計測機器に接続されて自動観測される。

観測項目および担当(予定):
  1) 独立行政法人森林総合研究所
    (1) 間隙水圧:  人工降雨により変化する土壌水分の変化と崩壊発生および流動化発生時の急激な間隙水圧の変化を連続観測する。
(2) 3次元移動量: 崩壊発生後の崩壊土砂の流下経路を記録するため3方向の加速度と回転を自動計測する。
(3) 重水トレーサー、地下水サンプリング: 崩壊に関与する降雨の成分を把握するため降雨に重水を混ぜてトレーサーとし地下水を吸引サンプリングして重水濃度を測定する。
 
2) 独立行政法人防災科学技術研究所
(4) 斜面変動画像(ビデオ)撮影:  2台1組のビデオカメラで斜面を撮影し、斜面崩壊時の変動を観測し、画像解析により変動量を求める。
  
3) 京都大学防災研究所
(5) 土層ひずみ:  斜面土層に鉛直に開けた孔に挿入した棒の曲がりを計測し、崩壊の前ぶれとなる斜面内の変動を計測する。
(6) 斜面移動量:  実験斜面内の点と不動点を結んだワイヤーの伸縮を計測し、崩壊の前ぶれとなる地表面の変動を計測する。
 
4) 千葉大学
(7) 土壌水分分布:  降雨に伴う斜面内の土壌水分の分布を計測する。
(8) 流出水・土砂量: 降雨に伴い斜面から流出する水および土砂の量を観測する。
 
5) 米国地質調査所(U. S. Geological Survey)
(9) 移動量、傾斜変動量: 実験斜面外の不動点から斜面内の移動点に張ったワイヤーの伸縮を計測する
 
6) 東京大学生産研究所
(10) 流動シミュレーション: 以上において観測された変動データをもとに流動シミュレーションモデルを開発する。


【問い合わせ先】 

森林総合研究所企画調整部研究情報科広報係  Tel. 029-873-3211(内227)

独立行政法人 森林総合研究所 理事長 田中 潔

研究推進責任者 治山研究室長 落合博貴 Tel.029-873-3211(内355)

広報担当者 企画調整部研究情報科長 中村松三 Tel.同上(内225)


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