プレスリリース

平成18年2月1日


小笠原のカタツムリを滅ぼす侵入者
−ニューギニアヤリガタリクウズムシの脅威が明らかに−
 

                      独立行政法人 森林総合研究所


  貴重な固有動植物の宝庫として知られる小笠原諸島では、生息しているカタツムリ類の固有種のうち約7割がすでに絶滅してしまったと考えられていますが、近年になってさらなる減少が短期間に起こっています。独立行政法人森林総合研究所では、その減少の最大の原因が侵入してきた外来生物であるニューギニアヤリガタリクウズムシがそれらを捕食したためであることを世界で初めて野外実験で明らかにしました。


<ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入>
  ニューギニアヤリガタリクウズムシは、陸生プラナリア(扁形動物門)の一種で(図1)、さまざまな農作物の害虫であるアフリカマイマイの天敵として太平洋の島々で放飼されてきました。しかし、さまざまなカタツムリも捕食するため、グアム、サモア、タヒチなどでは固有カタツムリ類の減少の大きな要因として考えられ、世界の外来生物ワースト100(国際自然保護連合1))にも選定されています。ところが、これまで小笠原諸島を含めた世界の島々でこの動物がカタツムリの生存に与える影響はほとんど明らかにされていませんでした。そこで、森林総合研究所は、小笠原父島のすでにカタツムリ類が消滅した地域にカタツムリを再び設置して実験したところ、わずか3日で50%以上、11日で90%以上のカタツムリがニューギニアヤリガタリクウズムシによって捕食されてしまうことがわかり(図2)、この動物による捕食が固有種のカタツムリの急速な減少を引き起こしていることが明らかになりました。
  「日本のガラパゴス」と呼ばれ、世界遺産(自然遺産)候補にもなるほど固有種の生物が多い小笠原諸島ですが、特に最も人口の多い父島においてはカタツムリ類が1990年代より急速に減少し、まだ生き残っている固有のカタツムリの多くも絶滅の危機に瀕しています。この動物は一旦島に侵入すると根絶は不可能に近いと考えられるため、平成18年2月1日より環境省によって特定外来生物2)に指定されます。今後、未侵入の島への拡散を防ぐ対策が早急に必要と考えられます。


<野外実験>
  本研究では、ニューギニアヤリガタリクウズムシがすでに侵入している小笠原父島において、リクウズムシがカタツムリの生存に与える影響を調査しました。ニューギニアヤリガタリクウズムシが生息している地域と生息していない地域の2カ所に、リクウズムシが侵入可能な網袋と、侵入不可能な不織布の袋のそれぞれにカタツムリを入れて林内に設置し、その生存過程を調査しました。3日後、リクウズムシ生息地域では、多くの網袋にニューギニアヤリガタリクウズムシが侵入し、カタツムリを捕食しているのが観察されました。リクウズムシ生息域の網袋では、3日間で50%以上、11日間で90%以上のカタツムリが捕食されましたが、不織布の袋やリクウズムシの生息していない地域の袋では、カタツムリの死亡はほとんど見られませんでした。この結果は、侵入したニューギニアヤリガタリクウズムシが高い生息密度に達し、カタツムリ類の生存に強い影響を与えていること示しています。


<被害を防ぐには>
  ニューギニアヤリガタリクウズムシの捕食は、強力な天敵にさらされずに進化してきた太平洋の島々のカタツムリにとって深刻な影響を与えていると考えられます。リクウズムシは土壌動物の仲間で、通常、土や根、落葉、植木鉢などに付着しています。平成18年2月1日よりニューギニアヤリガタリクウズムシは、特定外来生物として、その移動に強い制限がかかります。すでに侵入している島から、未侵入の島々への移入を防ぐために、放飼などの意図的な導入を行わないことはもちろんのこと、すみかとなる土や苗木の移動による意図しない持ち込み関しても十分な注意が必要と考えられます。


<その他>
  本成果は、環境省からの委託プロジェクト・地球環境総合推進費(F-51)「脆弱な海洋島をモデルとした外来種の生物多様性への影響とその緩和に関する研究」によって得られたものです。
 なお、この成果は、米国の熱帯生物と保全学の専門誌であるBiotropica(バイオトロピカ)で今年9月に発表される予定です*


  *Sugiura, S., Okochi, I. and Tamada, H. (2006) High predation pressure by an introduced flatworm on land snails on the oceanic Ogasawara Islands. Biotropica 38 (5): in press.
 

図1. ニューギニアヤリガタリクウズムシ
図1. ニューギニアヤリガタリクウズムシ


図2. 捕食されるカタツムリ
図2. 捕食されるカタツムリ


            独立行政法人森林総合研究所 理事長 大熊 幹章

            研究推進責任者:森林総合研究所 森林昆虫研究領域長 牧野 俊一
                          Tel: 029-873-3211(内線414)
            研究担当者:  森林総合研究所 森林昆虫研究領域 昆虫生態研究室 杉浦 真治
                          Tel: 029-873-3211(内線409)
                      森林総合研究所 企画調整部 企画科長 大河内 勇
                          Tel: 029-873-3211(内線 213)
            広報担当者:  森林総合研究所 企画調整部 研究情報科長 杉村 乾
                          Tel: 029-873-3211(内線225)  Fax: 029-873-0844


<用語解説>   
1)国際自然保護連合
  (IUCN)
1948年に設立された、国、政府機関、NGOからなる国際的な自然保護機関
2)特定外来生物 もともと日本に生息せず、生態系等に深刻な影響を与えるため、外来生物法に
もとづいて環境省が指定する外来生物



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