プレスリリース

平成18年11月17日 


人里へのツキノワグマ出没多発の予測に役立つ

                      独立行政法人 森林総合研究所


  独立行政法人森林総合研究所(森林総研)では、1993年から2004年にかけて農林業及び人的被害軽減のためにツキノワグマを有害獣として捕獲した全国23府県を対象に、人里への出没頻度の目安となる捕獲数の年次推移を調べたところ、複数の県にまたがる広い範囲で同じように変動することを明らかにしました。
  森林総研では、このような傾向が見られるのは、クマの餌として重要なブナの実やドングリなどの堅果類の豊凶の年変動が大きく、かつ、その変動が県をまたがる広い地域で同調しておこっているため、堅果類が少ない年にはクマが広い地域で頻繁に人里へ出没して、被害を引き起こしているのではないかと推察しています。
  現在、全国各地域において堅果類の実の豊凶についての調査が進められています。今回明らかになったクマ出没の変動パターンの広域的な同調性をもとに、各地域のクマ出没数と堅果類の豊凶との関連を解析し、クマの出没を広域的に予測する手法の確立を目指していきたいと思います。


独立行政法人森林総合研究所 理事長 大熊 幹章
研究推進責任者: 森林総合研究所 研究コーディネータ 福山 研二
     Tel:029-829-8212
研究担当者  : 森林総合研究所 野生動物研究領域 岡 輝樹
     Tel:029-829-8258
広報担当者  : 森林総合研究所 企画調整部研究情報科長 上杉 三郎
     Tel:029-829-8130 Fax:029-873-0844

【成果の詳細】
  今年は、全国24府県において、ツキノワグマによる農林業、人的被害が多発し、10月末現在でおよそ3,000頭のクマが捕獲されており、クマの保護管理及び被害対策に向けた取り組みが強く求められています。クマの人里への出現については、年ごとや地域ごとに大きく異なることが知られていました。
  そこで、ツキノワグマによる被害を受けている23府県25地域における1993年〜2004年のツキノワグマ有害捕獲数(計約1万頭)の年次変動を解析したところ、長野・富山両県を境にして東日本と西日本タイプに分けられました(図)。さらに、東日本においては北東北、南東北、関東甲信越地方で、西日本においては北陸と、兵庫を含む中国地方で類似性が高いことがわかりました。
有害駆除数変動パターンの同調性 図:有害駆除数変動パターンの同調性
有害駆除数変動パターンは東日本地域(青系色で示す)と西日本地域(赤系色で示す)に大きく分けられた。各地域内で変動パターンが類似している県を同じ色で示した。網掛けの地域の変動パターンはどのグループにも属さなかった。白抜きの都府県は駆除数が少ない、もしくは生息していないため解析から除外した
【今後の研究方向】
  各地域のクマの捕獲数の変動は、広域的に変動する様々な要因の影響を受けているとみられます。なかでも、ブナやナラなど堅果類の実の豊凶が広い地域で同調して変動しており、クマ出没との関連性が強く示唆されます。
  本研究の結果をもとに、全国各地で始められた堅果類豊凶モニタリングの結果とクマの出没データをあわせて解析することにより、クマが人里に出没しやすい年やその地域が予測でき、効果的なクマ被害防止対策の検討が可能になります。


<本成果の発表論文>
タイトル:Regional concurrence in the number of culled Asiatic black bears, Ursus thibetanus.
     (ツキノワグマ有害捕獲数変動パターンの広域的同調性)
著  者:岡 輝樹(森林総合研究所)
掲 載 誌:Mammal Study(哺乳類研究、日本)31巻2号 2006年12月掲載予定

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