平成16年9月16日
はげ山を緑化して100年経った森林は今?
独立行政法人 森林総合研究所
京都府南部の北谷国有林に位置する山城試験地で、はげ山を緑化した100年後の森林の構造と動態を調査しました。試験地の森林はかつて過度の利用によりはげ山となり、明治時代に行われた緑化工事によって現在では森林の姿を取り戻しています。しかし、緑化されてから既に約100年以上が経過しているのにもかかわらず、日本各地の平均的な広葉樹林に比べ未成熟であり、地上部現存量(地上部に現存する植物体の総量)も平均的には120ton/haあるのに比べて90ton/ha余りしかないことがわかりました。原生林と言えるような状態になるまでにはまだ長い年月を要すると考えられます。
はげ山の分布と緑化の歴史
東海地方から近畿、中国地方にかけての花崗岩地帯では、かつて大寺院の建立や薪炭材の採集など過度の伐採による森林破壊が進み、樹木の全く生えていないはげ山が広く分布していました。京都府南部に位置する山城試験地(1.7ha)も江戸時代の初めには既にはげ山となっており、300年以上もはげ山の状態が続いていました。明治時代の初めに行われた大規模な緑化工事によって植生が回復し、現在では森林の景観を取り戻しています。
森林の再生はどこまで?
本試験地には現在コナラが優占し、ソヨゴ、ネジキ、リョウブなどの樹種が高密度で存在する里山林の景観をしています。この森林の構造を、日本各地に分布するコナラを優占種とする二次林と比較したところ、本試験地の森林は高木層や亜高木層の発達がわるく、低木層が高密度で存在することや、地上部現存量が90ton/ha余りとかなり少ない状態にあることがわかりました。二次林は一般に遷移の進行に伴って階層構造が発達し、現存量が増加するとされています。本試験地の森林は緑化工事後既に100年以上が経過していますが、未だ成熟した状態には達していないことが明らかになりました。
温暖な気候と豊富な降水量に恵まれた日本では、一般に森林を伐採してもすぐに二次林として再生します。しかし、長期間に及ぶ過度の利用によりはげ山となってしまうと、自然による植生の回復は難しく、多大な努力を払って緑化工事を行わなければなりません。多くの労力を投入して再生した森林も、100年が経過した後でも未成熟の状態でした。
これからの森林の姿は?
西日本に分布する里山林には、本試験地のように景観上は森林の状態でも、構造的には未熟な状態のものが多く存在すると考えられます。こうした森林が今後どのように変化していくかは、里山林の保全管理の上からも重要な問題です。本試験地で現在最も著しい成長を示しているのはコナラであり、本試験地では今後もコナラの優占する状態が続くものと推定されます。試験地の約10km南方には春日山原生林がありますが、この原生林の主な構成種であるイチイガシやツクバネガシ、モミなどの樹種は本試験地には存在しません。アラカシやソヨゴなど二次林を中心に分布する常緑広葉樹は存在しますが、春日山原生林のような常緑広葉樹の高木が優占する森林になるには、まだまだ相当の年月を要するものと考えられます。
本研究は近畿中国森林管理局と共同で行いました。また、本成果は「日本生態学会誌」第54巻第2号(2004年8月刊)に掲載されました。
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独立行政法人:森林総合研究所 | 理事長 | 田中 潔 |
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研究担当者:森林総合研究所 |
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広報担当者:森林総合研究所 | 関西支所研究調整官 | 上杉 三郎 |
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