プレスリリース

平成19年 3月 1日 


関東地方におけるオオタカの行動圏の季節変化を解明

                      独立行政法人 森林総合研究所


  森林総合研究所は、NPO法人オオタカ保護基金と共同で、絶滅危惧種に指定されているオオタカ14個体の行動圏(1個体のオオタカが生息するのに必要な地域)とその季節変化を栃木県下で調べ、その結果、以下の3点を明らかにしました。

  (1)繁殖期(6月〜8月)の行動圏は約900ha、非繁殖期の行動圏は約1,700haでした。これは、オオタカの行動圏として外国や国内の関東地域以外でこれまでに報告されたものと比べ最も小さい値でした。

  (2)行動圏は、繁殖期のなかでも、育雛期前半(6月〜7月中旬の巣の中で雛を育てる期間)から後半(飛び立てるようになった雛を育てる期間)にかけて約30%増加しました。

  (3)非繁殖期にも繁殖期の行動圏を主に継続して利用し、さらにそれ以外の地点にも行動範囲を拡大していました。

  以上の研究成果により、オオタカの繁殖に重要な6月〜7月中旬の育雛期前半の行動圏の自然環境を重要視して保全対策を立案することが可能になります。


独立行政法人森林総合研究所 理事長 大熊 幹章
 
研究推進責任者: 森林総合研究所 研究コーディネータ 福山 研二
     
研究担当者  : 森林総合研究所 森林昆虫研究領域チーム長 尾崎 研一
     
広報担当者  : 森林総合研究所 企画調整部研究情報科長 上杉 三郎
     Tel:029-829-8130 Fax:029-873-0844

【オオタカとは?】
  オオタカ(写真)は絶滅の恐れのある中型の猛禽で、環境省により準絶滅危惧に指定されています。オオタカは里山に生息するため、開発等による生息地の減少が懸念されています。しかし、保全対策に必要な生態的知見が不十分なため、具体的にどのような対策をとれば、人とオオタカが共存していけるのかは明らかではありません。特に、オオタカの行動圏の広さと、その季節変化を明らかにすることはオオタカの保全に必要な地域を特定する上で重要です。 

【季節によって違うオオタカの行動圏】
  栃木県の平野部で雄成鳥14個体を捕獲し、電波発信機を装着し、その個体を追跡することにより行動圏を明らかにしました。その結果、繁殖期(6〜8月)の行動圏は約900ha(半径1.7kmの円に相当する面積)でした。また、繁殖期の行動圏は育雛期前半(6月〜7月中旬)よりも育雛期後半(7月中旬〜8月)に約30%増加しました。オオタカの親鳥は、巣立ち後3〜4週間はヒナに餌を与えますが、それ以降はあまり餌を与えなくなるため、巣に頻繁に戻らなくなります。その結果、親鳥は巣から離れた場所も利用するようになるため、育雛期後半に行動圏の面積が増加したと考えられました。
  一方、非繁殖期(10〜12月)の行動圏は約1,700ha(半径2.3kmの円に相当する面積)でした。非繁殖期にも主に繁殖期の行動圏を継続して利用しましたが、その一方で巣から離れた地点も利用したため、行動圏は繁殖期の2倍となりました。
  本調査地の行動圏を国内外のこれまでの報告と比較した結果、関東地方のオオタカの行動圏は繁殖期、非繁殖期ともにこれまで報告されたものの中で最小であることが明らかとなりました。この原因を調べるため、今後、餌となる動物の量やその得やすさ等の環境要因を調べ、他の地域と比較する必要があります。

【今後の保全対策】
  オオタカの保全対策は、これまで行動圏の季節変化を考慮していませんでしたが、本研究の結果より、行動圏の季節変化を考慮した保全対策を立てることが可能となりました。つまり、繁殖期では、ヒナに頻繁に餌を与える育雛期前半の行動圏を優先的に保全することが重要だと考えられます。また、オオタカは繁殖期の行動圏を通年利用するため、非繁殖期といえども、繁殖期の行動圏内での大規模な事業はオオタカの生息に影響するおそれがあります。一方、非繁殖期に行動圏が拡大する地域は、利用頻度から見ると繁殖期の行動圏よりも保全の優先順位が低いと言えます。しかし、非繁殖期の行動圏といえども冬期の重要な餌や狩り場が存在する場合があるので、その場合は非繁殖期の行動圏の保全に配慮する必要があると考えられます。

【本成果の発表論文】
  タイトル:栃木県におけるオオタカ雄成鳥の行動圏の季節変化
  著  者:堀江玲子・遠藤孝一・野中純・尾崎研一
  掲 載 誌:日本鳥学会誌2007(印刷中)

  本研究は、環境省地球環境保全等試験研究費「希少種であるオオタカの先行型保全手法に関する研究」の助成を受けて遂行されたものです。

【写真】発信機を装着したオオタカ雄成鳥
【写真】発信機を装着したオオタカ雄成鳥


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