平成19年 4月 5日
独立行政法人 森林総合研究所
スズメバチ類はわが国の野生生物の中で最も死亡事故が多い危険生物です。5〜8月に誘引トラップを使って越冬から覚めたスズメバチ類の女王バチを多数採集したところ、普通種であるキイロスズメバチ1)の女王の約70%が、線虫2)の一種(Sphaerularia sp.)に感染していて卵巣が退化していました。この寄生線虫の仲間はマルハナバチ類では知られていましたが、スズメバチ類での確実な記録は世界で初めてです。この寄生線虫は女王バチの越冬中に感染し、不妊化して巣作りをできなくすることで、キイロスズメバチの営巣数を減少させていると考えられます。
独立行政法人森林総合研究所 理事長 鈴木 和夫 |
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研究推進責任者: | 森林総合研究所 研究コーディネータ 福山 研二 |
研究担当者 : |
森林総合研究所北海道支所 森林生物研究グループ 森林総合研究所 森林昆虫研究領域長 牧野俊一 |
広報担当者 : | 森林総合研究所 企画部研究情報科長 上杉 三郎 Tel:029-829-8130 Fax:029-873-0844 |
【背景説明】 激しい攻撃性と強力な毒をもつスズメバチは、その刺傷事故によって毎年30〜40人もの死者をもたらす、わが国で最も危険な生物のひとつです。とくに森林やその周辺には数多くのスズメバチが生息しているため、林業作業中やレクリエーション活動を行っている最中に刺傷事故に遭うことが多くなります。そのため、スズメバチによる刺傷事故を防ぐには、巣を含めてスズメバチの数を減らすことが重要となります。 わが国では、スズメバチの数を減らす方法として、餌を入れた「わな」を仕掛けて殺したり、巣を駆除(破壊)したりすることが一般的に行われています。一方、ニュージーランドではスズメバチを減らすために、その天敵である寄生バチを利用した生物的防除3)が積極的に行われています。わが国でも今後、スズメバチの数を減らすために、在来の天敵を利用することもひとつの方法と考えられます。
スズメバチの巣は、越冬から目覚めた女王バチが春に作り始めますが、卵巣の発達しない女王バチは巣を作ることができません。この寄生線虫の仲間は、これまでマルハナバチ類での寄生しか知られておらず、スズメバチの仲間での確実な記録はこれが世界で初めてとなります。さらに、この寄生線虫を分類学的に検討したところ、新種であることがわかりました。この線虫は越冬中の女王バチの体内に侵入し、越冬明けに女王バチの卵巣の発達と巣作りを阻害して、キイロスズメバチの巣の数を減らしていると考えられます。
どんなにスズメバチが多くいる巣でも最初はたった1匹の女王バチから始まります。そのため、寄生線虫によって女王バチの巣作り数を減らすことは、その後に増加するスズメバチの数を減らす上でとても有効です。
論文表題:The first record of infection and sterilization by the nematode Sphaerularia in hornets (Hymenoptera, Vespidae, Vespa) (スズメバチ属のスフェルラリア属線虫による感染と不妊化についての初めての記録) 著者名:佐山勝彦・小坂肇(北海道支所)、牧野俊一(森林昆虫研究領域)
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![]() 写真1 越冬後に巣作りを始めたキイロスズメバチの女王バチ 写真2 線虫に寄生されたキイロスズメバチ女王の腹部を開いた状態。白い粒の詰まった細長い袋(矢印)のように見えるのは線虫の生殖器官。この線虫の仲間は、生殖器官が線虫本体の千倍ほどの大きさに肥大する。
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